“失業者”と“人手不足”が併存するわけ

不況でどんなに失業者が溢れていても、一方には人手不足業界が存在します。だから失業対策の話になるとすぐに「○○分野は人手不足だから、そこで失業者を雇えばいい」という話になります。

けれど実際にはロジックは逆です。

人手不足の市場にはすべて“人手不足である理由”が存在します。それらの市場は、“多くの人を雇用できない理由があるから”、もしくは“継続的な雇用維持が困難だから”、結果として人手不足なのです。

なので、失業者を無理矢理に人手不足市場に就職させても、根本問題が残る限り雇用は長くは維持できず、どちらの問題も解決しません。

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ところで、なぜ多くの失業者がいる一方で“人手不足”の市場があるのでしょう?ここでは、人手不足業界としてよく挙げられる3分野について考えてみます。

(1)外食サービス業

(2)医療&介護

(3)農業


それぞれ人手不足の理由を考えてみると

(1)外食サービス業
熾烈な価格競争のため利幅が薄すぎて、十分な人件費が確保できない→バイト中心に運営するため、少数の正社員の労働時間が異常に長くなり、時に心身の健康を損ねるレベルになる→正社員が長続きせず常に人手不足。


(2)医療&介護
高齢化、核家族化で需要が急拡大しているにもかかわらず、供給側が資格職のため簡単には増えない。加えて、供給側の収入源は公的保険(か保険料)であり、財政が厳しいために収入が押さえられがち。そのため雇用人数が増やせず、結果として皆が超多忙。


(3)農業
昔ながらの家族単位の小規模農家では将来性がないので、子供が農業を継がない。一方、農水省と農業族議員は、将来性の期待できる新規参入者が市場に入ってこないよう規制している。このため新規雇用が生まれない。


というところでしょうか?


次に解決案を考えてみると・・・、

(1)外食サービス業

社員の定着率を高めるには、サービス残業の禁止や労働時間の管理、有休取得など労働環境について徹底的に監視し、違反業者に厳しい罰則を課すなどして労働基準法を遵守させることが必要でしょう。

残業代が適切に支払われて労働環境が改善すれば、雇用は安定するでしょうが、一方で店の人件費は大幅に上昇します。そしてそれは価格にも反映されるはずです。

すべての外食チェーンが値上げをすることになるので、消費者はそれを受け入れるしかありません。今の「超格安」な外食産業は、違法な労働環境の上に成り立っているともいえるのですから、その適正化は当然だと思います。



(2)医療&介護

まずは、厳しい財政の縛りがあって増やせない保険収入以外の収入を、増加させる工夫が必要です。

混合医療を認めて余裕のある人には自費でより高度な治療を受けてもらい、同様に、お金に余裕のある患者向けには高額で美味しい入院食を売り、お金持ちの単身高齢者が入院する際には、身の回りの世話をする(医療従事者以外の)ヘルパーを斡旋すればいいと思います。

通院客向けに健康食や介護器具を販売するのもいいかもしれません。いずれにしても医療保険外からの収入を増やすことです。

また、今の介護保険は大資産家でも1割負担ですが、収入や資産に応じ、税金の負担割合は変えるべきではないでしょうか?

また、介護保険で購入する商品では、こういったばかげた問題も起っているので改善すべきと思います。(→http://d.hatena.ne.jp/Chikirin/20051027


さらに、医療行為や介護行為にあたらない作業は、非資格者を雇用して分担させるべきと思います。

たとえば医師は、書類事務や管理系の仕事など、医療行為以外に多くの時間を使っているのではないでしょうか?医師が医療行為に使える総時間を増やす方法としては、医師の人数を増やすよりも、医師に事務補助をつけて雑務時間を減らす方法のほうが圧倒的にコストが安いはずです。

介護分野でも、介護施設での食器洗いや掃除を担当する人に関しては、関連資格のない人を雇っても費用が払われるようにすれば人手不足も少しは緩和できるはずです。

つまり、専門職でない人にもできる仕事を分離して、もっと“チームで働く”方式に変えようということです。そうしないと、高齢化や核家族化の進行スピードが早すぎて、医療従事者や介護士数の確保が需要に追いつかないでしょう。



(3)農業

不況のたびに「失業している若者の就農支援」という話がでてきますが、これって「高齢者ばかりでは農作業が大変なので、失業している若者を税金で雇って手伝いに行かせよう」という話のように聞こえます。

そもそも農家の息子さえ継がない職業に、失業者だからといって他の家の若者を就かせようとするのは明らかに無理があります。

農業を他の就職先と同様に、将来の昇給も含め一定の収入が確保でき、計画的に休暇がとれ、小家族でも成り立つ職業にするには、「会社員として農業に従事する」スタイルの導入も検討されるべきでしょう。

そのためには、小さな農家を生き延びさせるための施策ではなく、大型化に積極的な農業経営者や、農業に関心のある投資家や関連企業が農業に参入できる環境を整える必要があります。

大きな規模で事業に成功する農業主体がでてこなければ、労働環境を改善し、雇用を増やすことはできません。規制と補助金によって生産性の低い農家を守り、生産性向上を邪魔するような現在の農政には180度の転換が必要です。



まとめると、人手不足産業で失業者の雇用を確保するには、

外食サービス業に関しては、規制遵守のための監督&罰則の強化が必要、

医療・介護分野では、富裕層からの保険外収入を増やし、より効率的に専門職が働ける制度変更が必要、

そして農業では、農業政策の大転換が必要

ということです。そういった根本的な問題解決なしに、「人手不足市場に失業者を誘導する」だけでは、いつまでたってもなんの問題も解決できないでしょう。


そんじゃーね。