官から民へ 質問回答編

先日とその前の「官から民へ」のシリーズに多くのコメントをいただきました。ありがとうございます。コメント欄でお答えするのは余りにも長くなりますので、こちらでまとめてお返事したいと思います。


まずは全体的なことから。
(1)基本的な立ち位置について
ちきりんの基本的な立ち位置については下記をご覧ください。
http://d.hatena.ne.jp/Chikirin/20081216
人にはそれぞれの考え方があり、異なる立ち位置があると思います。正しい答えはひとつではありませんので、異なる意見をすり合わせてどちがら正しいかを決める必要はないと思っています。このブログは、ちきりんの立ち位置からのちきりんの意見を表明しているものです。当然、異なる意見もあるでしょう。それはそれぞれの方がそれぞれの場所で表明されればよいことです。


(2)表現が刺激的であることについて
公務員や郵便局の方、その他の方でも、ちきりんブログを読んで気分を害される方はあるでしょう。ちきりんブログは、意見をより明確に言うことで読み手の方の思考に刺激を与えようとするところもあり、ぼかさずに言い切り、言葉もとても刺激的です。

「いや、それぞれ現場の人はみな善意だし一生懸命働いている」というのは、それはそーなのでしょうが、そんなことを書いても、何がいいたいのかという主張がボケてしまうだけです。匿名ブログのメリットのひとつとしてこういった表現方法を採用しています。読まれる方はあらかじめこの点について覚悟して??お読みくださいませ。


(3)分割の意義について

昨日、JR各社のカードなどのサービスがばらばらなのは分社化のデメリットではないか、というコメントをいただきました。ちきりんは違う考えをもっています。なぜなら分社化していなければ、今あるようなカードや携帯を使ったサービスはまったく実施されていなかった可能性さえあると思うからです。

たとえばJR切符をクレジットカードで購入したいというニーズは、新幹線を多用する東京や大阪のビジネスマンには大昔からあったと思います。しかし東北や九州では、もしくはカードの普及率が低かった名古屋ではそういうニーズがでてくるのは東京と比べて相当遅かった(遅い)でしょう。

分社化していなければ、こういう制度が実現するのは「都会だけでなく、日本全体にそういうニーズがでてきてから」になっていたと思います。つまりかなり実現が遅れてしまっていたと思います。クレジットカードを使う人がほとんどいない地方のみどりの窓口までその投資をしなければならないわけですから。

スイカにつづきイコカが、そしてスゴカが、というように電子カードも都会から順にできていっていますが、分社化していなければ、これらの投資も「日本全体で機が熟してから実現」というようになっていたのではないかと思います。

今は確かに分社化のためにさまざまなシステムが重複したり齟齬があたっりしていますが、これは「窓口で一人が暇でも他の忙しい部門の人を手伝えない」というのと同じです。分社化にはデメリットもあるけれど、メリットの方が圧倒的に根本的な問題だとちきりんは思っています。


(4)地方について
これも昨日の質問です。ちきりんが「地方のありかた」についてどう考えているのか、という点。難しい問題だと思っています。過去に書いた下記あたりを一度ごらんいただければありがたいです。まだ考えはまとまっていませんが、ちきりんの考えの一片は表れていると思います。


震災が問う私たちの“地方ビジョン”
http://d.hatena.ne.jp/Chikirin/20080617


公共事業はなぜ必要か
http://d.hatena.ne.jp/Chikirin/20050323


長野県 田中県政について
http://d.hatena.ne.jp/Chikirin/20060913


ハワイ化する北海道
http://d.hatena.ne.jp/Chikirin/20090204


なお、地方によって解の方向性は異なるので、まずは道州制を実現させて地方が自律的に(国全体で一律ではない)方針を決められるようになることが重要と思っています。


(5)郵政公社の分割方法について
郵政公社の分割について、業態分割に加え、地域分割を行わなかった理由についてのご質問がありました。この点についてちきりんの考える理由は下記です。

前から何度も書いていますが、この国はごく一部の国際競争力のある産業に国全体が依存しています。こんないびつな状態ではいつまでも持たないです。


詳しくはこのあたりをどうぞ↓
http://d.hatena.ne.jp/Chikirin/20090103
http://d.hatena.ne.jp/Chikirin/20090129
http://d.hatena.ne.jp/Chikirin/20090201


現在強い産業材と製造業に加え、主な産業としては、金融、消費財製造業、製薬、小売、IT、教育、観光、エンターテイメントなどの国際競争力をつけていく必要があります。

そのうち金融に関して言えば(他の多くの産業も同じですが)会社が多すぎます。過去20年、だから金融はどんどん淘汰が進み、会社を統合してきました。海外に打ってでられる金融機関を育てることは日本の重要な産業政策のひとつです。

郵政公社は郵便事業を除くと、保険事業と銀行事業という金融機関です。まずはこれらを分離することが第一の優先事項です。さらにこれを地域に分けて力を削いでもいいのですが、それよりは、これらの金融機関が世界で(もしくはまずはアジアで)競争して勝っていける機関に育てるほうが産業政策としては重要という判断だと思います。

「国際競争が期待できないのでまずは国内競争を」というのがJRのパターン、NTTの分割は混ぜています。(コミニケーションズは国際競争を意識した分離、東と西は国内競争状態を作るための分離です。)

ゆうちょ銀行を地方ごとに分離して、それぞれを地方銀行と戦わせたほうがよいと考えるか、ゆうちょ銀行は日本でひとつの会社として残して、“アジアで一番強力な銀行”を目指させる方が日本の産業政策として有意義と考えるか、という選択肢だと思います。


(6)郵政公社と国鉄は違うのでは?
というご意見もいただきました。確かに天文学的な数字の累積赤字を積み上げた国鉄と、郵便でさえまあまあトントンでやってきた郵政公社の赤字の額、すなわち、国民に押し付けた負担の額は違いますよね。

ただ、郵政公社の事業には隠れた大きな問題があります。それは、郵便貯金の使われ方(貸し出し先)の問題です。

郵便貯金を通して集められた巨額の資金が、いわゆる天下り先や特殊法人など多くの非効率な官業組織の資金調達源として使われています。

郵政問題の本丸は本当はここにあります。というか、日本の財政問題の本丸は「特別会計」と「財政投融資」です。この二つの問題は、それこそあまりに巨大すぎる闇なので、一足飛びに解決するのは不可能であり、ちょっとずつ外堀を埋めていく必要があります。

この後者の「財政投融資」と郵便貯金はなかなかの腐れ縁がある仕組みです。郵政民営化の一番の意義は、将来、この部分を明るみにだしてくることにあるとちきりんは考えています。だから野田聖子氏が「たかが郵政の問題で・・」といった時に「余りに浅はかな政治家だな」と驚いたわけです。(こちら→http://d.hatena.ne.jp/Chikirin/20050815

これらの二つの巨大な闇の問題の解決に一歩でも近寄るためには、とにかくまずは郵政を民営化し、金融、保険、郵便等を分離して、それぞれの財務諸表を独立して作ることが何よりも重要です。


もちろん、郵便局で働いている人にこの巨大な闇の仕組みの責任があるとは言いません。しかし、大きな赤字を生み出した国鉄とはまた違う形で、巨額の闇資金の隠れ蓑として機能してきた郵政公社について「官業ではあるが、大きな問題はない組織」とはとてもいえません。

公社としていずれの害が大きいか、といわれたら、ちきりん的にはほぼ同じと思います。財政投融資を通じて無駄になったお金の額は、国鉄の赤字額とたいして変わらないか、もしかしたらもっと大きいかもしれません。

なお同様に、国鉄の赤字に関しても一生懸命働いていた現場の国鉄マンに責任があるとはちきりんはまったく考えてません。おかしいのは仕組みであり、だからこそ私たちは仕組みを変えようとしているのです。


(7)溶岩から逃げているという危機感とは?

まずはこちらをご覧ください↓
http://d.hatena.ne.jp/Chikirin/20080116


もしくはこっちでもいいかな↓
http://d.hatena.ne.jp/Chikirin/20080921


今の20代の人口は1533万人です。10年後の20代の人口は1243万人です。20年後の20代の人口は1143万人です。これの意味することはなんでしょう?


今1533億円税収があるとすれば、20年後には1143億円しかないということです。人数が減るんだから当然そうなるでしょ。それとも20年後、今よりすごく一人あたりが稼ぐようになっていると思います??

皆さんの会社の売り上げが、今1533万円あるとすれば、20年後には1143万円しかないということです。人口が減るんだから売れる住宅、車、テレビ、携帯電話、ビール、弁当、チョコの数も当然減るでしょ?

売り上げがそれだけ減るということは給与が同様に減るということです。だって企業の売り上げが減るのに、企業の経費(給与)が同率で減らないわけはないですよね。

それとも人口がこんなに減っても今より皆がすごく物を買うようになるので売り上げは減りませんか?20年後の給与が今と同じレベルを維持できたりする理由ってありますかね??


なお上記の人口の数字は「確定数字」です。今から少子化対策を打っても、それで変わるのはこの後の数字です。20年後の20代人口はもう変化しません。(それを変えたいなら移民政策しか解はありません。)

国の収入や支出が25%減るということは、医療費が25%増え、年金は25%減り、生活保護も25%減額され、国公立の小中学校を含む学校の授業料は25%高くなるってことです。生活レベルがそれだけ落ちる、ということです。また、給与が25%減れば、貧困家庭が相当増えるでしょう。


加えて上記は「国の産業の競争力が変わらない場合」の話です。なぜなら上で書いているのは「人口要因による変化」だけだからです。

でも、人口は減っても後の条件は保てるでしょうか?日本は次の20年も今までと同じ国際競争力が保てると思いますか?少なくとも国際比較において、日本人の学力はがた落ちです。世界の中での英語力のレベルも悲惨なレベルです。これでどうやって今までと同じレベルを保てるのでしょう??

もしも、人口減少に加えて、今は国際競争力のある企業の没落が始まれば、そして、円という通貨の没落(円安)が始まれば、もっともっと日本の生活は惨めなものになるでしょう。エネルギーのない日本では、円が安くなれば石油が必要なすべてのもの(輸送が必要なすべてのもの)は値上がりします。上記で書いたような、給与や福祉サービスが減ったとしても、そういったものの値段はあがるのです。


ホームレスが街に溢れ、通勤や通学の途中で何人もゴミ箱をあさっている人の隣を過ぎて歩く世の中になります。子供の物乞いも現れるかもしれません。あちこちで引ったくりや強盗が頻発し、孤独死や餓死する人が近所にも増えるかも。親とおじおばを含め7人くらいの介護を担当する「ひとりっこ」が介護疲れで逃げ出したり虐待を始めたり、ということが日常茶飯事になるかもしれません。病気でも治療を受けられるのは一部の金持ちだけ、かもしれません。

とか、考えればいくらでも悪いイメージは膨らませることができますが、暗くなるのでもうやめましょう。


この国の先行きをもうちょっと長期的に考えることができ、今何が必要なのかを理解し、現実的で根本的な手を打つ必要があると思う人が増えてくれることを祈ります。なお鳩山さんちは大金持ちですから、文化財や芸術のほうが大事なのはよくわかります。あの家はひ孫の代まで政治家であり、そのまた何代も先まで経済的には全く困らないでしょう。


それではね!