普通の門とピンクの門

生まれて物心ついた後、“ある時点”までは、何の差もつけられず、まったく同じように扱ってもらえます。

男であっても女であっても、実力さえあれば、実力通りの扱いを受けます。

結果だけに応じて、与えられるもの、得られるもの、進むべきコースが決められ、「男だからこっち」「女の子はこっち」とは言われません。

ところが、とある時点でその世界はいきなり終わりを迎えます。

そして言われるのです。目の前に見える大きな門をくぐって進めるのは、男子だけだ、と。


えっ!? そうなの?
じゃあ、女子はどうすればいいの?


とびっくりしてると、
横の方にある、少し小さめの、ピンクに塗られたファンシーな門を指さされて言われます。
「大丈夫。安心して。女の子にはあっちの道があるから」と。


★★★


ちょっと釈然としない思いでピンクの門の方に進むと、その先には、今までとは全く違う世界が広がっています。

今までは男子も女子もいたのに、いきなり世界は“女だけ”になります。そして、そこにいる女性の多くがこう言うのです。

「男性と同じなんてどうせありえないのだから、女性としてこの道を巧く歩く方法を身につけ、この世界を楽しみながら歩いていくべきなのよ」と。


確かにピンクの門の先に広がるのは、普通の門の先に延々と続いている、障害物だらけの困難な道とは違います。

歩きやすいように整備された歩道の側には花まで植えてあって、その道を歩くことの苦労の量や質は、“普通の道”とは比べようもありません。

ピンクの門の先にも、そこそこのチャレンジは在るけれど、普通の門の先にあるような、時に数多くの脱落者も生み出すほどの厳しい競争は存在しないのです。


昔は自分と切磋琢磨していた男の子たちが進んだ道は、確かにこれよりは遥かに厳しそうだと、みんなわかっています。

実力だけではありません。ある時点からは実力に加えて政治力だって必要になるし、次々とライバルも現れます。

得意じゃない仕事も遠慮なく振られるし、苦しくても理不尽でも逃げ場もない。時代の流れにだって、必死でついていく必要があります。

だから、必ずしも全員がハッピーになってるわけではありません。中には「いいな、女は。俺もそっちに進みたかったよ」という男子もいます。


男の子は、そんなつらい道を進みながらも、寛容に「ピンクの道」を歩く女性をいたわり、気にかけてくれています。

といえば、聞こえはいいけれど、その関係性の中では、守られている方は決して一人前には扱われていません。

「女・子供(おんな・こども)」という言葉が示すように、「一人前の人」と「そうでない人」の厳然たる違いが、そこにはあります。


それって、料理のメインディッシュとサイドディッシュの違いくらいかって? 

冗談でしょ。

料理と飾り付けの小物(←食べ物でさえない)ほどの格差です。


なぜ「ピンクの門」と呼んでいるか、わかります? 

この門をピンクに塗った人は、こう思ったんです。「かわいい色に塗ってあげよう。そうしたら女の子は喜ぶだろう」って。


それはどうもありがとう。


★★★


当然のこととして、女の子の中から、なんでこんな仕組みになっているのか、納得できない子も現れます。


「なんで、女子の門はピンクなの?」
「こっちしか行っちゃダメなの?」


そのうち、
「道が舗装されて歩きやすいなんて、意味ない。問題は、この道を進めばどこに行けるのか、ということなのに!」と考える女の子もでてきます。


そういう子がでてくると、門や道の管理者も考え始めます。
「男と同じことをやる気があるなら、こっちの門にいれてやってもいいんじゃないか?」と言い出す人がでてくるのです。


民主的です。やさしいですね。


すると「私、そっち行きます」
という女の子がでてきます。


最初のころは、大半の女の子が「どうなのかな?」と注視しつつも静観しているなか、最初のひとりがでて、それから2人目がでて・・・

次第に、「どっちの道に進む?」というのが、分岐点の直前にいる女の子たちにとって、「人生最初の重要な決断」となります。


とはいえ、最初の頃に普通の門を選んだ女の子は大変です。


男の子と同じ成績ではみんな納得しないから。

そういう子には大きな注目が集まり、実質的には常に“男性以上”が求められます。「男性と勝負しながら、女性としての務めも果たせ」と、(無茶だと思うのだけど、そういうことを)期待されます。

「その期待値に応えられる“スーパー女性”でないと、普通の門をくぐれないの? それじゃあ最早 “普通”の門とは言えないじゃん?」とも、様子見をしていた女子は思います。

「それに・・男子は普通の子でもそっちに行けるじゃん!? なんで女性だけ??」とも思います。


★★★


それでも長い時間を経て、普通の道を選んで歩く女性が増えてくると、男子の中にも「男も女も関係ない。頑張ってる子は同じように、結果で判断しよう」と考える人が増えてきます。

同じ道を進むことを当然と考える女性も増え、男女の道は違うことが当然という時代に育った人たちも、それを受け入れ始めます。


こうして 30年近くが過ぎました。


今や「普通の門」をくぐる人の半分は、女性です。むしろ「最近の新入生なら、女性の方が優秀だ」という声さえ聞くほどです。

「女性は論理的な思考が苦手」とか、「女性は感情的」、「女には、リスクをとった大胆な状況判断は無理」と本気で信じてる人がたくさんいた、30年前とは様変わりです。


それでも、最初の女性が「普通の門」をくぐって 30年、その門をくぐる男女比がほぼ半分ずつになってから 20年近くたっているにも関わらず、


まだトップ層の 99%は男性です。


トップクラスの半分が女性になるのには、30年でも短すぎて、全然たりないのです。


それどころか、中堅どころの管理職(部長など)でさえ、女性が 3割を超える企業は数えるほどです。


★★★


男女雇用均等法施行 1986年
2014年時点で、すでに 28年
未だに総理大臣が「女性の活用を!」と叫んでる。


男性にしかくぐることを認められていなかった門を、制度的に女性に開いてから 30年近くたっても、トップ層に達することのできる女性はほとんどでてこない。


それくらい、この問題は時間がかかる。


よーく覚えておきましょう。



 そんじゃーね

<追記>
このエントリには多数のご意見をいただいたので、それらをまとめておきました
当エントリへの反応のまとめ


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