連載07) 社会を変えたいなら、自分が違う生き方を選ぶこと

<日本の地方と若者の政治参加を考える特別連作エントリ>
を再開します。バックナンバーは下記です。
連載01)  新宮市に行ってきた!  
連載02)   並河哲次 新宮市議 26才
連載03)   新人議員、大災害の衝撃!
連載04)   非常時対応とは? 復興とは?
連載05)   “ワンパターンの地方再生策”を脱するには?
連載06)   新卒就活カードを敢えて捨てた理由

引き続き、並河氏にお話を伺っています。「社会を変える」ためには何が必要なのか、並河氏の最後の言葉が心に響きました。


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ちきりん「若い人の政治参画を促すには何が必要なのでしょう?」

並河氏「やろうと思えば選挙や政治を通して自分達で現状を変えていけるという感覚を得ることが大事だと思います。」


ちきりん「そういえば学校って、学級委員長や生徒会長の選挙をやりますよね。あれが無意味というか寧ろ有害なのは、選ばれた人が何も変えることができないからです。クラス委員長になっても『起立・礼』とか言うだけですから。あれでは子供らに、選挙をして誰を選んでも何も変りません、と教えているようなもんです。

ところで、その『やれば変えられる』という感覚を並河さんはどこで身につけたのですか?」


並河氏「学生時代にいろんなNPOの手伝いをさせてもらい、社会に働きかけることを体験的に学びました。その中で初めて政治に関わっている人とも知り合い、話をする機会を得て、そういう選択肢の存在を知りました。

それで自分でも自主的にポン菓子屋とか小さいイベントをやってみたら、成果につながり、ポジティブなフィードバックが得られたんです。

小さなことでもやってみたらできたので、次のことにチャレンジしたくなるという好循環が始まりました。それが今、議員をやっていることにつながっています。」

ちきりん「やっぱり、そういう実体験が大事ってことなんですね」



写真:新宮市に移住し、ポン菓子売りをしていた並河さん 本人提供


ちきりん「並河さんは、新宮市にそういう人に集まってもらいたい?」

並河氏「はい。ここを、若い人が地域行政の変革を率いるモデル地区にしたいと思っているんです。もしくは日本の既存システムの変革を始めたい場所、といってもいいです。

今、日本の地方には問題が山積しています。それらの多くは従来の考え方では解決できない問題なのに、新しい枠組みが生れないし持ち込まれないので解決できません。

今や、地方の問題こそ日本の問題なんです。地方でこそ解決策を実践しなくちゃ行けない。霞ヶ関頼みの従来の枠組みだけでは、もう何も解決しないです。

だから、地方行政、集落の運営、農業、教育などに関して、既存の仕組み以外の新しい仕組みを提案したい、試してみたいという人がここに集まってきて、実際にやってみる、新宮市をそういう場所にしたいんです。」


ちきりん「社会全体を変えたい、という人に、小さな行政単位で実際に変革に携わってもらう、ということですね。」

並河氏「はい。既にここにはそういう人が集まりはじめています。フルタイムで数人が関わっているし、私の選挙の時には何十人も集まって手伝ってくれたように、何かの時に集中して助けてくれる人もいます。

常に都会で遊びたい人には向いていませんが、必要な生活費は少ないので食べていけるし、必ずしも営利ベースで成り立たない試みでも、実際にやってみることができます。

政治家を目指す人、日本の地方の問題について考えてみたい人、農業とか教育とかについて、こうあるべきだという思いのある人に来て欲しいです。そういう問題から始めて、日本の多くの地方が抱えている問題に取り組めば、最終的には日本全体を変えて行く動きにもつながります。」



写真:学生時代アウトドア活動を楽しんでいた頃の写真 本人提供


ちきりん「社会を変えたい、という思いは、霞ヶ関の官僚を目指す人と同じに聞こえますね」

並河氏「実際、そういう人、社会の仕組みを変えたいと思っている人に向いていると思います。中央官僚になって変えるという視点と、地方の現場から始めるというミクロの視点の両方、ふたつのアプローチがあっていいと思うんです。

そしてここの方が、若い時から『どんどんやってみる』ことができます。「何かやってみたいことがある」人に集まって欲しい。新宮出身の人に関していえば、外での経験をしてから戻ってきて来てくれたらすばらしいし、地縁のない人でもうちはどんどん受け入れますよ、という体制を作りたい。」


ちきりん「それは素敵ですね。でも、社会を変えたいという思いがある人でも、社会人としての基礎スキルを身につけるために最初は就職するとか、社会を変えたいから霞ヶ関に、というのは、安全なキャリアですが、就職もせずいきなり地方に住み着き始めるなんて、普通はなかなかできない気がします。」

並河氏「わかります。でも、本当に社会を変えたいのなら、自分自身のキャリアにおいて、今の社会で典型的でない選択をすることこそが、その第一歩となるはずなんです。

自分の生き方をかけた、その選択が社会を変えるんです。それなしに社会を変えられますか? 今と違う社会を作りたいなら、自分がまず、今と違う選択をすべきでしょう?」

ちきりん「・・・確かに・・・その通りですね。社会を変えるためには、まずは自分の生き方において、違う社会のあり方を示すことが必要なんですね。」


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繰り返しになりますが、最後の言葉は本当に心に響きました。「今の社会を変えたい」と思っているのに、「今の社会が敷いているレールの上しか走らない」ようではお話にならないのはそのとおりですね。


この連載も、残すところいよいよあと2回です。


そんじゃーね。(続く)