アメリカは普通の先進国になるのかしら?

オバマ大統領の再選が決まりました。初の黒人大統領を生み出した 4年前の熱狂と比べると、なんとも渋い勝利でした。

んでもって気の早いちきりんとしては、既に4年後の大統領選が大変に楽しみです。

なぜかというと・・・


ご存じのようにアメリカでは二大政党が政権を取り合っています。その違いは、ざっくり言うとこんな感じです↓


<共和党・Republican>

・保守層が支持 (神が人を作った、中絶反対、家庭教育や道徳教育が大事など)
・小さな政府志向 (減税、規制緩和賛成、社会福祉の充実反対、銃規制反対など)
・支持産業 (農業・畜産業、資源系、軍需産業、その他、歴史の長い産業)
・“アメリカは世界の盟主”的外交姿勢 (中国と世界を分け合うなんてありえない。国連なんてゴミ、他国を助ける必要はない)
・富裕層の支持が大きい
・南部・中央寄りの州で支持が高い(red states 赤い州)
・今回の候補者はロムニー氏で、過去にブッシュ親子や、レーガン、ニクソン、フォード大統領などが出ています。



<民主党・Democrats>

・リベラル層が支持 (中絶や同性婚もあり得る。人種が違う人も平等)
・大きな政府志向 (富裕層増税、社会福祉の充実←国民皆保険は悲願、GMを潰さない!的)
・支持産業 (IT,サービス業、ベンチャー企業など)
・アメリカは強い国であるべきだが、他国との関係も尊重、世界の人権問題にも積極的に口出しする
・庶民層、移民、マイノリティ層の支持が大きい
・カリフォルニアやニューヨークなど都市部、多民族の州(青い州)で支持が高い
・オバマ大統領の他、クリントン、カーター、ケネディ大統領などがでています。


★★★


さて、世界のトレンドとして、基本的に先進国はみんな将来が暗いです。

今までは発展途上国の犠牲の上に自分達だけが豊かな生活を謳歌できたけど、これからはそうはいきません。

大半の先進国はすでに高度成長を終え、低成長時代に入ってしまっています。


低成長時代になると、多くの人が“大きな政府”志向になります。民間セクターの経済が成長しないなら、国が税金で(公共事業や福祉で)経済を活性化すべきと考えるからです。

また、市場から稼ぐより、公務員になったり、補助金や公共事業から収入を得ようと考える人も増えます。

こうした社会主義的な(大きな)政府の行き着く先は、巨額の財政赤字であり、最終的にはギリシャです。

もちろんギリシャだけでなく、ヨーロッパの多くの国も、そして日本もその方向に進んでいます。


この“自然なトレンド”に反することができるのは、
シンガポールのようなものすごい危機感のある国(←意味がわからない方は 『世界をあるいて考えよう!』 をご覧ください)
、それに、生まれた時から市場原理&自己責任の DNA を持っているアメリカだけです。


時々「アメリカでは根付いている寄付文化が、なぜ日本では根付かないのか」という意見を聞きます。

でもね。

アメリカというのは、クリントン氏やオバマ氏のような超支持率の高い大統領がトライしても国民皆保険を導入するのが極めて困難な国です。

オバマ氏が 2年前に通した医療保険改革案については、多くの州が連邦政府を訴え、「国民皆保険は合憲か違憲か」みたいな議論が起っています。


アメリカでは、「困っている人を社会福祉で助けるのはよくない。困ってる人はお金持ちが寄付して助ければいい」と考えるのが多数派です。

つまりアメリカにおける寄付文化とは、「弱者を助けるのは国の役目では泣く、篤志家の慈悲であるべき」という考えの上に成り立っているんです。

これほど“大きな政府がキライ”な国は他にありません。


今そのアメリカが、(相対的には)大きな政府を志向する民主党、オバマ氏を選んでいます。

その上、「市場だけでいいのか?」とかいうサンデルおじさんが人気になったりしています。格差反対のデモまで起きてます。

2008年のリーマンショックによって、アメリカは“too big to fail”=巨大すぎて(世界に迷惑がかかるために)潰せない、とわかった金融業界に「これからは“手錠”をかけてビジネスをするよう」言い渡しました。

これはいわば、資本主義の先端部分を「使用禁止」にする措置でした。


今後も民主党政権が続き、底辺部分も「国が支えるべき」と言い出したなら、アメリカはこれから他の先進国と同じ方向に歩み始めることになります。

「景気が悪くて格差が大きくなったら、政府が弱者を福祉制度で助けてあげるべき」と考える、普通の国になるのです。


もちろん、4年後にアメリカが共和党の候補者を選ぶなら、そこは「やっぱりアメリカ」です。

ここまでも、オバマ(民主党)←ブッシュ(共和党)←クリントン(民主党)←ブッシュパパ(共和党)←レーガン(共和党)←カーター(民主党)てな感じで、政権交代がおこっているので、次が共和党ならそのトレンド通りです。

4年後、「やっぱこのままではアカン! アメリカが普通の国になってしまう!」という危機感を持った人達が、減税、規制緩和、銃規制反対、協調外交破棄といった伝統的なアメリカの価値観を代表する共和党候補をトップに選ぶ可能性は十分にあります。


その一方、もし次も民主党が政権を維持したら、それは「アメリカという国のトレンドの変節点」です。

4年後にふたたび民主党候補が大統領になり、弱者保護や規制強化を進め、大きな政府を目指して富裕層への課税を強化したら = オバマ大統領と併せて 16年もそんな時代が続いたら、

「政府の介入なんて最小化すべきであり、自分の身は(警察ではなく)自分が銃を持って守るべき」だと考える、資本主義ラブで自己責任ラブなアメリカは終わってしまいます。

それは、アメリカが「普通の先進国」になることを意味しています。



アメリカも、いよいよ普通の先進国になってしまうのか、それともアメリカだけは、そうはならないのか。

4年後の大統領選が、めっちゃ楽しみなちきりんでした。



そんじゃーね


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