よくわかる“定額給付金”

定額給付金を巡る議論が楽しすぎる。


なかには「本当に景気浮揚に効果があるのか?」などと言っているまじめなのかアホなのかわからない人がいますが、そもそもこの施策の目的は景気浮揚ではありません。本来の目的は「自民党&公明党としては是非、選挙前に清き一票をお持ちの皆者に現ナマを配りたい」ということなわけで、その本質はずばり“選挙買収活動への公的資金注入。


だから「住民票の登録住所に引換券が送られるこの方式ではホームレスやネットカフェ難民など、本当に困っている人は給付金が受け取れない」とかいう指摘も意味不明。だって「選挙のお知らせが届く場所(=住民票住所)に定額給付金のお知らせも届ける」ことこそがまさに重要なわけで。むしろ“選挙に行かない人にはお金を渡さなくて済むすばらしい方法”なんです。

あと、麻生さんが「俺はもともともらう気がない」と何度も言っているのを「麻生さんは金持ちだから要らないと言っているのだな」と思っている人も間違ってるよ。あれは「俺はそんな金もらわなくても自民党に一票を入れる。そんな俺に買収資金を渡す意味はないだろ」ってことです。


というわけで、せっかくの“国民の税金を使っての自民党の選挙対策資金2兆円”、できるかぎり幅広く有権者に配る必要があるし、できる限り効果的なタイミングで配る必要があるし、できる限り民主党に批判されない形で配る必要がある。



まず最初の「できるだけ幅広く有権者に配る」という点からいう当然、全員に配りたい、というのが本音でしょう。減税方式ではなく給付金方式にするのは年金暮らしのお年寄り(多額の貯金があっても月々の収入は少ないので税金は払っていない)にも配りたい、ということであり、ワープア状態で自民党に怒り狂ってる若者達にもお金渡さなくちゃ、ということだよね。

有権者には幅広く、という意味では本当は所得制限なんかしたくないのだけど、それだと民主党からの「ばらまき」批判がかわせない。で、所得制限という話がでてきてる。

その所得制限、今でてる目安が「年収1800万円」だってのがホントお笑い。そんな年収の高い人何人いるの?って感じです。こんなところで線を引いても“払わなくて済む総額”は微々たるものだと思います。たぶん年収をイチイチチェックするための事務コストの方が大きくなる。つまり、税金はすごく無駄になる。(そういう無駄遣いの税金をまかなうために、3年後には消費税を上げるらしい。)

しかも、お父さんは年収1億円の社長さん!というおうちでも、その奥様と子供2人はちゃんと給付金がもらえるわけで、結局のところはバラマキなわけですが、それでも「一応、所得制限をした!したがってバラマキではない!」と選挙で言いたい。それだけ。

いずれにせよ「年収800万円」とかでは線は引けない。そんなところで引くと「失う票」が多すぎるから。自民党にとって、「今回給付をしない、と決めた人の票」はそのまま民主党に流れる、という覚悟が必要なわけで、「所得制限はするけど、もらえない人の数は極めて少数に抑えたい」というのが本音ということでしょう。



さて、タイミング。ばらまき批判を避けるために年収基準を入れたい!と考えたのはいいですが、事務の手続きに時間がかかるのは避けたい。なぜなら、これは「選挙前に有権者に現ナマを配る」というのが目的なわけですから、お金を配るタイミングは選挙のタイミングと密接に関連しています。

事務がたいへんでお金を配るタイミングが大幅にずれこんだら、選挙もその前後までできません。だから、「早く選挙してほしい」と思っている人ほど「年収制限は不要」みたいなことを言ってます。このあたりもそれぞれの人の“個別事情”が透けて見えてほんとおもしろい。



この年収制限をいくらにするかを地方行政団体に振ったのも超おもろい。もうすぐ再選を考えている市長は所得制限なんて絶対したくないだろう。しかも隣の市が所得制限をしない場合、自分ちだけしたりしたらアホみたいですよね。世田谷区は所得制限するけど杉並区はしない、では区長も区議も次の選挙がもたない。

それにそもそもこのお金は中央の財源から出るわけで、本来なら地方としては入ってくるお金を少なくする(しかも事務も大変になる)所得制限なんて誰もつけたくない。一円でも多く、自分の県や市に住んでる人にお金が落ちてくる方が得でしょ。なんで国が地元民に“くれる”といってるお金を、わざわざ余計な手間をかけてまで一部返却する必要がある?

なので、当面みなさん様子見(中央に睨まれたくないから)だけど、ほんとにこのままの制度で行けば事実上、所得制限なし、ってことになっていくんじゃないかと思います。


で、これはまた皆にとってハッピーなことで、自民党は一応「バラマキではない。所得制限を提示した。」と言え、実際には“地方の判断において”所得制限は行われず、票も逃さず選挙タイミングもそれなりにコントロールできる、と。

おーいいじゃん。

って感じですかね。




あと結構うまいよね、と思うのが、給付の仕組み。人口の少ない超過疎な村を除き普通の都市部では、住民票登録住所に郵送されたクーポンを市役所に持って行き、IDを見せて口座を登録して、でようやく還付されるらしい。でね、確実にいえることは「選挙にいかないよーな奴はたぶんこんな面倒な手続きをとらないだろう」と予測されてる、ってこと。

住んでる市から封書が届いても開封もしないで放っておく人たちってのはたくさんいる。そういう人たちの大半は選挙にも行ってない。そして今回もその封書を開けもせず、したがってクーポンを見つけることもない、と。票につながらない無駄金を使わなくて済むすばらしい方式だよね。



もうひとつ。今回うまいな〜と思うのが、65才以上と18才未満の人への加算金です。ひとり1万2千円なんだけど、高齢者と子供には8千円上乗せして2万円配る、というルール。これもね〜、ものすごく巧く設計されていると思います。

18才以下の子供がいる、特に二人以上いる、となると親の年齢はだいたい35才以上なんです。つまり、上記の“追加加算”により、基本的には若者よりも中高年以降の人に多くのお金を配ることができる、という制度設計になっています。これは、今までも書いているように“選挙に行く層”なわけで、この施策のそもそもの趣旨である「票を金で買う!」という点に照らして余りにもきれいに設計されてますよね。ほんと頭イイ人たちだ。



まあ、ちきりんとしては今回の施策、そんなに反対でもありません。結構いろいろ値上がりしてるし、国民に一定額のお小遣い配るのは悪くないかも、と思うし(国においとくよりいいでしょ)、お年寄りと子供に手厚いのも悪くない。財政赤字がっていう人がいますが、そんなんこんな規模でどーこーなる話じゃないし。

ただこんなややこしい仕組みにすると確実に「これをネタにした振り込み詐欺」が急増するわけで・・・総額2兆円のうち、1兆円くらいが高齢者に配られるじゃん。で、そのうち1割の1000億円くらいが振り込み詐欺されて若者に還元される感じかな、と思う。で、その1000億円の詐欺を防ぐために、警察が対策を強化するでしょ。その予算がだいたい2000億円くらいで、それが税金として増税される、と。さて、全体の国民負担はいったいいくらでしょう?と。そんな感じ?*1




というわけで・・どうせこんなあからさまなことするんだったら、もっと明確にしちゃえばいーんじゃないか、とも思うよね。たとえば「選挙に行った人に、投票所で1万円渡します。」とかね。おっとそれじゃあ与党にいれてない人にも渡すことになるからだめか。

じゃあ、「公明党か自民党に入れると約束した人に1万円渡します」ってのはどう?「麻生支持の人には8千円加算あり」で。

あと、給食費の滞納が多いそうだから、子供に関しては「学校にまとめて支給し、給食費滞納してる場合は相殺」とかどうかしら?

その他、「非正規雇用の人に一律3万円!」とか、「失業したら10万円!!」「できちゃった婚で2万円!!!」とか。どうせバラまくなら派手に行こうぜと。


こういうのブログ界隈で案を募れば山ほど楽しい案がでてきそうだけどな。「派遣切りをした企業の正社員には配布無し!」ってのはどうよ?


そういえば、アメリカの電話会社とかって「ライバル会社からうちに切り替えてくれると○○円」というキャンペーンがよくあるので、そういうのも使ってもいいかも。

「初めて選挙行く人に1万円!」
「今まで野党に入れてたのに今回は与党に入れるなら5万円!」
ええい、今まで共産党にいれてた人には、転向奨励金8万円だあ!」
みたいなね。



まあ、好きにやってください。なんせ「世帯ごとに現ナマ入り封筒を配る」ってのは創価学会が大好きな方法ですからね。頭痛いですけどしかたないです。


そんじゃーね。





追記)本当はお金は何に使うべきなのか?
こちらをどうぞ↓
http://d.hatena.ne.jp/Chikirin/20081202

*1:おちゃらけブログですから・・真に受けないように