相対的貧困率あれこれ

ちょっと前に発表された日本の相対的貧困率が 15%ちょいというのは、どうリアクションしていいのか微妙な数字だな〜と思いました。

日本は「不動産をもってたり貯金を貯め込んでいる、でも、フローの収入は低い高齢者」がかなり多いと思うので、できれば 60 才未満で計算してみるとか、もう少し工夫がほしいかなとは思いました。


それと、この相対的貧困率って数字、どういう場合に高くなったり低くなったりするのか、いまひとつわかりにくいと思うので、具体的な数字を使って計算してみました。

わかりやすいように 5 人で考えてみます。これ、AさんからEさんまでがそれぞれ 2000万人ずついて、合計で人口 1億人の国、と考えても同じです。


まずは、“トップ 2割が金持ち国”の場合

Aさん年収 1000万円
Bさん年収  120万円
Cさん年収  110万円
Dさん年収  100万円
Eさん年収  90万円


中央値は 110万円で、その半分が 55万円
年収が 55万円に満たない人はゼロ人だから、

この国の相対貧困率は 0%


つまり、貧困率ゼロのすばらしい国ってことですね?

全員高収入や全員低収入の場合=格差が全然ない国の貧困率が低いのはわかるのですが、こういう“ごく少数の人だけが高収入”っていう国も相対貧困率は低いんです。



次に“下位 2割が貧乏人”の場合はどうでしょう。さっきと反対です。

Aさん年収 1000万円
Bさん年収 1000万円
Cさん年収  980万円
Dさん年収  960万円
Eさん年収  300万円


中央値は 980万円で、その半分が 490万円
年収が 490万円に満たない人は 5人中のひとりだから、この国の相対貧困率は 20%


最初の国の場合より貧困率が高くなります。上位 2割だけが高収入なら貧困率はゼロになりえるけど、下位 2割が低収入だと、その人たちが貧困層にカウントされてしまうからです。

でもこの例の場合だと、人口の 8割が高収入だから納税額も多そうで、社会福祉で下位 2割を助けるのは容易そう。つまり、社会福祉還元後の相対的貧困率はゼロにできそうです。


なお、この国の場合、貧困率が下がる可能性は二方向あって、ひとつはEさんの年収が 500万円になることです。最低賃金の引き上げや製造業派遣禁止などで、これを試みるのが民主党の政策でしょうか?

もうひとつのシナリオは、中間層の崩壊です。経済全体がより一層悪化し、正社員や公務員までリストラで職を失って年収がぐっとさがれば、最初の国みたいに“トップ 2割以外は全員低収入”になる方向で相対的貧困率が下がる可能性もあります。上の例では、Cさん、Dさんの年収が 600万円になれば、相対的貧困率はゼロに下がります。

日本の場合、こっちの方向での“貧困率低下”もありそうで怖いです。



さらに次。“一般的な勝ち組先進国”の場合

Aさん年収 3000万円
Bさん年収 2000万円
Cさん年収 1500万円
Dさん年収  700万円
Eさん年収  600万円


中央値は1500万円で、その半分が750万円
年収が 750万円に満たない人はふたりだから、この国の貧困率は 40%


数字をざっとみた感じ、全体に裕福そうな国ですけど貧困率は高いですね。国民の4割が貧困なんて聞いたら驚いちゃいます。


こう見てくると、つまりは“中央値”が高いと(相対的)貧困率は上昇するのだということがよくわかります。相対的貧困率に影響を与えるのは、「真ん中の人がいくらもらっているか」という点です。真ん中より上の人に関しては、いくら貰っていようと(年収一億円でも 10億円でも)相対的貧困率には全く関係ありません。

ポイントは、「給与がその国で真ん中」に位置する人のもらっている額と、「それより収入が低い人の間の格差が大きいか小さいか」という点です。つまり「下半分の人達の中での格差」が問われるのです。


あと、今回計算していて思った。みんな自分の周りで相対的貧困率を計算してみたらおもしろいんじゃないかと。

兄弟とか親とか親戚とか、友達グループでもいいけど、一定の範囲の人の年収を(推定で?)並べてみて、“中央値の人の年収”の“半分以下の年収”の人が何人いるか、って計算してみてくださいな。


日本って、案外この「身近な範囲の相対的貧困率」が低いんじゃないかとちきりんは思うんです。


意味、わかりますよね?


で、そのことのほうが社会問題としては結構な問題なんじゃないの?って気もしたりした。


ふーん。


そんじゃーね



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貧困の現場

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