首都大混乱 by 「計画停電」

今回の「計画停電」で、東京はプチパニック。

月曜日の通勤時はどの駅も大混乱、昼間はインスタントラーメンやミネラルウォーターを買いだめするおばちゃんが街に溢れ、オフィス街には仕事そっちのけで懐中電灯と電池を探し回る会社員が多数出現しました。

東北がリアルに大変だというのに、首都トーキョーがこんな笑える状態に陥った最大の理由は、東京電力の「計画停電」というネーミングにあります。

前回のエントリーにも書いたように、日本人は超がつくほどマジメ。

だから「計画停電」なんて言われると、「計画的にきちんと停電するんだ」と思いこみます。

そして、「であれば我が家も計画的に準備しなければ!」となり、「電池が足りない!」→「あなたっ買ってきて!」となったのです。


役所や企業も同じです。

東電が夜の 8時に翌日の停電スケジュールを発表するという挑戦的な態度に出たため、国土交通省も厚生労働省も警視庁も頭に血が上りました。「おい、経産省! もっと早めに教えろよ!」って感じです。

東電はエネルギー庁や経産省としかコンタクトを持っていませんから、経団連の都合くらいしか考えていませんでした。

しかし電力問題は他省庁の分野にも大きく影響します。

国土交通省は鉄道の運行について、厚生労働省は病院の停電対策について、警視庁は信号に派遣するお巡りさんについて考えなければならないのに、夜の 8時に発表なんてされた日にはとても“計画”が間に合いません。


しかもJRや私鉄も「1分ごとに運行する電車の時刻表を作る」パラノイアみたいな会社です。

そんな妙な鉄道会社が何社もあり、しかもあちこちで乗入れ運行しているなんて、世界広しといえども日本だけです。

だから前の晩に「地区により計画停電」と聞いた時点で、すわっ、電車 8割間引き!、特急全部中止!!と、「ええいっ、計画的に準備できないなら、全部止めてしまえ!」的に電車の運行を大幅に間引いてしまいました。

彼らは、「我々が柔軟であることを許されるのは災害時だけである。それ以外の時は秒刻みで計画的であるべきだ」と信じているのです。


しかもこの国のサラリーマン界には、「ストでも大雪でも台風でもY2Kでも、何があっても出社できた社員しか出世させない」という鉄の掟があります。

なので彼らは必死で出社する。その結果、朝の駅が大混乱したというわけです。

しかし月曜日、実際には停電はごく一部のエリアをのぞいて実施されませんでした。

それでまたみんな頭にきた。「こんな大変な思いをさせて何なんだ!! ちゃんと計画的に停電しろよ!」と。


コレね、ちきりんは「計画停電」という名前が生んだ不幸だと思うんです。

最初から名前を「無計画停電」とか、「もしかしたら停電」、「通電、午後ところにより時々停電」くらいにしておけばよかったんです。

「皆様の節電のご協力もあり、電力が足りるかどうかはやってみないとわかりません。というわけで、明日は“もしかしたら停電”を実施します」とでも言ってれば、

みんなももうちょっと落ち着いて「今日さあ、もしかしたら停電らしいよー」程度のことですんだんです。


私たちは、「計画」されたことがほぼ必ず「実行」されるという、世にも珍しい国に住んでいます。

しかも“ほぼ官”ともいえる東京電力様が「計画」という言葉を使ったら、そりゃあみんな「当然、実行されるんだろう」と思います。

これが、ソフトバンクあたりが言ったことなら、「まあ、一応計画してるらしいよ」くらいのことで済んだかもしれません。でも、なんといっても天下の東京電力ですからね。


★★★


しかも東京電力様は、どうやら毎日夜遅くに翌日の停電スケジュールを発表すると決めたらしく、関係各所にしてみば、「せめて朝、発表してくれよ(涙)」であろうとは思うけど、でも仕方ないでしょ。

東電は今、マジで忙しいんですよ。そんなことより福島の原発のほうが圧倒的に重要です。


とか言うと、「そんなこと言っても、停電したら命に関わる人もいる」とか言い出すまじめな人がいっぱいいるのがまたこの国のすごいとこなんだけど、そもそも日本以外はしょっちゅう「無計画」に停電してるんです。

発展途上国なんて最初から「電気はたまにつくもの」という感じだし、エジプトあたりでも「ついたりつかなかったりするもの」程度の受け止め方です。

アメリカやイギリスでさえ、なんの前触れもなくいきなり停電するのは珍しくありません。

特にサッチャー以前のロンドンなんて、ちきりんは出張や旅行で行ってるだけなのに何度も停電に遭って驚きました。

そのたびに「地震?災害?」って聞くんだけど、向こうの人はきょとんとしてる。「なんで災害が停電と関係あるの?」って感じです。

日本人にとっては「停電するってことは何か大災害があったんだろう」と思いますが、ロンドンの人にとっては「停電? ストかミスかネズミ(が電線をかじったか)でしょ」くらいです。


それにこれ、東京にとってもすごくいい予行演習になってますよね。

停電した時の電車の運行、病院のオペレーション、信号で何が起きるか、いつもは縦割りで全然話もしない各省庁が、今は「東京大停電」の可能性に向けてあらゆる面から検討を始めてる。これこそリアルな予行演習。

実際に月曜日の 1日混乱しただけで、東電(経産省ファミリー)と鉄道会社(国交省ファミリー)が話し合いを始めました。まさに混乱から生まれた幸いです!(よかった確認)

そしてこの「本当に起るかどうかわからない計画停電」が 1ヶ月も続けば、日本人もすっかり停電慣れした国民になれるはず。

いや、この国の人の勤勉さから言えば、世界に冠たる“停電エキスパート”な国になるでしょう。


なので、東京電力さんにはとりあえず福島の原発対策に頑張って頂いて、東京の停電に関しては(“計画”などという爆弾ワードを使わずに)少しばかり気楽に考えて頂ければと思います。

そして私たちはみんな、もうちょっと混乱に慣れればいいと思う。

世の中も人生も計画通りになんて進まない。明日電気が通じるか、明日電車が走ってるか、明日自分が生きてるか、そんなもん明日にならないとわからない。

そう考えればインスタントラーメンを買いだめするより、とりあえず家族でおいしいものでも食べといたほうがいいんじゃないかと思うでしょ。


しかも今日ラーメンの買いだめに走った人は、前回の豚インフル騒ぎの時に買いだめたマスクや消毒液がまだどっさり残っているような人達に違いない。

どーすんすか、それ?


そんじゃーね!


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