ネットメディア入門書としてお役立ち

田端信太郎さんから御著書『MEDIA MAKERS』を頂きました。

MEDIA MAKERS―社会が動く「影響力」の正体

MEDIA MAKERS―社会が動く「影響力」の正体


田端さんは、ライブドア事件当時“livedoorニュース”の責任者だった方で、その昔はR25の創刊に関わり、最近は多くのメディアサイトの立ち上げやマネタイズを手がけている“ネットメディアのプロ”です。

前書きでも「長く「メディアの魔力」に恋い焦がれ、取り憑かれてきたものとして」、とあるように、彼の「スキ好きスキ好き、メディア大好き!」という気持ちが溢れています。


一方の私は「Chikirinの日記」が人気化したことで、意図せずしてネットメディアの世界に片足のつま先を突っ込むようになりました。

そして今、田端さんが言われるように「これからは、一般ビジネスパーソンもメディアの知識が必要な時代」と、ヒシヒシと感じます。


この本のナイスなところをまとめれば、

1.米軍が独自の機関誌(メディア)を持っている理由とか、FT紙がピンクである理由など、世界のメディアの事例をふんだんに織り交ぜて、その意味するところをまとめ上げ、「つまりメディアとは?」という洞察に落とし込んでいるところです。雑学的な事例から洞察を導き出す人の話は、どの分野でもとても面白いです。


2.新旧メディアを「ストック・フロー」、「参加性・権威性」、「リニア・ノンリニア」という3軸で分類したフレームワークも、とても有用に思えました。

この話の中で田端さんは、「映画は最もリニアなメディア」だと書かれています。以前ちきりんは、「ニートの歩き方というか」というエントリで、phaさんが「僕は映画が観られない」と言っていることを紹介しました。

実はこのふたつの話は完全に符合していて、phaさんが映画が観られない理由が、この本の中ではキレイに説明されています。


★★★


ではここで、「Chikirinの日記」も、そのフレームワークに沿って分析してみましょう。


A.ストック・フロー  私のブログは、時事問題について継続的に更新しているという意味ではフローです。でも、実はストック性もかなり高いように感じます。

たとえば、これは11月に入ってから6個目のエントリです。つまり昨日の段階では、私は半月で5つしかエントリを書いていません。そしてその半月のPV合計は、80万PVです。

「Chikirinの日記」より圧倒的にPVが多いサイトはたくさんあります。けれど、「5記事しか更新せずに80万PV」というのは、けっこう珍しいんじゃないでしょうか? これは、このブログのストック性の高さを示しているように思えます。


B.参加性・権威性  これは明確で、「Chikirinの日記」は権威性側に寄ったサイトです。

内容に権威があるという意味ではなく、コメント欄も閉じてますし、みんなが作っていくサイトではなく、「ちきりんが言いたいことを言う!」サイトだという意味です。


C.リニア・ノンリニア  これが一番おもしろい概念だと思いました。簡単に言えば「どこからでも読める」=ノンリニア、「最初から通して読む必要がある」=リニアです。

「Chikirinの日記」はノンリニアです。どこからでも読めます。一回読み切り型のエントリが多く、連載型ではありません。

ただ、数は少ないですが「最初のエントリから全部読みました!」と言って下さる方の(比較的)多いブログでもあるだろうとは思ってます。

そして結論からいえば、「私のブログは明らかにノンリニア形態ではあるけれど、読み手を如何にリニアな世界に呼び込むのか、がポイントなんだな」と思えました。


「何言ってんのかわかんねー!」という方は、『メディア・メーカーズ』を読んで下さい。


★★★


さて、この感想を書いている時、下記の記事を見つけました。長い文章ですが、新しいネットメディアを考える上で非常に興味深い記事でした。

 → 週刊(だったはずの)有料メルマガが一ヶ月間配信されなかった件

週刊メルマガが一ヶ月間まったく配信されず、それなのに課金が続いており、あげくの果てにメルマガ発行会社が、10月一ヶ月間に 4-5本出すとして読者を募ったメルマガを、「10月31日に4本出すのもOK」だと主張する・・というおよそまともな商売とは思えない話が書かれています。 (それって一本のメルマガを4本に分けて配信してるだけでは??)


田端さんもメルマガに関しては、下記のようにコメントされてます。

せっかく押させた「購読ボタン」の価値を局限化する戦術は、「怠惰」という人間本来の性質に裏打ちされている意味で、私は極めて有効なビジネスモデル基盤だと思っています。


これはまさにそのとおりで、定期購読メディアにおいては「最初の一ヶ月を無料にする」+「面倒で解約しない人を狙う」のが効果的だし、「こんな豪華な執筆陣が書きますよ!」と煽って予約ボタンを押させ、実際に記事を書くのはごく一部の人だけ(人気執筆陣はほとんど記事を書かない)みたいな作戦でも、大半の読者はそれをイチイチ調べて解約したりしません。

その一方、「メルマガとはファンクラブである」という説もあり、そうであれば「一ヶ月、なんのメールも来なくても、ファンクラブの会費を喜んで払い続ける」というファン心理は、理解できなくもありません。

アーティストのファンが、今月行われるはずだったコンサートが延期されても、嘆きはするでしょうが、それでファンクラブを脱退したりはしないでしょう。

このあたり、今後メルマガが「コンテンツが提供されてもされなくても、書き手へのお布施としてお金を払うもの」になるのか、「コンテンツを書き手から読み手に渡すメディア」として存続していくのか、興味深い点だと思えました。


★★★


もうひとつ、田端さんは本書の中で“編集権”についても自説&考察を述べられています。そこには、自らがライブドア事件の渦中にありながら、堀江貴文さんの逮捕について臆することなく伝え続けたという「編集者としての自負」を感じます。

私の場合はコンテンツ制作者であって編集経験はないのですが、自分のコンテンツが誰かに編集されることはよくあります。

対談でしゃべったことは、ライターさんによって文章化され、編集者の方が記事として仕上げられます。何をメイントピックとして抽出するか、といった編集判断は私がしているわけではありません。(念のため:文句言ってるわけではなく、説明してるだけです)


また、「Chikirinの日記」のエントリの一部はニュースサイトに転載されるのですが、その際、「転載されるエントリと、転載されないエントリを分ける」のも、そのサイトの編集権によって決められていると言えます。

たとえば、この「市場を創るということ」というエントリ。ちきりんは、ここで書いた「市場とは何か」を理解することが、これからのビジネスパーソンには不可欠なセンスだと思っています。

したがって私が編集権者なら、このエントリを掲載しないという判断はありえません。けれどこのエントリは、外部サイトには掲載されませんでした。その価値がない、もしくは不適切と、サイト側の編集権者により判断されたからです。


ここで田端さんの「編集権の高潔さ」に関するコメントも引用しておきましょう。

このようなメディアとしての編集上の高潔さ、信頼感を「Editorial Integrity」とも言いますが、この「高潔さ」は一朝一夕に獲得することのできない価値です。

ほんとそう思います。


そんじゃーね!



↓kindle版は、かなり格安!

MEDIA MAKERS―社会が動く「影響力」の正体 宣伝会議

MEDIA MAKERS―社会が動く「影響力」の正体 宣伝会議