年金も消費税も5年後に考えるべきだよ

下記のグラフをご覧下さい。

赤い棒グラフは、戦後すぐからの日本人の出生数を表しています。(縦軸の単位は“人”)

戦後直後の 3年間は毎年 250万人以上が生まれ、3年で 750万人以上が生まれました。これがいわゆる“団塊世代”です。

出生数はその後から急激に減り、1966年の“丙午”に大きな落ち込みを見せたあと、戦後 2回目となる出生数のピークに向かいます。

2回目の出産ピークは団塊世代の子供達で、“団塊ジュニア”と呼ばれます。その(=団塊ジュニアの)ピークは 1973年。



一年に生まれる赤ちゃんの数は、その後ものすごい勢いで減りはじめ、赤い棒グラフは急激に短くなります。

団塊ジュニアのピーク時出生数は 209万人なのに 2007年の出生数は 109万人。この 35年で「一年に生まれる赤ちゃんの数」は半減したわけです。


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さて、その出生数、実はここ 15年くらい減り方がやや緩やかになってるの、わかりますか?

赤い棒グラフを見ると、直近の 15年は減少幅がなだらかですよね。

団塊ジュニアのピークからジェットコースターみたいに一気に減ってきたのに、ここ 15年は“横ばい”にさえ見えます。少なくとも激減ではありません。

これは少子化が止まった、もしくは、少子化対策の効果がでてきた、ということでしょうか?

未婚者、ディンクス、もしくは、一人しか子供を産まない夫婦が一定数に達したため、少子化も“底を打った”のでしょうか?

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ここで青い折れ線を見てください。これは出生数を“ 25 年分”だけ右にずらして書いた線です。

赤い棒グラフのトップラインだけをつないで、25年分右にずらすと青い線グラフになります。

これにより、それぞれの年に生まれた人の数(赤い棒)と、その年に親になり始める年齢(25歳と仮定)に達した人の数(青い線)が対比できます。

親が増えれば当然子供の数が増えます。戦後すぐの 1945年直後に生まれた大量の団塊世代は、1970年以降 25歳となり親になり始めました。だから、そのあたりで二番目の山ができているわけです。


さて、ここで皆さんも気がつかれると思います。1973年には 200万人以上の“団塊ジュニア”が生まれており、彼らは 1998年には 25歳です。

実際、1993年から 2002年くらいにかけて、青い線は大きな山型を描いています。

ところがその山の下の赤い棒グラフには山がありません。青い線で表される親は“団塊ジュニア世代”でかなり多いのに、子供の数が増えてないのです。


なぜでしょう?


グラフをよく見ればわかりますよね。「 2000年あたりには出生数の山はないけれど・・・子供の数の減少ペースが、“急減”から“漸減”に変化している」でしょう?

最初にも書きましたが、直近 15年くらいは“出生数の減り方がなだらか”になっています。この理由はまさに「団塊ジュニアが適齢期となり、親世代の人口が増えたから」です。

別の言い方をすれば、戦後すぐに生まれた団塊世代は団塊ジュニア世代という「山」を作りましたが、

その団塊ジュニア世代は、「草原」を作ってくれたというわけです。

「谷を草原にまで埋めてくれた」という意味ではちゃんと「山」はできていた、とも言えます。

もしくは、「戦後 3回目となる団塊ジュニアの出産ピークには、もはや山を作る力は無く、せいぜい谷を埋めて草原にすることしかできなかった」と言うべきでしょうか。

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さて、もういちど赤い棒グラフに戻りましょう。

団塊ジュニアの後のジェットコースター的な出生数の下降ラインは 1978年くらいから始まっています。

ということは、1978年 + 25年= 2003年あたりから、もっと深刻な少子化が始まっていてもおかしくないのに、実際には赤い棒グラフの数字は 2003年以降も「緩やかな減り方」です。

ふたたび親の世代が急激に減り始めたのに、なぜ子供は少しずつしか減っていないのでしょう? やはり少子化も底を打ったのでしょうか?


ここで次のグラフをみてください。



今回追加した緑の点線は、赤い棒グラフのトップラインを「 35年」右に動かして(一時期のみ)表示したものです。

ご存じの通り、戦後や 30年前に比べて今は、親になる年齢が遅くなっています。結婚も遅くなっているし、それに伴い、第一子をもつ親の年齢も高くなっています。

前は「 25年で親」になり始めていたのが、今は下手すると 35歳で親になり始める。7年から 10年程度、親世代を表す線を右にずらす必要があるわけです。

つまり、青い線が緑の点線に移行する過程は “晩婚化・親になる年齢の高齢化” を意味しています。


そしてこうすると、なぜ 2003年頃から急激な少子化が起こるはずなのに、そうなっていないのか、わかります。

結婚や出産を先延ばしにしてきた団塊ジュニアが、30代半ばでいわば“駆け込み出産”を始めたために、再度起るはずの急激な少子化傾向が先延ばしされているのです。

このため、親の数が急減してるにも拘わらず、ここのところの少子化は「わりとゆっくり」進行しているというわけ。


が、団塊ジュニアもいつまでも出産できるわけではありません。医学が進んだとはいえ、女性が出産できる年齢には一定の限界があります。

団塊ジュニア世代が出産年齢を超えれば、その後には「親となる年齢の人口自体が急激に減る時代」がやってきます。


ではその、ジェットコースターのような急激な少子化が再び始まるのはいつになるのでしょう?


赤い棒グラフを見ると、団塊ジュニアの山の後の「ジェットコースター的急激な少子化」は、開始年が 1979年、終了年が 1989年くらいです。

この人達が 35歳になるのは、2014年〜 2024年です。

青い線や緑の点線が示すように、その頃になると親世代の人数は 130万人未満にまで落ちてきます。

私はその頃から、再び、世界が驚くようなスピードでの少子化が始まると予想しています。


繰り返します。

少子化傾向がここ 15年ほど“少しだけゆるやか”になってきていたのは、(少子化対策が成功していたからではなく)一年に 200万人もいる団塊ジュニア層が結婚出産の “駆け込み適齢期”になっていたからです。

しかし次の時代、つまり 5年後から15年後にかけては、親の数自体が一年分の人数で 130万人くらいまで下がってきます。

親年齢の世代が 200万人いても最近の出生数は約 110万人なのですから、親世代が 130万人となれば、子供(出生数)は 70万人というようなレベルになっても全く不思議ではありません。


もしこの予想が正しければ、消費税の引き上げも、年金制度の抜本改正も、大事なことは、この“再度の出生数の急降下”を前提として検討すべきです。

現在のような「一時的に収まっている少子化傾向」を前提に試算しても、将来に備えることはできません。

この赤い棒グラフは、いつまで“横ばい”を続けてくれるのか。いつ、ふたたび大幅な減少期が始まるのか。それが問題なのです。



そんじゃーね。


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