維持費が蝕む自由

人間も会社も家族もコミュニティも、ビジネスもボランティア団体も国も軍隊も、持てば持つほど動けなくなります。

現代の資本主義社会において、「持たずに生きる」ことがこれほどに難しいと痛感したのは、数年前に「持たない生活」を目指すようになってから。

一緒に旅行に行く友人は、私があまりに何も買わなくなったので驚愕しています。

私を含め多くの人にとって“モノを買う”行為は有効なストレス解消方法だし、何かを所有したいという欲望は強弱の差こそあれ、もたない人はいないくらい自然な欲求です。

だから何も持たずに生まれてきたように、もう一度、何も持たない生活に戻りたいと思っても、相当のエネルギーを注ぎ込まないと実現できません。

それどころかぼーっとしていると、いつの間にか前ではなく後ろに進んでいたりします。


ときどき、18才で一人暮らしを始めた部屋を思い出します。

学生街の6畳一間のアパートは、荷物も本当に少なかった。それでも特に何も困った記憶もない。

多くの人も同じでしょ。今、部屋の中を見回して、なんでこんな多くのものがあるのか、理解ができない人は私だけではないはずです。

生活費も同じ。

会社を辞めるにあたって、生活を維持するのにいくらかかるのか計算してみました。

驚いたのは固定費の高さです。固定費とは一口も食べなくても必要な経費、毎月決まって払わなくてはならない費用のことです。

これ、子供とかいる人はもう怖いから計算しない方がいいですよ、っていうくらい高い。

別にお金持ちでもなく、特に贅沢してる人でもなく、ごくごく普通に働いて、ごくごく普通に生活している人でも、一度まじめに計算したら、その固定費の高さに驚くんじゃないかと思います。


ちなみにここで固定費と呼んでいるのは、下記。みなさん、電卓取り出して計算してみてくださいな。

・家賃(またはローン)
・固定資産税、管理費
・光熱費
・新聞やメルマガの購読料
・電話代、スマホ通信費、ネット通信費など
・テレビ視聴料
・車があれば、ローン、保険料、税金、車検代、駐車場代
・社会保障:年金、健康保険、(雇用保険)
・生命保険、火災保険、地震保険等
・ジム会費、その他会費、資格の維持費、授業料など
・子供の授業料、給食費、塾や習い事代、もしくは保育園費用
・その他、毎月支払うことが確定している経費

食費、雑費、交際費、衣服代、本代、旅行代、交通費、ガソリン代などは変動費としています。


仕事を辞めると言った時、子供3人を養う知人から「働かないとか信じられない。羨ましすぎる」と言われました。

その時は、「宝の維持費が高いのはあたりまえ」と答えましたが、持っているものがどんなに貴重なモノであれ、その維持費を考えると目眩がしそうになる人は少なくないでしょう。


それは企業も全く同じです。

毎年毎年採用してきた優秀な(優秀だった)社員達、始めてしまった多くの事業、建ててしまった立派な本社や最新鋭の工場、進出してしまった多くの海外拠点。

こういったものを、持てば持つほど動けなくなるし、それらを維持するだけでも毎年の必要経費は目の玉が飛び出るほど高い。

日本という国も同じです。

手厚い福祉に整った医療体制、当然のように大半の人が進学する高等教育機関、大量の議員に公務員、国中を網羅する鉄道や道路、空港、日本中に存在する美術館や音楽ホール・・。


余りにも多くのものを抱えてしまって動けない人、組織、団体、企業、国。維持費や固定費に蝕まれる、私たちの自由。

それらの維持費のために日々を働く。そのことに生き甲斐や存在意義を見いだせと言われている私たちの生活。


自分の持っているものに、
自分が苦労してやっと手に入れたものに、
縛られて生きる私たち。


大変です。



そんじゃーね。