「稼ぐことの価値」を示せていない私たち

今に始まった話ではなく、もう何年もそうなんですが、知人友人と話していてよく話題になるのが、「最近、分配側に興味を持つ人が多すぎだよね」という話。たいていの場合、嘆息とあきれ顔と共に耳にします。

ご存じのように経済活動には「価値の創造」と「価値の分配」という2つの側面があります。「価値創造」とは、文字通り経済的な付加価値を創造することです。

新幹線が発明されれば、従来の特急より高い料金でも、その切符を買おうという人がでてきます。これは、それだけの付加価値が創造されたわけです。よく効く薬が創られて、今までの何倍もの値段で売られるのも同じです。便利グッズ、求められていたサービスなど、あらゆる分野で日々新たな価値の創造が行われ、それが集まって経済成長が実現します。

一方、大半の社会、国は、それら生み出された価値を「再配分する」制度をもっています。最初に価値が創造された時、その価値の対価を受け取る人はとても限られており、偏っています。それをより多くの人に分配するのが、社会福祉であったり、寄付行為であったり、税制であったりといった再配分制度です。

再配分制度の担い手としては、国などの公の他、宗教団体、NPOなどがある他、最近はインターネットの普及に伴い、個人でも直接、再配分機能を担うことが可能になってきています。


皆様ご存じのように、ちきりんは完全に前者のカテゴリーの人です。私が好きなのは「新たな価値を創造すること」であり、そういうことに携わっている人、それを目指している人、それの巧い仕組み、などに強い関心があります。

もっと俗な言葉でいえば、どんどん新たにでてくる“儲ける仕組み”や新ビジネスについて学んだり考えたりするのは、とてもワクワクすることです。

もちろん、ちきりんの友人&知人の大半は同じグループに属しています。なのでそういう人と話してると、冒頭に書いた「最近、分配側に興味を持つ人が多すぎだよね」という話になるわけです。

よくでるのは、「あんなに多くの人が分配に興味があって、じゃあ、いったいあんたらが配る価値は誰が創るわけ?」的な話と、「社会企業家とかいう、意味不明な言葉はいったい何??」というあたりでしょうか。

ちなみにこの話は、ちきりんと同世代の人と話す時にだけ出てくるわけでもなく、20代の起業家的な若者と話していても全く同じ言葉を聞きます。だから年代の差というよりは思想や嗜好の差なのでしょう。


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なぜ分配側に関心を持つ人が増えてきたのかといえば、ひとつは、日本の経済が停滞し、生み出される価値の総量が伸びなくなってきたので、より分配方法が重要になってきた、ということでしょう。

高度成長期には、創造される価値がどデカかったので、分配方法が少々適当でもみんなが恩恵を受けられました。今は“びびんちょ”な価値を取り合っているので、分配方法が公正か、公平か、ということに多くの人が敏感にならざるをえません。


もうひとつ、従来は分離されていた創造側の人と分配側の人が、出会うようになってきたという変化もあるでしょう。昔は創造側の人は自民党支持で資本主義陣営、分配側の人は社会党や共産党支持で社会主義支持と分離されていました。それぞれの存在は知っていても、お互いの領域が混じることはありませんでした。

でも今や、外資系金融に応募してくる学生が堂々と「ボクは分配側に関心があります」とか意味不明なこと言い出す例さえあるくらいです。

ちきりんブログだって、これだけ明確に「あたしは価値創造側の人ですよ」と書いているのに、時には明らかに分配側の人から「意見が同じです!」みたいなご連絡を頂き、「いや、違うでしょ、ぜんぜん・・」みたいなこともあります。


ちきりんがこの件について「あたしたちは謙虚に反省すべきだよね」と思うのは、価値創造側の人達が、その意義とかそのおもしろさについて、ちゃんと伝えきれていない、ということです。

昔は「金を稼ぐことの価値」、「経済的な付加価値を上げていくことの価値」は説明しなくてもわかりやすかったんです。手で洗濯してたのに洗濯機が手に入るとか、熱くて死にそうだったのにクーラーがつくとか、そういう実体験を通して、みんな「経済成長することの意義」を理解しました。そんなものを言葉で説明する必要など、全くなかったんです。

でも今はそうではありません。モノの豊かさの変化はわかりやすいけど、サービスの豊かさの変化はそれほど見えやすくありません。さらに、豊かさが実現する範囲が昔より細分化されているため、全員が同じように豊かになった高度成長期とは異なります。

また、地球全体ではどんどん豊かになっていても「日本が豊かになっていない」という理由で、価値創造側の活動全体を否定する風潮も再出現しています。


私は分配制度の意義を否定しているわけではありません。「創造側」に嗜好と支持を持つ者のひとりとして、やっぱりもうちょっとこっち側のマーケティングも頑張っていくべきだよね、と思い始めているだけです。

今までは放っておいても「価値創造ありき」だったから、実際のところ創造側には、あまりマーケティング活動が必要という意識がありませんでした。でも、それもそろそろ考えを変えるべきでしょう。


「会ったこともない人達が、自分が創ったモノやサービスに、貴重なお金を払ってくれる」ということの意味を大事にしましょう。そういうものを創り出せるのは、大きな価値がある行為なのです。

「タダなら欲しい」ではなく、「お金を払ってでも欲しい」と思ってもらえるものを創りましょう。たくさん儲けている人は、たくさん価値を提供しているのです。多くの人がその人の創り出すモノを「お金を出してでも手に入れたい」と思うからこそ、その人のところにお金が集まっているのです。

ちきりんはたくさんの若者に“儲ける”おもしろさを楽しんでほしいし、ビジネスに成功し、実際に大金持ちになって欲しいと思っています。応援してるから頑張って! & ちきりんブログの貢献を忘れず、大成功したらぜひ奢りにきてください。(お店は和食かイタリアンで)


そんじゃーね。



<関連する過去エントリ> 
・「豊かになる意味
・「先進国生まれという既得権益
・「どんどん稼いでどんどん使おう!