リーディングカンパニーが積み上げる珠玉のオペレーション

今ちきりんが大学生なら、いろんなチェーン店でアルバイトをすると思う。セブンイレブンはもちろん、マクドナルド、すかいらーく、ワタミ(居酒屋もいいけど高齢者施設で是非!)、あと、アマゾンの倉庫とかね。1年の時から1年ずつ、もしくは半年ずつ、あちこちでバイトしたい。

最近の“意識の高い”学生さんは、ビジネスコンテストに参加したり、ウエブ系企業でインターンしたりするらしいけど、私の場合はそうじゃなくて、大規模小売りやチェーンの外食企業で働きたい。



すかいらーく配送所のピックアップシェルフ。食材名を“一文字”で表すことでミスを防ぐ。ソースや食材の名前をカタカナや漢字でフルネームで書くより、間違いが減らせる


これは好みの問題だけれど、ちきりんは“時代の先端的な技術”よりも、“各業界のリーディングカンパニーが長年かけて作り上げた超高度なオペレーションシステム”の方に興味があります。

最近は「アマゾンが一番すごいと思う」というエントリを何度も書いてるけど、あれも視点は同じ。“オペレーションを極めて勝つ”というスタイルが大好き。

戦略とかマーケティングと違い、オペレーションは極めるのにものすごい時間がかかる。一部の優秀な人だけではなく、津々浦々の前線の人の智恵が詰まってる。だから一旦“ぶっちぎり”の体制を築き上げると、他社は容易に近づけない。そこにすごくワクワクする。



各個店に送られる商品がトレーに分けられ・・



出荷準備へ



今回、すかいらーくのキッチンを見せて貰って最も感心したのは、“ライン長さんの優秀さ”です。前2回のエントリでレポートしたように、セントラルキッチンの中には様々な調理ラインがあります。

ソースを作るライン、ハンバーグを作るライン、鶏肉をカットするライン、とかね。各ラインには10人から数十人のスタッフが働いていて、そのトップにたつのが“ライン長”

ライン長の仕事は多岐にわたるけど、大きくいえば「必要な商品を必要な数、一定時間内に作り上げること」、もちろん、安全や衛生状態にも万全の注意を払いながら。



ファミレスに行けばわかると思うけど、各個店では「いつ、どのメニューが注文されたか」、すべてシステムで管理されてます。フロアスタッフが「○○でよろしかったですか?」という意味不明な日本語とともに、端末に注文を打ち込むと、そのデータが厨房にもレジにも通される。

さらに数字は個店の中だけではなく、セントラルキッチンのシステムにも送られて、施設内の各ラインに「明日は○○をどれくらい作る必要がある!」みたいな情報として伝わるわけです。



たとえばソースを作ってるラインでは、それらの情報をみながら、「ポルチーニ茸のメニューがめちゃくちゃ出てる! ということは、今日はこのソースを何キロ、あのソースを何十キロ、こっちのソースをいつもの倍作る必要がある!」的な計画を立てて、ラインを動かすわけ。

食べ物のラインだから、機械工場みたいに厳密には進まない。どこを手作業でやって、どこを機械で行うのか、日々工夫を続けてる。しかもメニューは季節ごとに変更され、次々と新しい料理を作る必要がある。加えて、特別フェアの特別メニューも・・。

ライン長さんは、数十人のスタッフを教育&統率しながら、安全にも衛生状態にも責任を持ちつつ、次々とやってくる「これを何キロ、明日までに!」的な指示をとりまとめ、時間ごとのラインの稼働プランを立てて実行に移します。


複雑なラインの稼働予定表を見ながら「すげー!!!」と思って、「何年くらい働くと、ライン長になれるんですか?」って聞いたら、「最初は小さなラインの長になるので、数年働けばなれます」との回答。

びっくらこいて「数年で、そんなスゴイ仕事ができるようになるんですか!???」って聞いたら、「もちろん、何十年たってもなれない人もいます・・・」とのこと。


そりゃそーでしょう。ほんと、すごいノウハウだと思った。(そしておそらく本人達は、自分がどんだけスゴイ仕事をしてるか気がついてない・・)



しかも彼らはセントラルキッチンと同じ敷地内に、厨房什器を内製する専用工場まで持ってる。そして、「こんな大きさの作業台が欲しい」、「こういう機械が必要」という現場の細かいニーズに応じて、社内で厨房機械まで作ってる ↓



すかいらーく セントラルキッチン専属 街工場!?


もちろん大きな専門の機械も購入するんだけど、ちょっとした工夫で生産性が上がることもよくある。だから「自分達で使いやすい台所自体を作ってしまおう!」というわけ。


ちなみにすかいらーくは配送会社までグループ内に抱えていて、上から下まで全部自社でやる“垂直統合モデル”です。(たとえば、食材調理の大半を海外企業に委ね、配送は運送企業に委ねる、という方式との対比として)

そして、彼らはそのノウハウをすべて自社内で開発し、日々改善し、ここまでに高めてきてるわけ。ご存じのように、一時期はいろいろ苦しい時期もありました。ちきりんも昔のイメージがあって、いまいちファミレスに積極的に行きたい気持ちにはなれていませんでした。

でも今回、話を聞いて、「こりゃすごい」と思いました。ホント「百聞は一見にしかず」



食材倉庫。次々と運び込まれ、次々と運び出される・・


業界をリードするトップ企業のオペレーションを手取り足取り教えて貰えて、時給まで貰える。そんなバイトの機会が目の前にあるのに、たかだか千円ほど時給が高いとかいう理由で家庭教師やら塾講師のバイトやってる一流大生とかってホントに意味不明。学ぶということに、もう少し貪欲になったほうがいい。



<関連エントリ>
 → 「払うべきか、稼ぐべきか
 → 「ちきりん最初の職業選び



そんじゃーね