日本の技術は圧倒的!!

HD-DVDとブルーレイディスクのデファクト争いの話には、いろいろ考えさせられる。

一番興味深いのは、「この次世代技術のデファクト争いに参加したのがほぼすべて日本企業である」という点だ。なんで、日本企業ばっかりなの?




<考える時間>




多くの日本人が「日本の技術は圧倒的なのだ。だから次世代技術の争いは常に日本企業だけの戦いになるのだ」って言う。

勝ったのがソニーと松下、負けたのが東芝。どうころんでも日本企業が勝つし、日本企業が負けるという構図。これを「日本企業の技術力は圧倒的!」と信じられる素直さが、ほんのちっとでも私にあれば・・・・・・ちきりんブログは存在しない。


サムソンにもLGにも、フィリップスにもアップルにも、そんな戦いに参加する技術力がなかったから、日本企業だけで争っているのだ、って。そうおっしゃるわけですか?


ふーん

へえ〜



ちきりんに言わせれば、こんな戦いに参戦しようとするのは、日本企業だけ、だからなんじゃないの?と思えるんだけど。

★★★

これを一昔前のベータとVHSの争いと較べる人も多い。そうね。構図は全く同じです。

(1)戦って、デファクトを争って、ハードの技術で勝つのも、負けるのも日本企業だけという点が同じ。つまり日本企業しか、この競争に参加してない。

(2)どっちを勝たせるかを決めるのが、米国のコンテンツ企業だというのも前と同じ

(3)そして、どっちが勝っても負けても、特許料を払ってハードを生産し、世界中で売りまくるのがサムソンとLGという構図も同じ。彼らはどっちの方式が勝っても大きな損はしない。



別の言葉で整理しましょう。

米国のコンテンツ企業は、全く財務的リスクを負わない立場でキャスティングボードを握る、という商売をやっており、

韓国のメーカーは、“デファクトがとれず多額のリソースを無駄にするリスク”も、“たとえデファクトをとれても、投資回収が間に合わないくらい短期間で技術の世代交代が起こってしまうリスク”もとらずに、インドや中国や南米など人口が爆発してる国でハード機器を売りまくる、という手堅い商売をやっており、

日本のメーカーは、5年だか10年だかという期間、大量のエンジニアのエネルギーと給与とサービス残業時間をすべて“賭け”に投じるという商売をやっている。


今回の技術の争いに日本企業だけが参加している理由を「日本企業の技術に他国企業がついてこれないからだ!」と読む人と、「そんなアホみたいな商売に参加したいと思うのは、日本企業だけ、だからでは?」と思うちきりん。


心根の素直さがちがうやね。ああ、ひねくれ者のちきりん。



この「賭けのような商売」を、「やってられない賭け」と見るか「賭けるべき」と見るか、その違いは、今回の技術がどれくらい“もつ”か、ということにたいする“読み”の違いにある。

オンデマンドで光ファイバやらなんやらでコンテンツが届けられるようになり、記憶媒体なんて要らんじゃん?という時代はまだまだ絶対こないと読む。データの圧縮解凍技術がめっちゃ進んで、そんな大容量の記憶媒体なんていらんじゃん??という時代はまだまだ絶対に来ないと読む。

その“読み”に対する自信が、日本企業は圧倒的に高いんでしょう。だから日本企業だけが次世代の大量記憶媒体デファクトの賭けに参戦する気になってんのでは? だって、3年後に大容量記憶媒体が不要の世の中になったら、今回勝ったはずのブルーレイ開発企業だって投資は回収できないんだよ。そうなったら両方とも負けです。

日本企業だけが「この賭はいける!」と判断したのは、前にそうだったVHSやCDがかなり長期間“もった”、という過去の経験から「過去もそうだったんだから、たぶん”BDもちゃんと長期間“もつ”と思う」みたいな思考停止的思い込みによるものではなく、ちゃーんと、きちんと考えて「ブルーレイ技術もVHSと同じくらい長い間もつ」と、そう判断してるの??


他国の企業が、この技術争いに参加してないのは、この“読み”が日本企業と違うからではなくて、本当に技術争いに参加する“技術力がないから”なの?



日本企業しかこの技術開発争いに参加していない理由は、技術力の高低ではなく、むしろ「どういう商売をするか」という経営判断の違いにあるのではないか? と、思えたりもするんですけどね。


他国の企業は、“こんな賭け商売”に(こんな“ビジネスモデル”と呼んでもいい、もしそういうカタカナがお気に召すなら)わざわざ経営資源を投下しようとしてないだけでは?

★★★

アップルなんかも全然違う商売の部分に乗り出してる。iPodに音楽入れるとデータ的にはスカスカにされちゃうわけで、ハイクオリティ音源を大量記憶媒体に入れて持ち歩いて聞きたい!という方向とは全く違う市場を彼らは選んでる。

パソコン事業を売り払っちゃったIBMもそう。勝ってる企業は「勝てる商売」や日本企業とは違う商売のやり方を選んでる、ように見える。

「自分の企業がとるべき商売の形はどれであるべきか」という判断が、日本企業には見られない。技術力でいいものを開発して売る、デファクトをとって特許料で儲ける、という過去に成功した商売のやり方を変えるということなど、考えたこともない。これからもずっと「同じ商売」でやっていくのだと信じてる。

たとえて言うとね、「どの種目にエントリーするか。どれにでたら確実に勝てるか勝ちやすいか」を考えてる人と、種目を変更するなんて考えもせずに、その種目しか存在しないと思い、そこで勝つための努力に疑問をもたない人との違い。


ちきりんは、結果として日本企業のこの分野の技術力が高い、ということは否定しません。実際そうなんでしょう。なんだけどね、HD-DVDもブルーレイも数人のエンジニアが1ヶ月頑張ったくらいでできあがる技術じゃないんです。

これらの開発につぎ込まれた“R&D投資額”は、“大量の技術者の数年分の給与”なわけで、「それだけのお金をこの開発につぎこむ」という“経営の意思決定”があったから、結果としてその部分の技術において「圧倒的な技術力」につながってるわけ。

だからね、「日本企業の技術力はすげえ!」と言ってるだけでいーのか? という気がするんです。

「そこで勝負すると決めた経営判断は、そこに自社リソースを投入すると決めた判断は、正しいものだったのか?」と、問わなくていいんでしょうか?


「他の勝ち方はないのか?」とか
「もっと得な勝ち方があるんじゃないのか?」とか
「こういう勝負の方法はどうだろう?」とか


そういう発想が無いような気がする。それが、気になるのだわ。



「技術立国」もいいし「技術の○○」もいいし「日本の技術は世界一」も、あまりに甘美だ。うっとりしちゃう。

マイクロソフトの技術なんてたいしたことないと多くの人が口を揃え、アップルが飛ぶ鳥落とす勢いなのが技術力の賜だと思っている人も多くはない。物作りをやめちゃうIBMなんて“メーカーの風上にも置けない”。サムソンがデファクト争いに参入してこないのは「やっぱり韓国メーカーの技術なんて、まだまだから」なんだよね?


ホントにホントにホントに??


日本企業は技術で勝負するのだ。次のデファクト争いでも、そう、HD-DVDとブルーレイの、その次の争いでも、勝つのも負けるのも日本企業だけ、かもしれない。



だって、日本企業の技術は圧倒的だから!