まだ動いてない人をいかに動かすか

最近、相次いで格安スマホが発売されています。

スマホといえば、月々の負担が 1万円前後と高く、自分で稼いで自分で(しかもヘビーに)使ってる人ならいいですが、


・携帯にしろスマホにしろ、一日 数回 × 数分 しか使わない中高年&高齢者(あとの時間はテレビと新聞を見てる)
・ひとりの財布で 家族全員のために 3人分、4人分の通信料を払ってる片働きファミリー
・生活費がギリギリという低所得家庭


などにとっては、「欲しくても高すぎて買えない」状態でした。こういう人には、中古端末と格安 SIM を自分で組み合わせるなどの工夫も敷居が高く、現実的ではありません。

このため、すでに何台ものスマホを買い換えていたり、使いこなしている「当然スマホでしょユーザー」と、「未だにスマホなんて使ったコトありませんユーザー」が分離し、

普及率もあまり上がらない状態(今年一月の調査でスマホ保有比率は 55.2% 、博報堂DYグループ・スマートデバイス・ビジネスセンター調べ)でした。


これから、月 3000円程度で利用できる格安スマホが普及すれば、日本でもスマホ普及率が 8割といった状況も可能になるでしょう。

その一方、「スマホを買っても、一切、後からアプリをダウンロードしたことはない」みたいな人の比率も急増すると思います。

今までのパソコンでも、「買ったまま使う」=「あとから何一つダウンロードしない、追加しない」というユーザーはたくさんいたはずで、そういう人にとっては、情報端末もテレビや冷蔵庫や扇風機と同様、「買って、スイッチ入れて、そのまま使う」ものなのです。

反対にいえば、そういう状況にならないと普及率 8割は実現できない、ということでもあります。


★★★


先日、初めて本を出した私の友人は、「自分の周りでも、アマゾンで本を買ったことがない人がけっこういると、初めて気がついた」と驚いてました。私にも本を出したというと、「近くの本屋に行ってみたけど無かったので、注文しておいたよ!」と言ってくれる知人がいます。

てか、未だにネットをやってないので、手紙(郵送!)と電話でコミュニケーションしてる知人もいます。ネットの世界ではすでに、電子メールさえ「終わった」と言われているのに・・


「今時、本をアマゾンで買ったことないなんてありえない!!!」


と思う人がいる一方で、「我が家にアマゾンの箱が届いたことは、未だかって一度もない」という家庭もあるし、

私も含め、最近は銀行の ATM を使うこともほとんど無いという人がいる一方、今でも「ネットで金融取引をするなんて危なすぎる」と考えている人もおり、

ましてや、(保険も含め)金融商品をネットで買う、住宅ローンをネットで申し込む、などは、まだまだ多くの人が違和感を感じる行為なのです。


ネット上のサービスはここ数年、急速に多彩かつ便利になっています。最初にユーザーを獲得し、サービスを軌道に乗せていく場面において重要なのは、「今、ネットを日常的に活用しているユーザー」の取り込みでした。

けれど、ある程度の成功を収めた後は = そこからさらに一段上の普及を目指すには、「今はまだ、それらを使ったことがない人」をいかに取り込むかが重要です。


2年くらいまえから、様々なネット企業がテレビで広告を流し始めたのも、それが目的でしょう。

テレビを見ない人は知らないと思いますが、最近は「こんな企業がテレビで CM を??」と驚くような企業が CM を流し始めています。

ネット上の広告に比べ、テレビ CM はまだまだ高価格です。それでもテレビ CM を流すのは、ネットでしか広告をしなかったら取り込めない人たちが、彼らにとって、それほど重要な顧客となりつつあることを示しています。


ネット上では「テレビはほとんど見ない」、「家にテレビが無い」という人もよくいますが、すでに一定以上のシェアを持つネット系の企業にとって、これからの大票田はそういう人たちではありません。

電子書籍端末を(テレビ CM で)初めて知り、何百万人もがダウンロードしたスマホゲームのことを(テレビ CM で)初めて知り、ニュースまとめサイトのことを(テレビ CM を見て)初めて知った、という人こそが、彼らにとって、これからのターゲットなのです。

だから、ネット上で稼いだ利益をテレビ CM に突っ込んで、「そっちの客」を狙っていくのです。


こういう人たちを動かすには、今までとは異なるアプローチや工夫が必要になります。しかも下手をすると、そういう人たちのために打った施策が、既存ユーザーには気に入らない場合もあるでしょう。

難しい舵取りも必要になりますが、「まだネットは、自分の生活に必須なものではない」という人たちを取り込まないと、今後のシェア急増はありえない。そういう地点にさしかかっているネットサービスが、あちこちの分野にたくさんあるってことです。


一定レベルまで成長したネット系企業にとっては、「まだ動いていない人をいかに動かすか?」が、これからの勝負のポイントになるってことですね。というわけで、あたしもお金があったらテレビ CM でも打ちたいところです。


↓もちろん、CM の締めはこんな感じで

そんじゃーね!


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