日本人は平和ボケしてるから、海外で殺される?

アイセックのインターンでルーマニアに向かった女子学生が、ブカレスト空港への到着直後に殺害された事件に続き、今日はシリアで取材をしていた日本人の女性ジャーナリストが銃撃戦に巻き込まれて死亡というニュースが報じられています。お二人のご冥福を心よりお祈りいたします。


さてこういうニュースが続くとソッコーで、「日本人は平和ボケしてるから海外で事件に巻き込まれる」という論調がでてくるのですが、そういえば私は「海外で殺される日本人が、年間、何人くらいいるの?」かさえ知らないと気がついたので、まずは数字を調べてみました。

データは外務省の「海外邦人援護統計」にまとまっています。
外務省 海外邦人援護統計


それによると、海外で死亡する邦人の数は年間 500〜600名程度ですが、その大半は疾病による死亡です。海外在留者が病気になったり、高齢の旅行者が脳疾患、心疾患で倒れたりとかですね。2011年は、海外での邦人死亡数全体が 592名、うち7割が疾病による死亡です。

病死の次に多いのは自殺による死亡です。


疾病・自殺以外では、大きく分けて事故と事件に分かれるのですが、この二つを比べると、事故の死亡者数の方が圧倒的に多いです。

事故の中で多いのは、スポーツ・レジャー関連の事故死です。雪山で遭難するとか、マリンスポーツで溺れるとかですね。2011年は、32名が死亡しています。

それ以外では自然災害で、インドネシア スマトラ沖の地震(津波)とか、ニュージーランド、クライストチャーチの地震など。2011年は29名が死亡していますが、このうち28名はクライストチャーチの地震の被害者です。


交通事故も多く、航空事故や列車事故、遊覧船やケーブルカーの事故などで複数人の被害がでる場合の他、単発の交通事故もあります。2011年は25名。なお交通事故の場合、死亡者は25名ですが、負傷者は150名です。

あとは作業中の死亡が4名、その他の事故での死亡が14名です。(旅行者だけでなく、駐在や留学している日本人の死亡も含むので、生活の中での事故死かもしれません。)

上記の事故死を合計すると、104名です。

病死、自殺死、そして、交通事故や自然災害による事故死は、「海外で殺された日本人」には該当しません。


では殺人や強盗によって海外で亡くなる日本人はどれくらいいるのでしょう? 2011年の場合、殺人事件の被害者が9名、強盗・強奪被害で5名が死亡、合計14名です。いわゆる「海外で殺された」という概念に該当する人数は、この14名と言えます。

同じベースの数字で2010年は9名、2009年は17名なので、変動はあるものの、10から20名くらいの日本人が毎年、海外で殺されているみたいです。


ところで、日本国内における殺人による死亡者数は、同じ2011年で409名です。よく知られているように、日本での殺人被害者(死亡者数)は、ここずっと減少傾向にあります。1998年には808名だったので、この13年で半減しています。(使用データ


やや乱暴な比較となりますが、日本国内では、1億2780万人の人口のうち409名が殺されているので、1年で殺された人は、31万人に一人です。

一方、2011年の海外への出国者数は1700万人程度、海外在留者は120万人弱です。海外在留者の中にも出国者数としてカウントされている人もいるでしょうから、母数を1800万人として計算すると、海外で殺される日本人は1800万人÷14人で、128万人に一人となります。

この数字だけだと日本人に関して、国内にいるより海外に行くと殺される可能性が高くなるわけではありません。


海外での滞在日数は長くても1週間程度という人が多いでしょうし、日本での殺人数との単純比較はできません。また(当たり前ですが、)私は「海外は日本より安全だ」「海外と日本の危険度は同じだ」と言っているわけではありません。殺人を含め、大半の犯罪発生率は日本は非常に低く、世界でも稀な安全な国です。
→過去エントリ:「日本の凶悪犯罪はすごい少ない・・


ただ、海外で殺される日本人の絶対数は、毎年10人前後だということも、理解しておいた方がいいです。

上記に書いたように、海外に出国した人の内、殺されてるのは120万人にひとりに過ぎません。一方で、殺人による死亡者数が半減した今でさえ、国内で殺される人は31万人にひとりいるんです。

センセーショナルな報道により、「海外はすごく危険で、たくさんの日本人が殺されている!」と即断するのはどうなのよ?という話です。


★★★


なお、「日本人は平和ぼけだから海外で事件に巻き込まれやすい」という言葉を証明するには、日本と比べて圧倒的に凶悪犯罪の多いアメリカと比べ、

「自国内で犯罪の多いアメリカ人は、海外でも警戒しているから被害に遭いにくいが、日本人は平和な日本に慣れ、海外に行ってもボケーとしてるから犯罪に遭いやすい」

ということを証明する必要があります。


同じ渡航先で比べる必要があるので、「欧州を訪問したアメリカ人の数と、そのうち凶悪犯罪に巻き込まれた人の数」vs「欧州を訪問した日本人の数と、そのうち凶悪犯罪に巻き込まれた数」を比べれば、本当にそうなのか、わかると思います。

「日本人が平和ボケだから犯罪に巻き込まれやすい」と言っている人は、本当に、上記のような分析の結果、日本人が圧倒的に犯罪に遭いやすいのだと思っているのでしょうか?


「日本人は平和ボケだよねー」的な感想を言うことは簡単だけど、「ほんと? 犯罪の多い国の人は海外で被害に遭いにくいの?」の分析に基づいて、そう言うのはそこまで簡単じゃありません。

あたしのカンだと、実際に調べたら証明できず、否定される可能性もあるんじゃないかと思います。海外旅行中のアメリカ人が、その行動において、ものすごく慎重だという気はあんまりしません。


気が向いたら誰か調べてみてくださいませ。


そんじゃーね。