“お気に”なドラマ

相変わらず韓流ドラマにはまっているちきりんですが、ここずっと“涙・ナミダ”しながら見ているのが、「ソウル1945」というドラマ。

舞台は文字通り1945年前後のソウル(日本が占領するこの時代の呼称は“京城”)を舞台にこのドラマには5種類の人たちが出てきます。


a) 普通の人
日本人からの差別や搾取はあるものの、普通に暮らしている市井の人たち。


b) 貧民層
炭坑等で働かされ搾取される下層民。彼らが貧しいのは日本の占領のせいではなく、李氏朝鮮の王朝時代からずっと貧しいです。


c) 元朝鮮王族
李氏朝鮮の王族、貴族を含む特権階級。日本の占領時代においては支配階級ではないけれど、それなりに優遇されてる。


d) 親日資本家
日本に取り入り、日本人と一緒に朝鮮人から搾取する資本家達。“親日”と呼ばれ、ドラマの字幕には“親日する”という動詞まで出てきます。日本企業との合弁経営をしている資本家も多く、日韓併合のことを、「韓日大合同が成し遂げられた」などと評価します。彼らは、日本よりも共産主義の方を忌み嫌っている。まあ、本心から“親日”なわけはありませんが。


e) 独立運動家(一部、共産主義活動家)
「日本からの独立」を求めて戦う人達。この人達には思想的に2種類あって、一方はソビエトに支援され共産勢力になってる人達。こちらは、日本の支配だけではなく李氏王朝の支配も否定している。もうひとつは共産主義は支持せず、単に民族独立を求める人たち。


★★★

日本の朝鮮占領はご存じのように35年(1910〜1945と数えた場合)、実質的には併合前から始まっているから45年くらいです。

あまりにも占領期間が長いので、「生まれたときから、受けた全ての教育において“自分の国は日本である”と教えられてきた人たち」が多数存在します。

そういう人の中には独立運動に関心を持たず「こういう世界で、それなりに頑張ればいいじゃないか」という人もたくさんいる。「頑張って京城帝國大学に入って、高等文官試験にうかって・・」という道を目指す人とか。

もちろん一方には、“京城”という日本に押しつけれた名前を冠し、東京帝国大学をトップとする日本の教育システムの一環に組み入れられている“京城帝國大学”を目指すのが、民族のリーダーのやるべきことのはずがない、という考え方も当然として存在します。


そのうち日本が戦争に負けはじめると、彼らの中にもダイナミズムがでてくる。あくまで日本が勝つと信じて(日本はソ連にも清にも勝った国なのだから・・と)、親日することを続ける人たち。

いや今度は日本は負けるぞ、と考え始める情報通の人もいる。次の世で生き延びるため、日本との合弁会社を解消したり、軍需工場を他人に譲って“親日の証拠”を消し、「戦犯」になることを避けようとする。避難させる意味で息子を海外に留学させたりね。

反対に、「日本が負けた時こそが、悲願の独立のチャンス!」と待ちかまえる人もいる。夢が実現されるのだ、と。


そして遂に戦争は終わる。日本が負ける。朝鮮の人は狂喜乱舞する。夢のようだ。あり得ないと思っていたことが実現する。「日本から解放される!」のだ。

「半島の人、全員が同じ感情を共有するのが、“この一瞬だけ”であったこと」が、なんとも皮肉だ。


一方、「親日していた人たち」は恐怖におびえる。民族の独立は嬉しい。しかし・・彼らは血祭りにあげられることにおびえ、すぐに次の動きを考える。誰のもとに結集すべきか?彼ら、資本家と元王族の答えは明確だ。

絶対にこの国をソ連(共産主義勢力)に渡してはならない。そうなったら、資本家も王族・貴族も財産どころか命を失うだろう。なんとしてもアメリカに助けてもらわなければならない!!!


というわけで、ここに3つの勢力が誕生する。

(1)アメリカに助けてもらおうと考える特権階級(資本家、旧王族貴族)
(2)独立を求める活動家
(3)日本にも特権階級にも搾取されたくないと考え、中ソの支援を得て共産主義を目指す人達


南北戦争は(1)と(3)の間で起った。民族の悲願はおそらく(2)であったのに・・

★★★

ドラマには何名かの若者が登場する。

男性のメインキャラは、

1.李氏王朝の子孫であるドンウ

2.下層民の生まれだが、頭が良く京城帝國大学を主席で卒業するウンヒョク。民族独立、南北分断阻止の思想を支持してる。

3.同じく下層民の生まれだが、親日することでのし上がろうとするチャンジュ。戦後は親日の過去を隠して、時の政権にすり寄ることで下層から抜け出そうとする。

4.親日資本家を兄に持つが、貧富の差に嫌気がさし、共産主義支持者となるムン・ドンギ。

どれも“ありそうな”設定でしょ。


女性の登場人物は二人。

1.ソッキョン。元々貧民層であった父と下女であった母は、徹底した親日活動で大金持ちにのし上がる。その結果、ソッキョンは令嬢として育つ。戦争後、親日の罪を責められた父が自害(腹切り!)。共産勢力を忌み嫌う。

2.ヘギョン。貧民層の女性。政治的にはなんの色も主張もないが、愛し合うウンヒョクが北に逃げざるを得なくなり引き離される。


一番下のヘギョンと、上にでてくるウンヒョクが相思相愛なのだけど、ウンヒョクは次第に政治に巻き込まれていく。もともとはヘギョンと幸せに暮らそうと思ってるんだけど、彼にはやっと日本から解放された朝鮮が、南北に分断されることが耐えられない。

京城帝國大学を主席で卒業したエリートの彼は、民族のために戦う人生と、愛するヘギョンと平凡に暮らす人生のいずれを選ぶのかで激しく悩みます。ヘギョンも、愛する人に、信じる道を歩んで欲しいと思いつつ、平凡に自分の側にいてほしいという気持ちも捨てられない。

結局、ウンヒョクは、民族のために戦う人生を選び、ヘギョンに別れを告げます。そして地下組織へ。


涙涙で本当に切ないドラマです。こういう「世の中の大儀のために戦う人生」というのを目の当たりにしたことがないので、実感としてはわからないけど。

昔は日本にだって同じような人がいたのでしょう。軍国主義に反対した活動家の中には、個人としての幸せを犠牲にすることを選んだ人たちもいると思う。韓国、日本だけじゃない。世界中に、歴史の変わり目のいろんなところで、そういう決断をした人がいると思います。

愛する人というのが恋人の場合もあるだろうし、子供や親の場合もあるだろう。とにかく、自分の大事な人が、そういう決断をしたら?


どうっすかね、みなさん。

自分の一番大事な人を思い浮かべてください。奥さんでもご主人でも子供でも親でも恋人でも。もしくは、“自分”でも。

その人との、慎ましいけど幸せな生活が目の前にあるのに、何かの大儀のために、それらをすべて捨てて、違う世界に入っていくって、どういう感じかと。


民族のために家族や幸せな人生を捨て出ていこうとする息子に、ウンヒョクのお母さんも泣き叫びます。「なんでお前が朝鮮のために人生を捨てなければならないのか?」と。「アメリカでもソ連でもいい。分断はどうせ起こるのだ。お前はここにいておくれ」って。

これ、特攻隊にとられるよりつらいと思う。だって誰かの意思ではなく、自分の息子の意思だもの。いとこくらいなら「エライねえ。誇りに思うよ」と言えるかも。でも息子や恋人だったら、勘弁してよ、と思うのも自然なことだ。「あんたがわざわざやらなくても、誰かがやってくれるわよ」と言いたくなる。


ほんと切ないドラマです。



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