防護壁、そして障壁としての言語の壁

私がネタ元にしてる下記の本には、映画会社の日活が会社創立100周年の記念ロゴを、クラウド・ソーシングで募集した事例が紹介されています。

クラウドソーシングの衝撃 雇用流動化時代の働き方・雇い方革命 (NextPublishing)

クラウドソーシングの衝撃 雇用流動化時代の働き方・雇い方革命 (NextPublishing)

→ キンドル版はこちら


この仕事には当時、一週間で 152デザイン(人数は100名ほど)の応募があり、採用されたロゴのデザイナーには報酬として 7万円が支払われました。これかな? → 日活創立100周年ロゴ決定!


上記の本によると、もし「会社創立100周年のロゴを作ってほしい」と、従来通り広告代理店経由でデザイン会社に発注した場合、152件の候補デザインを出してもらうには 1000万円以上、かつ 3か月以上がかかるとのこと。

とはいえ従来型の発注では、候補デザインを 150個も出させるなんてことはまずないので、おそらく
・一ヶ月かけて、
・100万円以上の予算で、
・3つ程度の候補デザインを出してもらう、
あたりが、妥当な線でしょう。


それがクラウドソーシングを使うと、
・1週間で
・7万円の報酬で
・152件の候補デザイン
となるんだから、


「なんで、他の企業はこの方法で募集しないの?」って感じです。


そんなんじゃ、いいデザインが集まる可能性が低いって?


たった 1週間でわかるんだから、広告代理店に発注する前に(もしくは同時並行で)試してみればいいじゃん。格安ですぐに結果が出るんだから、最初から排除する必要は無いでしょ。150ものデザイン案が手に入るんだよ!?


オリンピックの誘致活動に伴うプロモーションビデオやパンフレットデザイン、各種イベントの告知ポスターや旗、ロゴ、シンボルマーク、その他にも、ご当地マスコットやゆるキャラなど、

クラウドソーシングで依頼したら、リードタイムも必要経費も桁違いに短く&安くなる可能性が高いわけで、日本政府&日本の大企業は使わないのかもしれないけど、他国の政府や大企業は早晩、積極的に使い始めそうだよね。


そういえば私もこの似顔絵↓は自分で書いたんだけど、今なら間違いなく、クラウド・ソーシングで発注するでしょう。てか、次から名刺のデザインを頼もうかなと思ってたり。


そう考える人&小企業が増えれば、クラウドソーシングによって大幅な価格破壊が起こる一方で、市場規模自体は維持される可能性もあるんだよね。

従来型の100万円規模の仕事が 5万円の仕事に置き換えられても、5万円の仕事が新規に19個増えれば、全体の市場規模は縮小しないわけだから。


とはいえデザインに関しては、価格下落分を補うだけの新規需要が生まれるのか否か、私も確信はないのですが、「価格破壊が起これば、市場規模は確実に今より大きくなりそう」と思えるのが、翻訳クラウドソーシングの分野です。


先日も紹介した Gengo ですが、最近は個人向けミニ翻訳のニーズに加え、企業サイトの翻訳も増えているそう。

トリップアドバイザーという、ホテルやレストランなど旅関係の口コミサイト(アメリカ発)は、サービスを海外展開する際、サイトの情報を現地語に翻訳するのに Gengo を利用したらしい。確かにこういった、「口コミ情報がキモ」なサイトが、クイック&格安に翻訳されることの意義はひじょーに大きいよね。


たとえば英語圏で何十万件もの口コミを集めても、これまでは日本人向けにサービス展開を始める時には、またイチから日本人が口コミを(日本語で)書いてくれるのを待つ(もしくは、仕向ける)必要がありました。それって、超大変。

アマゾンみたいに書籍という万国共通のキラーコンテンツを持ち、世界中に知られたブランドを持つ企業なら、どこの国でも短期間で(現地語の)口コミを集められるでしょうけど、他のほとんどの口コミ系サイトにとって、それは容易なことではありません。

ところが、口コミみたいなカジュアルな文章でもクイックに翻訳してもらえるようになったら、一国で集まった口コミは、そのまま全世界の顧客に向けて発信できるわけです。

そうなれば、事業を海外展開する時に「ゼロからの再出発」じゃなくて、最初の国で積み上げた資産を持って参入できるようになります。


たとえば食べログには山ほど口コミ情報が集まってるけど、あれが中国語になるだけで、人気レストランには中国からの観光客がわんさかやってきそうじゃない?


「アットコスメ」や「価格コム」のレビューを読みたいアジア人って、たくさんいるのでは?


楽天が売ってる商品の多くも、レビューが英語になってれば、海外からの注文も圧倒的に入りやすそうでしょ?


ニコニコ動画の画面コメントを、ほぼリアルタイムで中国語や英語に翻訳できたら!?


クックパッドの人気レシピだって、ボランティアをクラウドで募集して訳せばいいんじゃないの? 



とかね。



今まで日本で起業する人って、相当イケてる人&企業でも、アメリカの企業みたいに「最初から世界展開」を考えるところは少なかった。その理由のひとつが言語の壁だったんじゃないでしょうか。

その壁が低くなれば、「語学は苦手だけど、最初から世界に!」と考える人もどーんと増えそう。


ここまでクラウドソーシングの話を書いてきましたが、その多くは「給与レベルが低い国の人たちに仕事を奪われる日本人」という方向の話でした。でも実際には、反対方向の効果も当然に出てくるだろうと思います。

日本語という言語の壁が崩れれば、企業も個人も世界中の人と競争することになる。そして同時に、社員の半分が外国語ペラペラみたいな企業じゃなくても、世界で勝負しやすくなるはず。というか、デメリットだけじゃなくて、メリットもどんどん享受すべきでごじゃろうよ。


言葉の壁は、日本人を“グローバリゼーション”から守ってくれる防護壁であったと同時に、
日本が世界に出ていくための障壁でもあったんだから。


世界がつながる未来って、ほんとーに楽しみ!



そんじゃーねー!


http://d.hatena.ne.jp/Chikirin+personal/  http://d.hatena.ne.jp/Chikirin+shop/