「住」だって自分好みに!

先週、出版したリノベ体験記に関して、多くのポジティブなフィードバックをいただきました。

徹底的に考えてリノベをしたら、みんなに伝えたくなった50のこと
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特に嬉しいのは、
・リノベ業界で働いている方から「業界人必読!」とか「お客さんにも勧めたい」とおっしゃっていただけたこと

・リノベに関心のない方からも「これは仕事術の本」「大きな予算を伴うプロジェクトの進め方について示唆に富んでる」という声がでるなど、この本がリノベ本の顔をした「隠れビジネス本」だと理解されたこと

・「等価値交換取引と共同プロジェクト型取引」という、この本の骨格となる考え方の重要性が伝わってること

・リノベできなくても、「生活動線に合わせてモノや家具を配置するだけでも、生活の生産性が大幅に向上する」と、多くの方が気づいてくださったこと。

などなど。いずれも、本の企画を始めたときから念頭においてきた目的だったので、その意図を読み解いてくださった読者のみなさんに本当に感謝です。


さて!

今日はリノベの関連トピックとして、「住」の現在位置とこれからの課題について書いておきたいと思います。

よく「衣食住」と言いますが、このうち衣と食については、個々人の嗜好に合わせた多様化が高いレベルで実現しています。

「とにかく肉!」な人もいれば、ベジタリアンやビーガンの人もいる――食に関しては 180度異なる食事もごく普通に選べるのが今の日本です。

衣に関しても同じ。以前は「働くならビジネススーツ」でしたが、今はスーツを着ない仕事も選べるし、女性であっても「一生、スカートもハイヒールも着る気(履く気)ないです」が許されるようになりました。

みんな自分の好みに合わせ、それぞれが「かっこいい」「心地よい」と思える服を選べる時代です。

そんな中、「住」に関しては未だ画一的な箱モノに、人間のほうが合わせなくてはならない状態が続いています。

若干、バリエーションが出てきたのは単身の若者向け住居で、シェアハウスや極小賃貸、デザイナーズ物件といった選択肢もでてきましたが、

まだまだ一般的に賃貸されているアパートやマンションの間取りは、1DK, 2LDKなど極めて画一的です。

一番ヒドいのが新築マンションで、間取りはもちろん内装までほとんど同じ。

最近増えている「リノベ済みの中古マンション」だって、よく見れば似通った内装デザインばかりで、おしゃれではあるけれど、画一性という意味では新築マンションとたしいて変わりません。

なんで「住」だけは、こんなに画一的なモノしか手に入らないのか?


理由は簡単。

「高いから」です。

食事は安ければ千円以下、洋服だってせいぜい数千円から数万円。それなのに自分オリジナルな住まいを手に入れようとすると、

「まず不動産を買ってください」と言われ、数千万円の出費を余儀なくされます。

そうなると数十年に渡るローン(借金)が必要となり、「自分好みの「住」を手に入れるため、人生を縛るような借金までする?」という重い決断を迫られる。

これでは「しゃーない。既存の住居に合わせて住むか・・・」と諦めてしまう人がでるのも当然。


でも!

リノベだけなら数百万円と、不動産を買うのの 10分の 1なんです。さらに DIY的な改修やリフォームなら、100万円ほどでもかなりのコトができる。

それくらいの額なら(日々使い、かつ 10年以上の効果があるものなのだから)お金をかけてでも「入れ物=住のほうを、自分の生活に合わせて変えたい!」と考える人はいるはずです。

そう考えると、やっぱ「賃貸でもリノベやリフォームができるようになる」というのが理想的な解決の方向なんだよね。


実はこの本を紹介してくださった勝間和代さんも「賃貸物件をリフォームして 10年住んでいる」と言われています。

これ、すごく重要なポイントを含んでいます。

それは!

「賃貸だって、自分でリフォームすれば、人は10年以上、そこに住む」ってこと。

賃貸は 2年ごとに更新料がかかる物件も多く、その機会に引越を考える人がたくさんいます。

でもね。物件の大家さんにとって一番うっとおしいのは「入居者が退去してしまうこと」なんです。

入居者が退去すれば、
・次の入居者が決まるまで、家賃が入ってこない
 (その間も、建築費や物件購入費のローンは払い続ける必要がある)
・次の入居者を探すためには、清掃費や壁紙張り替え代金がかかる
・次の入居者を探すために、不動産屋に広告料を払う必要がある
時には、
・次の入居者が決まれば不動産屋に手数料を払ったり、フリーレントという割り引きを提供しなければならなくなる
など、
ものすごく負担が大きい。

それなのに 2年ごとに更新料をとって、入居者に「退去のインセンティブを与える」なんて、矛盾してない?


むしろ「事前相談は必要だが、自分好みのリフォームを認める」という条件にしてしまえば、

・そういう物件は少ないので、市場での差別化要因にできる、だけでなく、
・入居者募集のために、大家負担で壁紙を取り替える必要がなくなり、かつ
・自分好みの壁紙を自分の費用で張り、自分の生活動線に合わせた収納を(自分の費用で)作り付けた入居者は、短期間では退去しない
という、いい影響があるはずなんです。

 別にすべての賃貸がそうなるべきとは思いませんが、築年数の進んだ古い物件を中心に、せめて「 3分の 1の賃貸物件はリフォームOK !」になってもいいと思うんだけど、

なんでそーならないの!???

★★★

理由はいくつかありますが、根本的な理由は大家側にも入居者側にも「家に合わせて暮らすのではなく、自分の生活スタイルに合わせるために、家のほうに手を入れる」という発想が足りないからです。

さらに深掘りすればそれは「自分に合わせた家が、(家に合わせて暮らすより)圧倒的に暮らしやすい」という実体験が欠如しているからでしょう。

だってほとんどの人は、「自分の暮らし方に合わせて、家のほうを変える」という経験をしたことがありません。

新築マンションを買う人も、建て売り一戸建てを買う人も、「既製の箱」に自分の生活を合わせています。

「家のほうを変える」経験をしているのは、私のように徹底的に考えてリノベをした人と、注文一戸建てを(ハウスメーカーのプランから選ぶのではなく)オリジナル設計で建てたことのある人だけです。

てかあたしでさえ、今回リノベして初めて「ここまで暮らしやすくなるんだ!」と驚いたくらいです。


だから、それがどれくらい暮らしやすいか、分かってる人がまだまだ少ない。

でもね。よく考えてみてください。
全員が同じような食事をし、全員で同じような服を着てる世界を。

それに比べれば、自分で好きな食事を選び、自分で好きな服を選べる暮らしは、圧倒的に気持ちよいでしょ!?

住まいだってそうなんです。ホントは。

★★★

昨今は自動食器洗い機やルンバのように、生活の生産性を上げるための機器が大人気です。

でも今回リノベをしての感想は「自分の生活に合わせて間取りや収納位置を変えると、それらより遙かに大きな生産性の向上を実現できる」ということです。

共働き家庭が増え、人手不足が顕著になっているこの国で、生活の生産性を上げることはホントに大事なはず。

なのにそうしたいと思ったら、「まずは不動産を買うための数千万円が必要」なんて状態がいつまでも続くのは、

おかしいよね!?


もちろん最近は「賃貸でも、リフォーム可能」な物件も少しずつ増えてはいます。

当たり前だよ。

一戸建てだけでなく、アパート、マンション含め、空き屋がどんどん増えてるんだから。


では、この流れを加速するためにはどうすればいい?

実は普通の人にも簡単にできることがあります。

それは賃貸アパートやマンションを探すとき、不動産屋さんに「リフォーム可能な物件はないですか?」と聞くことです。

もしくは気に入った物件の大家さんに直接「こういうリフォームをすることは可能ですか?」と聞いてみること。

答えが「ないです」や「ダメです」でもいいんです。

そう聞く消費者が増えれば、そのうち「どうやらそういうニーズがけっこう強く、市場にあるらしい」と、不動産屋や大家コミュニティに浸透し始めます。

するとすぐには実現しなくても、そういう質問をする人が増えるだけで、みんなの意識が少しずつ変わってくる。

てかね、

そういう行動からしか何も変わらないんです。

もちろん、もしもあなたが古い物件の大家さんで、かつ、入居者を探すのに苦労しているなら、家賃を下げたり不動産屋に払う広告料を増やすだけでなく、「入居者によるリフォーム応相談」という条件をアピールしてみたらどうでしょう?


というわけでこの本。

「家に合わせて暮らす」のではなく、「自分に合わせて住まいのほうを変える」ことの意味や価値が実感できる本になってます。

そこんとこ、どうぞよろしく!



そんじゃーね!

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