練馬区立美術館の「あしたのジョー、の時代 展」に行ってきた。
「あしたのジョー」は、1967年暮れから1973年まで『週刊少年マガジン』に連載された大ヒット・ボクシング漫画。
原作は高森朝雄(てか、梶原一騎)さん、作画はちばてつやさん。テレビアニメや映画にもなってる。
展覧会タイトルでも分かるように、あしたのジョーに人々が共感し、寄り添い、心酔した「時代」について、の展覧会です。
1967年暮れから1973年っていうと、日本では学生運動が最後のピークを迎えてた時期。東大安田講堂が学生運動家に占拠されたのが 1969年、よど号ハイジャックが1970年、そして、連合赤軍事件(浅間山荘事件)の発覚が1972年。
その一方で、日本は高度経済成長のまっただ中でもありました。
急速な経済成長が起こる時には、格差の拡大や環境問題など様々な社会問題が発生する。今の中国も当時の日本も同じだったってことでしょう。
そんな時代背景の中、天涯孤独の矢吹丈は、ドヤ街、少年院を経て、プロボクサーへの道を進み始めます。
血反吐を吐きながら打たれても打たれても立ち上がり、孤独に戦い続けるその姿は、理不尽で高圧的な社会体制と戦ってた当時の若者達から強い支持と共感を得ます。孤児も、ドヤ街も、ボクシングも、きっと今よりずっと身近なモノだったんだろうと思う。
有名な第一話や衝撃の最終話、力石徹との決戦と死、さらには紀子とのデートや葉子の告白画面など、数々の名場面の原画と、ちば先生の手書きメモや、当時の少年マガジンなど、多数のオリジナル資料が展示されてました。
漫画のストーリーと、それに併せた社会背景の年表も丁寧に作ってあるので、当時のことを全く知らない人でも楽しめるし。
てかね、ストーリー年表を読んでから展示されてる原画を順に読んでいくだけで、初めて読む人でも泣けると思う。それくらいスゴイマンガです。
一階の展示室にはマンガの資料、二階の展示室には、何室もに渡って 1970年前後の社会風俗がリアルに伝わる資料やアート作品が並んでる。
それらを一緒に見ていると、マンガが時代とどれほど密接に関わっているものなのか、よくわかる。そうか、ジョーはこういう時代に生きていたんだと。
会場のテレビでは、1970年前後にヒットしたテレビコマーシャルも流されてて、
・ソニーのトリニトロンテレビ
・サントリーのトリスウィスキー
・森永チョコレートの「大きいことはいいことだ」
・男は黙ってサッポロビール
・オーモーレツ!
・レーナウーンレナウン娘が・・・
当時の人達が何に憧れ、何をかっこいいと思ってたのか、よく現れてた。
あとね。テレビコマーシャルって、あんまり進化してないなと思った。
映像&編集技術はともかくとして、センス自体は当時の方がいーんじゃないのってくらい。この時期あたりで既に完成されてて、そこから後はブレークスルーはなかったんじゃないかとさえ思える。
マンガの中で力石徹が死んだ時、寺山修司さんが呼びかけて、本当のお葬式が行われた。
800人もの人が集まったらしい。ツイッターのない時代でもそれくらい集まるんだね。
今回の展示では、その祭壇も復元してあって、思わず手を合わせてしまった。
マンガのキャラクターの葬式に大挙して集まり、戒名つけて読経して焼香に並ぶ人達を、
東京新聞はこう報じてる。
奇妙なお葬式をやる人達
こわい“マンガ連帯感”
全国から弔電、香典の洪水
冗談とわかっていて? それが現代の雰囲気?
“人間回帰”の声も・・
大人達の反応はいつだって同じなんだな。てか、当時の若者達って、今の大人達なんだけど。
よど号メンバーが「俺たちはあしたのジョーである」って北朝鮮に行っちゃったり、
発売が待ちきれず、講談社まで週刊少年マガジンを取りに行ってた三島由紀夫が割腹自殺したのも 1970年。てか、熱烈なファンとか言いつつ連載途中で自殺するなんて。
マンガ資料と同じくらい、当時の新宿の写真とかたくさん展示されてて(平田実さんのとか)、当時の若者って、今よりずっと抑圧されたんだと思った。あたしたちはこんなに不幸じゃないだろうと。
あと、今の中国の若い人達が暴れるのもよくわかった。
はけ口のない社会だから暴れるしかないんだよね。
今の日本には逃げ道がたくさんあって、楽しいこともたくさんある。ヤなことがあっても目が背けられるってのは、幸せなことなんだな。
モノの値段が変わって無いことにも驚いた。
資生堂のサンオイルは400円だし(美白の時代じゃなくて、小麦色の肌の時代だからサンオイル)、デリカワインは 700円。パイロット万年筆は 2000円。
なにそれ、物価あがってないやん。
こんなパンフレット置いてあるし。。確かに運動のひとつと考えれば女子にもいいかも。
あとびびったのは、「あしたのジョーカルタ」の「い」が、
「い=胃液吐くまでがんばろう」
だったこと。
実際には全文ひらがなで「いえき はくまで がんばろう」と書いてあって、つまり子供向け商品なのに、スゴイ文章だよね。時代というか。
9月21日まで、西武新宿線の中村橋駅から徒歩数分。500円でたっぷり 2時間楽しめた。最後の現代アートのお部屋もとてもいい。
そんじゃーね
今やジョーもキンドル版!
↓展示物が(たぶん)全部載ってる展示会のパンフレット。なお展示品は撮影禁止。上記画像はすべて購入したポストカードやパンフレット。
★過去関連エントリ★
・よど号メンバー9名の記録
・1970年代という時代
・永田洋子氏 死亡
・ガンダムなどメカデザイナー大河原邦男さんの展覧会