観光誘致 Visit Japan

キューバの観光産業政策が結構上手そうよ、という話を数日前に書きましたが、ちきりんが一番最初に、観光産業って努力の問題なのね、と思ったのは、20年前にヨーロッパに行った時です。

観光客が一番多い国ってどこだか知りませんが、まあ、フランスとかイタリアとか多そうですよね。でも、この二つの国の観光産業政策は、すごーく違うと思った記憶があります。

フランスってのはすごい努力している。でも、イタリアは“ローマがあったから”観光が基幹産業になっている、という感じでした。

イタリアは、“持って生まれたもので勝負”していて、フランスは努力の賜だと思えたのです。同じように巨大観光産業が存在する国なんだけどね。

一番違いを感じたのは美術館の開館時間です。

パリにはルーブルを始め様々な一流美術館があるんですが、ほぼ毎日、どこかの美術館が順番に夜の 9時とか 10時くらいまであけています。普通は夕方 5時とか 6時に閉まるんだけどね。

もちろんフランス人で働いている人もこれで行きやすくなる、ってのはありますが、別にパリの美術館は土日が平日よりすごーい混むわけではない(平日も観光客で混んでる)から、この開館時間の設定はパリの人向けというより観光客向けだと思います。

そうすることによって、例えばパリにごく短期間(二日とか)しか滞在しない観光客でも、有名美術館を見やすくなる。

もっと端的に言えば、ツアーを設定する旅行会社にとって日程設定の自由度がすごく高くなるんです。しかも美術館の休館日も全部ずらして設定されています。月曜日など、特定の曜日に一斉に閉まったりしないんです。

パリの市内に車をいれない道の工夫もよくできていますよね。

ダイアナ妃が事故死したのは、パリをぐるりと囲んでいる首都高速みたいな道路ですが、この道路のおかげで町中で車が混むことが少ない。ロンドンとは大違いです。

地下鉄の切符の 10枚回数券や一日券、7日券など、短期滞在者で地下鉄を多用する人への配慮もあります。

これってお金の問題ではないのです。フランス語でいちいち駅名を言って(もしくは、機械でボタンを探して)切符を買うのは、フランス語のできない大半の観光客にとって大きな負担です。

回数チケットを買うことでこの負担がいらなくなるから、フランスの地下鉄ってすごく乗りやすい。

観光バスツアーだって、あんなに多彩な国って少ないと思う。

工事中のビルを隠す布に、その建物の巨大な絵を描いたりと、景観にも気を遣ってる。

セーヌの橋を始め、夜は様々な建物をライトアップするし。全部が全部観光客のためではないにしても、とにかく“街自体の魅力を上げる”ことには、それなりの努力をしている。


一方のイタリアはまったくもって自然体です。

ピサの斜塔とかよく手すりもなくあんな傾いた塔に上らせるよな、っていうくらい危ない感じだし、ローマはスリと詐欺だらけのままずうっと放置されているし、気を付けないとすべての美術館が閉まっていたりする曜日がある。

今のままのイタリアが好きな人だけ来ればいい、って感じです。それでも「過去にローマ帝国であった国」っていう事実が大きい。まさに“腐っても元ローマ”です。

日本の温泉地とかもそうですよね。

バブルの頃に法人の社員旅行やら接待ツアーやらで努力せずして儲けることを覚えた多くの都市近郊温泉地。バブルがはじけた後は、努力したところだけが生き残るって感じになっています。

箱根なんかはすごい工夫をしている。一方、熱海はこのままじゃあ変なキャバレー旅館の街になってしまいそうな勢い。

海のそばの温泉資源で、しかも駅前に新幹線まで停まる、などなど、もともとは熱海の方がよっぽど条件的に恵まれているのに。


あと、観光産業に関しては中国はしたたかだなと思いました。

敦煌とかに行っても“ある程度”は見せるけど、“できるだけ良い物をみせよう”って感じはしません。

日によってガイドによって見られる窟が違うし、コネもまかり通るし、まだ全く整備が進んでなくて見学できない窟もたくさんある。

楼蘭なんて未だに舗装道路もひいて無くて、普通の観光客が行くのはほぼ無理です。

彼らを見ていると「中国にはものすごい歴史遺産がたくさんあるので、ほーんのちょっと整備したら外国人観光客が押し寄せてくる。だったらそれで十分でしょ。それ以上の努力は不要でしょ」と考えてるっぽい。

国中を開発中でお金はいくらあっても足りない。観光客はある程度来て欲しいけど、ある程度来てくれたら、もうそれ以上の努力は、今のところしません。そういう態度に思えます。

観光産業が基幹産業のフランスやイタリアとは違う。中国は観光産業も大事だけど、それを第一産業にする気は(今は)なさそうだから、まあ妥当なやり方と言えるでしょう。


アメリカなんかも観光客は沢山くるけど、それを基幹産業に位置づけるって気は毛頭ないでしょう。それより“世界一位”になれる産業がアメリカには沢山あるから。

で、日本です。

最近やたらと観光産業振興で(政府は)盛り上がってます。国も東京都もね。

これどういう意味か。

今までは日本も観光産業なんて“まあ、日本が好きな(物好きな)人がくればいい”という感じだった。他に自信のある産業があった。

でも、だんだんそれが???になってきた。で、やおら観光客誘致の話が盛り上がってる。でもまだまだ努力も知恵も足りないって感じかな。

国際線飛行機や海外の一部で流れている小泉首相の観光CMは笑えます。

韓国の観光CMはトップスターのイビョンホンとチェジウのCMですよ。小泉首相は日本人には人気があるけど外国人観光客に人気あるわけではないでしょ? 

特にアジア人観光客には靖国に参拝する彼に反発を覚えてる人も多いのに、なんで彼を観光の目玉にする? センス悪すぎです。


成田あたりには中国語や韓国語の表示がすごく増えました。それはいいでしょう。

でも、あの地下鉄の変な数字のシステムは意味不明。日本人がわかりにくい数字システムが、本当に外人にわかりやすいのかな?? 

JRの外人向け切符も、のぞみが増えてから圧倒的に使い勝手が悪くなってる。国を挙げて観光誘致をしようとしていても、各企業の動きが???だったりする。

このちぐはぐさは、プロジェクト・マネージャーの機能を果たしている人がいないことによります。各企業や各場所が勝手にいろいろやっていて、全体を通して考える人がいない。

日本には“観光省”がないでしょ。それがすべてを表してる。

観光をちゃんとした産業として成り立たせたいなら、それくらいのことは必要でしょう。観光産業ってすごくいろんな業界を含む大きな産業だし、ライバルも多いんだから。

ターゲットはだれか、その人達のニーズはなにか、ライバルはどの国なのか、観光産業にも普通の“事業戦略”が必要です。“ようこそ日本へ!”だけでは動きません。

小泉首相の Visit Japan CM・・・まっ、まだ始めたばっかりですからこれからなんだろうけど。

ちきりんは日本の観光産業は結構ポテンシャルあるとは思っています。

日本は人口減るんだし。でも、これもまた“まじめにやらないと”生半可には成功しない。そう思います。

観光省作ろーぜ!



ではまた明日〜


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