連載06) 新卒就活カードを敢えて捨てた理由

<日本の地方と若者の政治参加を考える特別連作エントリ>
バックナンバーは下記です。
連載01)  新宮市に行ってきた!  
連載02)   並河哲次 新宮市議 26才
連載03)   新人議員、大災害の衝撃!
連載04)   非常時対応とは? 復興とは?
連載05)   “ワンパターンの地方再生策”を脱するには?

本日は、並河氏のキャリア選択についてのインタビューです。


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ちきりん「並河さんは、『企業で働く、ビジネスをする、営利活動に携わる』ことには興味がないのでしょうか? 今まで全く関心を持ったことがないですか?」

並河氏「世の中にはいろいろ問題がありますが、そのうちの一部は解決され、残りは解決されずに残っています。企業の営利活動によって解決された問題もたくさんあります。一方それでは解決できなかった問題が今、社会に残されています。

それらの「解決されなかった問題」は営利活動が苦手とする問題だということでしょ? そうであれば、それらを解決するには営利活動とは異なるアプローチが必要です。私はそっちに関心があるということです。」



写真:ポン菓子を売る並河さん 本人提供


ちきりん「なるほど。そういった「市場」が解決できない問題をなんとかするのは、一般的には「公」の役目ですよね。並河さんは霞ヶ関の官僚になろうとは思わなかったんですか?」

並河氏「たとえば、生活保護制度がどうあるべきか、厚生労働省が考えています。でも東京にいても現場の状況は全く見えないと思います。現場側の市長、議員、行政担当者が、こうあるべきという制度案を発信するのが大事だと思ってるんです。」


ちきりん「たしかに、それはすべてに関して言えますね。いくら優秀でも、現場から遠い、現状が何も見えないところで考えるのは限界がありますよね。しかも一言で地方といってもそれぞれの事情も違う。」

並河氏「そうです。私は、優秀な人がもっと地方に来ることが大事だと思ってるんです。地方では、中央で仕事をするよりリアルなインパクトが出せます。マクロな政策論ではなく、一地方で現実に成功モデルが示され、それが他の地方、ひいては日本全体に広がっていく、そういうミクロからのアプローチが大事だと考えているんです。」


ちきりん「政治家は世の中を変えられると思っているんですね?」

並河氏「小さい行政単位なら変えられると思います。橋下さんを見てると、強力なリーダーシップを持っている人なら、大きいところも変えられる可能性があると思います。

ただ問題は、政治家を目指す若者の多くが、自分の地元で政治家になろうとすることです。郷土愛は悪くないのですが、それだと変革の力が分散してしまいます。それぞれの地域で、変革を求める人がひとりだけ議員になっても何も変わらない。

私自身はふとしたきっかけで議員に立候補しましたが、いま伝えたいことは自分の故郷じゃないところで、議員になる選択肢もあるということ。つまり『自分がそこで議員になれば、何かを変えられる可能性がある』という場所に行って議員になるという方法もあるということなんです。自分としては、新宮市をそういう場所にしたいと思っているんで。」


ちきりん「それは、もし新宮市で議員になりたいという人がいれば、並河さんが応援しますということですか?」

並河氏「そうです。もちろん地元の人でもいいし、新宮市に地縁のない人でもいいです。」


ちきりん「でも、並河さんは部外者の若者市議一人目だったから当選させてもらえたけど、そういう人が増えてきたら、後から来た人は当選しにくくなるのでは?」

並河氏「そうですね。だからこそ、一人目である自分が、今の地方議会や地方行政の何がおかしいのか、そこを変えれば何ができうるのか、ということを、有権者の方々にどんどん伝えていかなければならないと思っているんです。

そうすれば、外から来た若い人でも「彼らなら変えてくれる」という期待を持って貰えます。そういう人を育て、選んでいこうというふうに有権者の方々も思ってくれると思うんです。」


ちきりん「責任重大ですね。そして私も、情報発信、情報開示はすごく重要だと思っています。」

並河氏「ただ、それが過去1年の反省点でもあります。台風があったからというのもありますが、今あるいろんな問題をもっとどんどん開示していく、なぜ問題が起こっているのか、なぜ解決できないのかを、外に出していくことに、もっと積極的に取り組んでいこうと思います。」



写真:選挙活動を手伝ってくれたボランティアのみんな 本人提供


ちきりん「ところで並河さんは、最終的に選挙に出るにしても、まずは就職しようとは思わなかったんですか?」

並河氏「世の中には一回就職してから辞める人はたくさんいるんです。だから自分としては、いったん新卒カードを使って就職し、その後に辞めて独立するのではなく、そのカードを使わないという道を敢えてとりたかった。新卒一括就職制度は本当におかしな制度です。だからこそ、みんなにこういう選択肢もあることを示したかったんです。」


ちきりん「そうだったんだ! たしかに新卒就活制度の意味不明さはすごいですよね」

並河氏「後から企業で働きたくなれば、就職すればいいんです。新卒じゃないからだめ、企業で働いた経験がないからだめというなら、そんな企業はこっちから願い下げです。向こうが門前払いしてくれれば、こちら側も働くべき企業を選択する手間がかからなくて、寧ろいいとさえ思います。」


ちきりん「そこまで言い切ると気持ちいいですね。今の新卒一括就職では、学歴のいい人ほど“新卒カード”の価値が大きいでしょ? 並河さんだって、京大の肩書きがあるから家庭教師で供託金を稼ぐことができたわけですから、本当は学歴がいいほどリスクをとりやすいはずなんです。それなのに、そういう人ほど新卒カードの価値が高いからカードが手放せない。これって皮肉ですよね。」

並河氏「いや。それは反対で、リスクをとらない選択をしてきた人が、高い学歴をもっている、とも言えるんです。

私は中学卒業後、植物や園芸関係の専門学校に進むことを検討したけれど、親や先生の説得で進学校に進むことになりました。これは選択を先延ばしし、リスクをとらなかったということで、その結果、京都大学に入れたわけです。いい学歴を持っているというのは、少なくとも22歳までリスクをとったことがありません、ということの証拠でもあるんです。」

ちきりん「それはおもしろい見方ですね。リスクをとらなかったとまで言えるかどうかは微妙ですが、少なくとも22歳まで無思考に生きてきました、だからいい学歴が手に入りました、とは言えるのかもしれませんね。」

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ちきりん「ご存じのように、私もブログでは若い人に地方議会の選挙に出ろと煽っているのですが、実際に出る人は少ないですよね。若い人が選挙にでない理由はなんだと思いますか?」

並河氏「先ほどの新卒就職カードの価値が大きすぎるというのが、ひとつの理由。もうひとつは、政治についてなんの教育も受けていないので、よくわからないのだと思います。20歳になって選挙権が与えられたから投票に行けと言われるだけでは、政治になんの興味も持てません。

政治家がなにを決めているのか、政治家って何ができるのかイメージが湧かないんです。就活で皆が大企業に入りたいと思うのも同じですよね。CMで名前を知っている有名な会社以外は、イメージが湧かない。だから大企業に殺到する。

学生が仕事のイメージを持てるのは、先輩の話を直接に聞くなどした場合です。だから政治家に関しても、一定数、先陣を切ってやる人が出てこないといけない。そういう人が増えてくると、先輩から後輩へイメージが伝わり、やりたい人も増えるはずです。そういう意味では、議員インターンもいい方法ですね。」


★★★

今回、並河さんのお話を聞いていて、「これは本当に、地方議員という職業が若者のひとつの選択肢になっていくかもしれないな」と思いました。たしかに仕事のイメージが持てれば、就職と並列の選択肢として十分に考えられるんじゃないでしょうか?

一応、過去の煽りエントリを再度ご紹介しておきます → 若者はどんどん地方議会の議員に立候補しよう!


そんじゃーね(続く)