キャリアのVSOP論の真実

今年の4月に「キャリアのVSOP」というエントリを書きました。

簡単に言えば、各年代において、下記のような感じでキャリアを積んでいこうという話でした。

20代はいろいろ体験しよう=バラエティが大事=V

30代は専門分野を決めて深掘りしよう=スペシャリティが大事=S

40代は自分でなくちゃできない仕事をしよう=オリジナリティが大事=O

50代は個人の人格と信頼で仕事をしよう=パーソナリティが大事=P

その時も書きましたが、この話は私が考えたものではなく、20年以上前に誰かから聞いた話です。そしてずっと出典を探していました。


4月に上記のエントリを書いた後、多くの方から出典に関する情報を頂きました。それにより、過去 20年の間に数多くの人がこの話を、書籍、ウェブ、テレビなどで紹介されているとわかりました。

そこで寄せられた情報を元に、それらをチェックしてみたのですが、大半の方が「・・・と言われている」とか、「・・・と聞いたことがある」という伝聞、引用形式での言及でした。

また、まるで自分の意見のように書かれている場合でも、ちきりんが最初に聞いた時期より後に書かれているものもあり、その方が発案者とは思えないものが多かったのです。


ですが今回、「この人が最初にこれを言い出した人だろう」とほぼ確信できる本を見つけました。というわけで、皆様にご報告させていただきます。


それは、下記の本を書かれた脇田保さんです。脇田さんは大正 13年生まれの早稲田大学政経学部卒、サンケイ新聞の記者を務められた方で、相当数の自己啓発書を書いていらっしゃいます。(“サンケイ新聞”という表記は、この本の著者紹介文そのままを記載しています)



(帯の写真は著者ではなく、推薦者です)


昭和 53年 (1978年)10月にマネジメント社から発売されているビジネス系自己啓発書『自立人間のすすめ』で、副題はそのものズバリの「VSOP人材論」です。定価 980円。本の値段が高くてびっくり!


こちらが目次。VSOPについては第三章で始まり、


このように、年代別でのVSOPの割り当ても、より厳密な形で説明されています。



しかーし、ちきりんが記憶している話とは、大きな違いが一つありました。それは、20代のVが「バラエティ」ではなく、「バイタリティ」であったことです。


そーだったんだー!!!!


1978年ですからね・・・。20代はバイタリティの時代なんです。

「頑張れ、根性だ、体力だ!」のバイタリティです。


この、20代をバラエティに言い換えたのも私ではなく“誰か”なのですが、それが誰なのかを突き止めることは難しかったです。

それにしても、誰かが時代の流れの中で、「 20代は根性で頑張れ!」を、「 20代は多様な経験を積もう!」に変換したのです。


すばらしい!


まさに「時代性に沿った(おそらく意図的な)改竄」・・・



なんですけど、この本読んでると、「なんだかなー」と思うこともたくさんあります。

たとえば、書いてある
「あなたから会社をとったらなにが残るか」
「仕事一辺倒の勤勉主義は正しいか」
などなど・・・ビジネス書って 35年前から同じこと言ってますね。

「自分自身の主人公になれ」という小見出しもあるんですが・・・これなんて、あたしが『ゆるく考えよう』で書いたことと同じじゃん!?


このように、自己啓発書って 30年も 40年も全然かわらず、ずっと同じことを言ってる! というのはちょっと驚きでした。あと、35年前から本の値段があまり上がってないことにも驚きました。まぁ次の 35年後には、本の値段はさらに安くなっていても不思議じゃないですけど・・。


ただ大きく変わったこともあります。それは文章が難しすぎること。この本も、当時としては軽めのビジネス書だったのだろうと思いますが、今読むと(読むのを挫折するほど)文章が固く難解です。

ビジネスの本質は変わってないけれど、「過去 30年の間に、日本語は確実に軟化している」ということがよくわかります。これも次の 35年後にはもっと顕著になるでしょう。てか、ビジネス書の大半がマンガ&ライトノベル形式になってても驚きません。

これだけ日本語の難易度が変わってるんだから、昔の名作を簡単に解説しようという本が増えている傾向も頷けます。


いずれにせよ原典が分かり、しかもオリジナルでは「 20代は根性で働け!」であったこともわかり、大変勉強になりました。

この件に関して情報を寄せて下さった皆様に心より感謝いたします。


そんじゃーね