中途半端に変わる必要はないです。そのままどうぞ!

一つ前のエントリで、今年のキーワードは「見限る」だと書きました。今日はその続きです。

何かの問題を解決する方法には、状況を「改善する」アプローチと、状況を「見限る」アプローチがあります。ちきりんは、後者の方が、圧倒的に早くよい結果につながると考えています。


たとえばグローバル化の進展を見越し、海外大学への進学を目指す高校生が出始めています。この状況において東大など日本の一流大学がチマチマと改善を進めるよりは、「改革が全く進まず、結局何も変わらない」状況に陥ったほうが、日本のためになります。

なぜならその方が、より多くの高校生が「こりゃアカン!」と理解して、海外の大学を目指すようになるからです。東大が9月入学を始めたり、ほんのちょっと英語の授業を増やしても、そこで得られるものは、MITやスタンフォード大学への進学で得られるものにはほど遠いです。

だったらしょうもない改善が行われるより、「東大は全然ダメ」なままの方が圧倒的にいいです。


同じように、官僚組織もトコトン“だめだめ”のままのほうがいいです。原発事故の真っ只中に経済産業省の役人の省内不倫が報じられたり、「官僚たちの夏」再来を思わせた半導体行政の担当者がたかだか数百万円のためにインサイダー取引で捕まったりするのは、非常にヨイことです。

だってもし、原発事故の後にエネルギー庁(経済産業省)の役人がリーダーシップを発揮し、断固&毅然とこの大危機に対応して頼もしい姿を見せていたら、「これからも官僚が国を率いるのだ!」という妄想が再燃し、優秀な学生が「オレも官僚になってお国のために働こう!」などと時代錯誤な考えに陥る危険がありました。

それよりは優秀な学生らが「今の時代、官僚になるなんてありえんわ」と理解できた方が、よほど将来は明るいです。


オリンパスや東電の経営者達も、今やっているように、とことん自分の地位にしがみつき、しっかりと退職金も年金ももらって悠々自適な老後をおくればいいと思います。

そうすれば、「日本のモノ作りに携わりたい!」とか「社会のインフラを支える会社ででかい仕事をしたい!」などという幻想を抱いていた学生(の中で、まともな学生)も、「こういう人達の下で何十年も働くってどうなの?」と理解し始めます。


さらに効用が高いのが、悪名高い日本の「解雇規制」です。ちきりんは「解雇規制が残っているほうが、日本企業も日本社会もずっと早くよくなる」と思ってます。

この解雇規制のために、大企業にとって「日本で日本人を正社員として雇う」ことのリスク(コスト)は非常に高くなっています。

だから彼らは「これからは海外現地採用を増やす」「(60歳までしがみついたりしないであろう)留学生などを雇う」、「日本人を日本で雇うなら、その多くを非正規社員として雇う」という方法に逃げ始めています。

これにより、いつまでも日本の大企業が「日本で日本人を正社員として雇う」ことにこだわりつづけるより、結果としては圧倒的にいい方向に向かいます


外人が組織内に増えれば、否応なくグローバルな視点や組織管理が求められます。海外で優秀な人を雇うには、給与体系など人事体系を海外市場にあわせることも必要になるでしょう。

日本人で非正規社員が増えれば、「正社員の仕事の質」がより厳しく問われるようになります。非正規雇用の人でもこなせる仕事をしている正社員への風当たりが強くなり、仕事ごとの“妥当な報酬”が浮き彫りにされるでしょう。


また解雇規制のせいで、日本の大企業には何もしないのに一千万円以上もらっているおじさんがたくさんいます。でもだからこそ、入ったばかりの若い社員が「あほらしい。こんな会社に居続けるなんてありえない!」と早々に理解でき、転職に踏み切ることができるのです。

このように、解雇規制には実に多くのメリットがあることを忘れてはなりません。


大企業同様に公務員組織も解雇ができません。今はどこも財政状態が厳しく、人件費は増やせません。でも高齢化や経済格差拡大により、仕事量は増えています。

そのため彼らは、給与の高い正規の公務員数の採用を抑え、代わりに格安な臨時雇用や契約社員を多く雇って乗り切ろうとしています。これもイイコトですね。だってこのために、日本の(正規の)公務員数がもう増えないのですから!


もしも解雇規制がなくて、働きの悪い(しかし人件費の高い)中高年の公務員のクビを切ることができたら、彼らは浮いた人件費で、倍の数の若手公務員を雇ってしまうことでしょう。しかもその時に公務員になる若い人は(就職戦線を勝ち抜ける)とても優秀な人だったりするわけです。

最悪ですよね!?「将来的に公務員が増える」という意味でも、「優秀な若者が公務員になってしまう」という意味でも最悪。解雇規制がなくなると、こんな時代逆行まで起こってしまいかねないのです。


というわけで、解雇規制はずっと維持してればいいです。働きの悪い、それなのに給料の高い中高年社員を山ほど抱えているからこそ日本企業は、それ以外のところを「大胆かつ急速」に変えなくてはならない状況に追い込まれているのです。

一カ所だけとてつもなくアホみたいな制度に固執し、その一点を守るために他のすべてを大きく変えなくてはならない・・・こういうのって、実質的にはけっこう有効な変革の手段だとちきりんは思ってます。

世の中はパラドックスに満ちてるんです。だからそれを利用しなくっちゃ!


今日の結論:日本は変わらなくていいです。政府も官僚組織も大企業も、ずうっと、ぜんぜん変わらなくていいです。変わる必要があるのは個人だけなんです。個人が変わればいいだけなんす。


そんじゃーね!