次世代のリーダーを育む仕組み

日本は急激な変化を嫌う国と言われます。確実に変わりつつあるとは思いますが、そのスピードは驚くほど遅いです。

一方、変化スピードが速いと言われるアメリカでも、リンカーンの奴隷解放宣言が1862年、初の黒人大統領実現が2009年ですから、その間は147年かかっています。

そのオバマ大統領の誕生を見ていて思ったのは、「次世代リーダーを育てる仕組みの重要さ」です。アメリカにとっても黒人の大統領を生み出すのは簡単なことではありません。でもそれが実現したのは、長期間かけて様々な仕組みを社会に埋め込み、最終的な結果に結実させるための“母体”を我慢強く養ってきたからです。


まず彼らは建前としての人種平等思想を、教育現場や社会の前線で常に高く掲げて徹底してきました。「スローガンだけで何が変わる?」と言う人もいますが、「あるべき姿」を皆が声高に叫び、学校で繰り返し教え、社会の前線で常に確認する。これだけでも世の中の変化スピードは格段に早くなるものです。

たとえば日本の大企業には女性役員がほとんどいないと言われますが、もしも日本が教育の場で「日本企業の取締役には○%しか女性がいない。これはなぜか、どうやったら改善できるか?」を問い続け、会社の毎年節目の会議で、経営者が毎回「我が社の女性管理職比率は○%しかない。各部門で女性の管理職比率を高められるよう今年も頑張って欲しい」と繰り返して言えば、変化のスピードは今とは比べられないくらい早くなるはずです。「あるべき論を口に出して唱え続けること」には、それなりに力があるのです。


さらに、アメリカではアファーマティブアクションを含め様々な政策によってマイノリティの教育レベルや社会的地位を引き上げる努力をしてきました。そうやって、一定レベルの教育を受けた黒人を一定数生み出したのです。

ここで重要なことは、“リーダーとなる可能性を持った人の母集団”を一定規模で形成するということです。黒人大統領はいきなり出現するのではありません。リーダーとはピンポイントで育てるものではなく、「リーダーを生み出す土壌」と「その土壌に一定数の種を蒔いて育てること」から生まれてくるのです。


また話を戻しますと、日本企業には「女性取締役がいない」といって外部から有名女性を「社外取締役」に任命するところがあります。こういう企業の多くは、そもそも女性取締役を育む基礎母集団を作ることに十分な努力をしていません。

男性だって新入社員のうち取締役になるのはごく一部の人です。女性役員を生み出すには、相当数の女性部長が、さらにその手前で相当数の女性課長が必要です。しかし、実際には一定数の女性課長さえ生み出せない企業も多いのが現実です。

だから安直な道を選び、社外から採用した女性取締役に「女性の活用担当役員」などという珍妙な肩書きを与える滑稽な企業がでてきます。しかし、種から花を育てずに、切り花を買ってきて花瓶に飾ればよいのだと思っている家に花は育ちません。必要なことは「花が咲く土壌を整えること」なのです。

★★★

同じ視点で日本の政治リーダーをみてみましょう。小泉元首相を含め、自民党ではここのところずっと世襲総理が続きました。このことは、自民党が世襲以外の総理大臣育成方法を持ち得ていなかった、という本質的な問題を浮き彫りにしています。

日本では「今度の総理もだめだった」と毎年のように国のリーダーの首をすげ替えています。しかしその一方で、「私たちはどんなリーダーを望んでいるのか」という「リーダーのあるべき姿」について共有できているでしょうか?「こういうリーダーを求めているのだ」と声に出して唱えることができているでしょうか?

さらに、求めている「あるべき姿のリーダー」育成にむけて、一定規模の基礎母集団を作るための仕組みを整えようとしているでしょうか?

たとえば、お金も地盤もないところからでも新しいリーダーに出現してほしいと望むなら、ネットによる選挙活動の解禁や、ネットを使ってクレジットカードで小口の寄付ができる仕組みが不可欠です。若者の意見をリーダー選びに反映させたいのであれば、携帯電話やコンビニATMでの投票ができるようにすることも重要でしょう。一票の格差問題も早急な解決が必要なはずです。

そういった仕組みを整えて初めて、私たちは「あるべき姿のリーダー」候補となる人を一定数以上、輩出することができるのです。

私たちは、オバマ大統領が日本に出現しないことを嘆く必要はありません。しかしオバマ大統領を実現させた“土壌”や“仕組み”がこの国には存在しない現実は、私たち自身が深刻に受け止めなければなりません。

なお、この意味で唯一画期的なのは「松下政経塾」や「稲森フェロー」のような、地盤やコネはなくとも政治を志す人にそのチャンスと方法論を教える仕組みですが、こういった仕組みが政党や政治団体からではなく、いずれも日本を代表する経営者の方のイニシアティブで始まっていることは、とても興味深いことに思えます。


そんじゃーね。