払うべきか、稼ぐべきか

就職難に直面している大学生が、面接指導などを受けるため「就職予備校」に通うというニュースを見ました。

大学の就職相談室より実践的で懇切丁寧と人気らしいのですが、価格はかなり高く、中には10万円以上のところもあるとか。

ちなみにこのビジネスに関連して、最も学びが大きく成長しているのは、お金を払っている学生側ではありません。

こういったビジネスにニーズがあると睨み、就職氷河期到来の機を逃さずに事業を始めて効果的に不安を煽り、適度に優しく適度に厳しく指導する起業家側の人達こそ、学びに来ている学生の何倍ものことを日々新たに学んでいるし、ビジネスパーソンとして成長しているはずです。

口コミで何でも拡がってしまう大学生から10万円も払ってもらうには、相当高い価値を提供しないと商売は成り立ちません。そのためには何をどうすればいいか、日々考えて試行錯誤をしているはず。それが“稼ぐ側”を育てるのです。


実は「お金を払うより、お金を稼ぐ方が学べるし成長できる」というのは一般的な法則です。大学だって、学費を払って一年間、勉強するよりも、一定の講師料をもらい一年間授業を任されたら、その方が圧倒的に学びが大きいでしょう。

最初の例に戻れば、学生は10万円払って就職予備校に通うより、近くのコンビニか弁当屋でアルバイトをし、「他のバイトより10万円多く売上げる」という目標をたてるべきなのです。

そして、工夫と努力でそれを実現すれば、就職予備校に通うよりよほど多くのものを学べるでしょう。しかも実際の採用面接も、その方が通りやすいはずです。

“稼ぐ”のは“払う”とは比べられないくらい人を育てます。「学びたければ金を稼げ、金を払ってる場合じゃない」のです。


★★★


ちきりんは学生時代から旅行好きでした。今もよく旅行をします。でも、就職人気ランキング1位のJTBを始め、旅行業界に就職したいと思ったことはありません。好きなことを職業にしてしまったら、つまらないだろうと思うからです。

旅行業につけば、「お客様が望む旅行」を考え、作るのが仕事です。それは「私がしたい旅行」とは必ずしも一致しないでしょう。

私が旅行会社に就職したら、自分の好きな旅行について、自分の好きなようにはできなくなるのです。それってけっこう鬱陶しいですよね。

だから私にとって旅行は、「お金を払って」やるべきことです。お金を払えば、自分の好きなように企画できます。興味のない場所に行く必要はないし、好きでないものを食べる必要もありません。

「好きなことは金を払ってやれ、もらってやるな」ということです。


ちきりんは文章を書くのも好きです。だからこれを職業にしたいとも思いません。ライターで食べていこうと思えば、関心のない題材でもニーズが高ければ記事にする必要がでてくるし、媒体の担当者の意向にも気を遣う必要がでてきます。

アフィリエイトで生活しようと思ったら、アクセス数を維持するために“ウケること”を書かなくちゃいけなくなり、読んでもいない本を紹介しなくてはならなくなります。

幾ばくかのお金のためにそんなことをして、文章を書くことが“つまらないこと”になってしまったら余りに馬鹿げています。

いつまでも、自分がおもしろいと感じることだけを書いていたい。それをおもしろいと思ってくださる読者分だけのアクセスがあれば十分です。


というわけで、「お金を稼ぐべき時にお金を払っていては、いくら払ってもモノになりませんよ」ということ。そして、「お金を払ってでもやるべきことでお金を稼いだら、つまらないことになりますよ」ということです。

払うべき時か、稼ぐべき時か、それをしっかり考えましょう。



そんじゃーね。


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