夜へ! そして 空へ!

昨年末、『俺のイタリアン 俺のフレンチ』という 本を紹介しました。



このレストランチェーンは、「客の回転率を通常より大幅に引き上げることで、一流シェフが高級食材を使っても、高級店の 3分の 1の価格設定を可能にし、さらに料理人の報酬も上げる」というミラクルなビジネスモデルを実践しているわけですが、

それを可能にしたマジックワードが“回転率”です。


たとえば、20席あるレストランで、一日平均 20人の客が来れば一回転。格安の牛丼屋やファミリーレストランでは、客は何回転もするのが普通(=薄利多売)ですが、超高級レストランの場合、クリスマスイブなど特殊な日を除けば、回転率を 1に乗せるのさえ大変です。

19時過ぎにやってきた客は 3時間近くかけてゆっくりと食事を楽しみ、それらの客が帰れば店は終わりです。しかもよほどの繁盛店で無い限り、平日から毎日満席にするのは至難の業。せいぜいランチを工夫して、なんとか一回転させるのがギリギリでしょう。


ところが、毎日長い行列ができ、空いたテーブルには次々と客が座り、“毎日三回転”が実現できれば、利益構造は全く違ってきます。その結果、1万円のコース料理を 3千円で食べられる店が出現したわけです。

私はこの本を読んだとき、「東京の都心部は、24時間化すべき!」と確信しました。


レストランの場合、客の回転率が上がれば、家賃や厨房機器(←家庭用の機器より超高価)などの固定費負担が減るほか、材料の廃棄率や仕入れコストが下がるなど、様々なメリットがあります。

でもそれって、レストランだけではありません。


東京都心部の商業地の家賃は、半端な額ではありません。それなのに大半の店は、年間総時間の半分の時間は、店を使っていないのです。

朝 11時から夜の 23時まで営業しているレストランは、24時間中、12時間分の家賃を有効活用できていません。

それは、デパートや小売店、スポーツジムやイベントホール、美容院から歯医者、保育園からオフィススペースまで、大半の施設において同じです。24時間稼働しているのは、コンビニやホテルなどごく一部でしょう。



ちょっと考えてみてください。

もしも青山にある美容院が、昼と夜、異なる美容師によって経営されていたら? 朝の 11時から夕方 7時までが今の美容院のままで、夜の 7時から朝の 11時までは、別の美容師によって“深夜営業”されていたら?

顧客からみれば、店は 24時間空いています。そして当然のことながら、(昼の美容院も含め)価格は大幅に安くなるでしょう。

美容院の家賃負担は、巧く行けば半分になるのです。もちろん、美容院内部のデザイン費用や美容機器の初期投資も同じです。

夜はまだ店を持つ資金を貯められていない、独り立ちしたばかりの美容師らが共同で運営してもいいし、「美容師を目指す人のための学校」として使ってもいいです。


歯医者だって同じです。昼と夜、違う歯医者さんが営業すればいいんです。

保育園だって、ひとつの主体が 24時間営業するのは大変でも、ふたつの保育園が、同じ施設を活用して連続営業してみたらいーんじゃないの? 昼間は認可保育園、夜は無認可保育園というのもアリでしょう。

イベントホールや劇場では、昼間は大企業イベントや有名劇団の興行を行い、夜はお金の無い若者や、無名の劇団、NPOが主催するイベントが行われたり。

オフィスだって、昼間は営業系の企業が、夜は海外との取引が多い企業や、高い家賃が払えないスタートアップが使うとか。最近増えている「フリーアドレス・オフィス」なら、複数企業が 24時間をシェアして使うってありそうじゃない?

学校だって、昼間は普通の学校で、夜は就職予備校やら英語学校やら資格系の塾として使うとか?
国立美術館とかで、夜の運営なんてコストがかかりすぎてできないというなら、夜だけ運営を民間委託しちゃうとかもね。

てか、東京の有名な美術展はホント―にすごいレベルの混みようだし、その中でも混雑指数がマックスに達する土日にしか鑑賞できない“働いてる人”にとって、夜中まで美術館が開いてるって、夢のような街なんじゃないでしょうか。


問題は、「夜にも十分な集客ができるのか?」という点にあるのですが、公共交通機関の24時間化と、深夜の営業規制が緩和されたら、東京の主要ターミナルエリアくらいは 24時間、稼働できるニーズが十分に生み出せる気もするのだけど、どうでしょう?

もちろん、日本人だけでニーズを埋める必要はなく、それこそ「24時間、眠らない街トーキョー!」に、世界から観光客を呼び込めばいいわけで。

しかも観光客なら少々寝不足になっても、朝昼夕&夜中と、18時間くらい活動してでも「今回の訪日で、観光も鑑賞も買い物も体験もぜんぶやってみたい!」って思うでしょう。

中国人とか、店さえ開いてれば、24時間、買い物してそーじゃん!? てか「夜なら 2割引き!」とか言えば、むしろ夜に押し寄せそう?


★★★


これとまったく同じ発想で、山手線内の建物は、もっともっと高層化すべきだよね。

実は東京って都心でも、2階建てアパートとか、5階建てくらいまでのビルがたくさんあります。

あたしはこれを、一定エリアにおいては、「20階以下の建物は新規着工禁止」「20階以下のビルは固定資産税を割高に!」くらいの勢いで高層化すべきだと思ってる。

これが「空へ!」です。 東京は、もっとガシガシ都市機能を空に伸ばすべき。


高層ビルを一気に増やし、5階以下は商業施設、20階以下は住宅、それ以上はオフィスにし、スーパーやコンビニはもちろん、保育園から介護施設、病院までフロアの中に組み込んでしまう。

そんなことしたら緑が無くなるって? それいったい、何十年前の発想なのよ。今や大規模開発のほうが、緑地も確保しやすいんだから。


今の東京都庁のビルは 48階建てですが、これくらいのビルがもっともっと必要。24時間化と同じく、高層化によって一定の面積をより多くの人で共有できれば、家賃も、そしてそれが反映されたサービス価格も、安くなります。

それだけでなく、都心に大量の住居スペースが供給されれば、急速に職住接近が進むはずなんです。


そうすれば交通機関が 24時間化しなくても、都市機能の 24時間化は進められます。しかも、家賃だって大幅に下がるから、今の稼ぎではとても都心に住めないという人でも住めるようになる。少子化対策としても効果があるでしょう。

なにより人類の英知にかけて今世紀中に根絶しなければならない“通勤ラッシュ”という野蛮な風習にも、ピリオドが打てるのです。(どんだけの人の時間を無駄にしていることやら!)



多くの人が都心に住んで、通勤の必要もなく、
しかも街は 24時間眠らず稼働していて、

大企業やエスタブリッシュメントが中心となって運営する昼の「オフィシャル・トーキョー」に加え、
夜はワイガヤでカジュアルでちょっと妖しい感じの「もうひとつの東京」が立ち上がる。


多様な文化が混在するのは伝統都市の魅力のひとつです。

昼に加え夜という“新たな時間”と、今はまったく活用されていない“空という新たな空間”が増えることで、東京のキャパシティは何倍にも増加します。

それは東京という空間の利用コストを引き下げ、そこで生息できるコミュニティや文化の総量を、一気に拡大することでしょう。


おお!


パラダーイス!


って感じじゃない?


そんじゃーね



今日のエントリは、これから東京が国際的な都市間競争に勝ち抜いていくためには、何が必要か。について、考えていく連載の第四回目です。

<これまでのあらすじ>
第一回 国際都市としての競争力強化という争点
第二回 伝統都市と戦略都市
第三回 輸出黒字ではなく、聖地を目指せ!


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