だれが勝ち組だって?

コムスンの折口会長なんですけどね。よく知られているように、父親の事業失敗で、小さな頃、豊かな家から急に貧乏になってるんだよね。

私立大学を卒業しながら「小さい頃、うちの実家は貧しくて・・」とか言ってる人も世の中にたくさんいますけど、この折口さんは経済的な問題から“公立高校”に進めず(国立大学ではないですよ、公立高校に合格してたのに、です。)、授業料が無料の陸上自衛隊少年工科学校にいってます。

皆さんの15歳って、どんな生活でしたか。家計のこととか考えたことありますか?ちきりんは全くないです。15歳くらいだと「お小遣いもらう生活」です。「高校生になったら、お小遣いあげてくれる?」って親にねだったりしてました。

その15歳です。彼が経済的な理由で公立高校を諦め、“自衛隊少年工科高校”に行こうと決めたのは。いや、決めたときは14歳か。


一方で、今回のコムスンの不祥事にたいして、「こんな奴には、そもそも介護業務をやる資格がないんですよ。国が問題ないと言ったとしても、我が県内においては、コムスンにもその子会社へも、介護事業の申請は一切許可する気はありませんよ、僕は!」とテレビで大声で主張していた“正義の知事”、和歌山県知事の仁坂吉伸氏の経歴は下記です。

和歌山大学教育学部附属小学校
和歌山大学教育学部附属中学校
桐蔭高校
東京大学経済学部
通商産業省に入省
ブルネイ国大使と
社団法人日本貿易会専務理事を経て、
平成18年12月 和歌山県知事

すばらしいですね。
田舎で国立大学の付属の小学校行くって、親御さんも教育熱心だったんだろうね。

★★★

折口さんは、現在、田園調布に7億円のプール付きの家をもってて、この前ロールスロイスを買ったと言って喜んでいた。

一方、介護を担当する大半の人は月に14万円程度の手取りであり、とても食べていける年収でないことが問題視されている。コムスンのもう一つの事業である人材派遣業も「ワーキングプア製造事業」とも言える。

この対比をもって、「こんな奴に介護をやる資格はない」と言う人がいる。


それをどう思うのだ?と問えば、折口氏はこう答えるだろう。

月収14万円の仕事がきついなら、毎日携帯でその日暮らしの仕事を探し、ネットカフェで暮らす毎日がつらいなら、自分で努力しろよ。自分で工夫しろよ。なんとしても、のし上がってこいよ。

と。


★★★

ヒューザーの社長と、姉歯建築士の生い立ちについて前に書きました。同じ気持ちだっただろうと思う。

世の中はこういう人たちに「まともに勝負する」ことをなかなか許さない。彼らは必然的に危ない橋を渡ることを、誰もとらないリスクをとることを迫られる。「まともな生活をするために」だ。

一方で、親の言うことを聞き、先生の言うことを聞き、普通に努力していると、「まとも以上の生活が、当然のように手に入る」人も存在する。



7億円のプール付きの豪邸と、14万円で重労働を強いられる介護士。

経営者としてどうなのか?と思う人は、ちゃんとキヤノンについていも、トヨタについても、同じことを問うべきだ。

ファーストクラスで出張し、ダボス会議出席のために数十万円のスイートルームを予約する人が経営する、「日本的雇用を守っている」すばらしい我が国を代表するそれらの企業の、その工場では、「偽装請負」契約でワーキングプアから逃げ出せないようにきつーく縛られた人たちが何万人も働いている。それでもその大企業の経営者の資質は問われないのか?


いやそりゃあ、じっくり考えれば同じ構造だけど、んだけど、いいのさ。とにかく折口は叩いてつぶしてしまえ。生意気で目つきが悪くて若いからね。それに「育ちもよくないし」。

そーだ、そーだ、大賛成!

って、そういうこと?

★★★

前にも書いたように、介護保険の仕組み自体がばかげた設計をされていて、これは破綻すべくして破綻する制度だ。介護士の給与が低いのは制度設計の失敗が要因だ。

フリーターがフルタイムで就職できない責任だって、派遣業を始めた起業家の方にあるんだろうか?経団連の大手企業に頼まれて派遣法を作ったのは折口さんら起業家ではないでしょ?寧ろ、経団連の大企業が政治家と官僚に強力に働きかけてあの制度を作ったのだ。

そしてそれらの法律や制度を作った側の人は、誰も14歳の時に高校に行く経済力が問題となるような家庭では育っていない。そうではなく彼らは、自分が幼稚園の頃にお父さんまで仕事を休んで面接に同行してくれて地元の名門国立付属小学校やら私立小学校やらに入れてくれる家庭に育っている。


そうやって育った彼ら経団連大企業の皆様は、実際にそれらのワープアな人達を募集したり雇用するという仕事は彼らの会社では直接は行わない。そういう“汚れ仕事”は、別のやつらにやらせておけばいい。そういうことだ。



この人=折口氏、ちきりん好きではないのです。

寧ろ嫌いなタイプです。けどね、でもね、それでもちきりんは、「自分が14歳の時に、公立高校にいくお金もだせない家庭環境で育っていたら」きっとえらそーに「あいつには経営者の資格がない」などと言い放てるような人生は得られていなかったと思う。

ちきりんが常に感じざるを得ない、「今持っているものの大半は自分で手にいれたものじゃない」という感覚。それが彼のことを非難するのをどうも妨げる。


世の中のラベリングが大好きな人たちは言う。「勝ち組・負け組」とね。折口氏はどっちなの?7億円の豪邸を持つ、勝ち組なんですかね?


これも不思議な感覚だ。ちきりんに言わせれば、彼こそが「負け組」のシンボルのような人生を送っているようにみえる。

のし上がろう、のしあがろうとしても、抜けだそう、抜け出そうとしても、既存の勝ち組達が頭を叩いてくる。叩かれて、のし上がってきた道の倍以上の距離をまた突き落とされて、すると次に上がってくる時は、またひとつ危ない道を選ばざるを得ない。


この人を勝ち組と呼ぶ人の気が知れない。



上記に書いた和歌山県知事の“すばらしい”経歴をもう一度見てみてください。

この経歴なら、貧しい人にも、負けてしまった人にも、能力のたりない人にも、ハンディを背負った人にも、子供の頃からずうっと、ひとりにも触れずに育ってくることさえできただろう。(実際には知りませんけど。)

恵まれた環境に育つこと自体は、もちろんその人の責任ではない。でもね、自分が想像できない世界があるかもしれないという、そういう感覚なしに組織の長という立場にたつのはどうなんかね。とも思う。


勝ち組ってのは、こっちのことを言うのではないの?と思う。



あの和歌山県知事の「勝ち誇ったような」「嬉しそうな」コメントを聞いた瞬間、テレビを思わず凝視しちゃったちきりんです。

県民が被害を被ったというのに、お年寄りが不安になっているというのに、彼の声には、なんともいえない「嬉しそうな」響きがにじみ出ていたから。んで、思わず経歴を調べてしまったのでした。

そしてわかったの。この人、何が嬉しいのか、って。


じゃね。