保育所が永久に足りないであろう理由

今年はさらに大きな問題になっている保育所不足と待機児童問題。

供給側(行政)もサボっているわけではないけれど、供給以上に需要が増えてるため常に足りていません。

需要が急増してる理由は、「働くことを希望する母親が増えたから」もしくは「働かざるを得ない母親が増えたから」なんだけど、

もう一歩踏み込んで言えば、これっていわゆる「供給が需要を生む構造」がある市場なんで、「永久に足りない市場」とも言えるんです。


この構造は“特別養護老人ホーム”も同じで、預かってもらえないから自宅で介護してるけど、

「公的な施設がリーズナブルな価格で親身になって看てくれるなら(自分も)入りたい、(親に)入ってもらいたい」

と思う家はたくさんあるわけで、供給側が充実すればするほど「じゃあ、うちも」という話になる。


保育所も全く同じ。

「格安で、近所で、安心して、子供を預けられる」なら働きたいが、そうでない現実だから働くのを中断し、家で子育てしてます」という人は、待機児童数どころではない数(桁が違う数)存在します。

具体的な数字を見ると、全国の保育所の定員合計は 230万人くらいで毎年 5万人分くらいずつ増えてる(増やしてる)んですが、それでも毎年数万人の待機児童が生まれます。


最近は、1年に生まれる赤ちゃんの数が 100万人ちょっとだから、0歳児から 6歳児までの 7年分で 700万人以上の小学校入学前児童がいます。

保育園定員が 230万人ってことは、その差である 470万人もの子供が今は(一部は幼稚園に通いつつ)家庭で育てられてるってことです。( 470万人のうち 幼稚園児は 150万人くらい)


もちろん中には「たとえ自宅の隣が保育所であっても子供を預ける気は無い。自分で育てる!」という親もいるでしょう。

しかし普通に考えれば、保育所が増え、誰でも近所の認可保育所に安く預けられるよーになれば、

今は家で育ててる 470万人の中から、「だったら、あたしも預けて働こうかな?」と思い始める人が続々と現れます。


だから毎年 5万人ずつ保育所の定員なんて増やしても焼け石に水なんです。

だって、470万人の子供のうち 10人に一人が「うちの子も預かってもらおう!」となるだけで、 47万人分もニーズが増えるんだもん。

つまり毎年、数万人ずつ定員を増やすといった方法では、待機児童は永久に無くならないんです。


★★★


供給側もそれがわかってるから“適宜&漸次”増やしはするけど、一気に増やしたりしないし、

口では“待機児童ゼロ作戦”とか言ってるけど、完全な解決を図る気はそもそもありません。

「いつもの倍くらい作ったら足りるのでは」って? 

いえ、それでも足りません。

だって、たとえば中野区がそれをやれば、杉並区の夫婦で子供が生まれた人は中野区へ引っ越しますから。

保育園確保が死活問題のお母さんにとっては、都内の引っ越しなんて簡単なことです。


ちなみに老人福祉施設や保育所に加え、医療に関しても厚生労働省は同じように考えてるフシがあります。

それは「医者を増やすと医療費が増える」、すなわち「供給を増やすと需要が増える」というロジックです。

ここ数年「救急患者のたらい回し」や「勤務医が働き過ぎ=労働基準法違反」状態にあることが頻繁に報道されたため、ようやく昨年「医師が不足してる」って認めましたが、

おそらく厚生労働省には、「供給を増やすと需要が増える」という恐怖感というか既成概念が非常に強いんでしょう。


「保育所なんて増やしたら、今は家で子供の面倒をみてる女性が働き始める」
「老人施設なんて増やしたら、今は家で面倒をみてもらってる老親が施設に移り始める」

と思ってるから、「ちょっとずつは増やす」けど、ドーンと増やす気はありません。


★★★


本気で待機児童を無くしたいならどうすればいいかって?
子どもの数と同じだけ、定員を確保すればいいだけです。
小学校の待機児童って存在しないでしょ。それは、そういう決め方をしてるからです。


そこまで行かなくても、妊娠から出産までは一年弱あるわけだから、待機児童ゼロを本気で実現したいなら、「妊娠時の申し込み制度」にすればいい。

母子手帳を交付した段階で「何歳から保育所に入れたいですか? 入れたい時期と希望のエリアを申請してください」と聞き取り、その希望に応じて保育所を増やせばいい。

1歳児の申し込みに関しても、0歳児の親に「来年から預けたい方は一年前に希望を出してください」と言い、希望者数のとおり、次の 1年をかけて定員を増やせばいい。


毎年毎年、「今年の待機児童が 1000名だったから、来年は受け入れ定員を 1000名増やします」とか言ってるのは変でしょ。

今年の待機児童数と来年の入所希望数にはなんの関係もないんだから。


来年生まれる子供の数も、来年 1歳になる子の数も 1年前にはわかってんのに、なんで役所が需要を予測する必要があるんでしょう? 

どうせはずれる需要予測なんかせず、生まれる子供の実数(&預けることを希望する親&子の数)をダイレクトに供給に反映させたら、待機児童はゼロにできるんです。


でも、そうはしない。


なぜ?


理由は・・・そんなコト(実は)したくないという「政治家の思想」があるからです。


安倍元総理とかもそれっぽいですけど、保守系政治家の中には「子供は母親が自宅で育てるべき」という信条を(密かに)強くもっている人がたくさんいます。

保育所とは、やむを得ず働かざるを得ない母親や家庭のために整備するものであって、

「そんなものをたっぷり作って、子供のいる母親がみんな仕事を持つのが当然、みたいな“すさんだ世の中”になったら大変だろ!」という感覚がある、んですよ。


これって地方の首長も同じでは?

東国原(宮崎県)知事、石原都知事、森田(千葉県)知事とか思い浮かべてみてください。

この人たち、「女性が子供を持つことで仕事を犠牲にしなければならないような世界はおかしい!」と心から思っていそうですかね。


大きな声では言わないけれども、男性政治家の中には

「やっぱり子供が小さい間は、女性は家にいるべき」「家事と子育てがまず基本であり、

それができたうえで、仕事もやりたいというのなら俺は心から応援するよ!」みたいな人がたくさんいるんですよね。


彼らからは、「母子家庭とか夫が病気とか、どうしても仕方ないなら、母親も働けるように整備する」けど、

「積極的に、母親が仕事に出るような流れを加速する政策はダメ!」という本音が透けて見えます。

だってね、

この国では、夫婦別姓を(希望者にだけでも)認めたら、日本の家族観や価値観が崩壊するからダメって言ってる政治家が未だに多数派なんですよ。

そういう政治家がホントに「希望するすべての母親が、外で働けるように支援しなければ!」と考えてると思います?

思えないでしょ。


彼らは本音では、「保育所は、常にちょっと足りないくらいがちょうどいい」・・・そう思ってるんじゃないでしょうか。

医師や老人保健施設についても同じ。

「医師が山ほどいて、医療がめっちゃ手厚く受けられて、誰も彼も 100歳まで生きるようになったら、年金支払いで国が滅びるだろ?」と思っていたり、

「老親の世話は子供が見るべき。

人生において子供を作らなかったような“大人として失格の人”は、老後が大変でもあたりまえだ。

むしろ、そうじゃないと誰も子供を作ろうと思わないだろ?」くらいの考えが、あるんじゃないの?


というわけで、保育所は永久に足りないと思います。

「供給を増やしたら需要を増やしてしまうので、完全に足りてる状態を作るのは無理」と思っている役所と、

「女は、まずは家事と子育てをしっかりやってから働けばいいじゃないか?」と思っている政治家のせいで。



ふんじゃね〜


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