“ちょっとしたバイト”から高スキル人材へ

<前回までのエントリ>
第一回 「話し相手を雇う時代へ」
第二回 「赤の他人と話す価値」


“こころみ”のサービスで 鍵となるのが、“コミュニケーター”と呼ばれる人達です。

自宅で、しかも隙間時間にできる仕事なので、子育て中の主婦や、わざわざ外に働きに出たくない人向けの“ちょっとしたアルバイト”にも見えるこの仕事、

実は、高度なスキルをもつプロフェッショナル人材になれる可能性もある分野です。


というのも、単身高齢者との会話であれば、

・認知症や“うつ”の症状が進んでいないか
・大病にもつながる体の不調を感じていないか
・きちんと栄養を取っているか
・オレオレ詐欺や押し買い、高額商品の訪問販売や不要なリフォーム業者などからのアプローチを受けていないか

などを、なにげない会話から巧く拾い上げられるコミュニケーターがいれば、

その人を“指名”して自分の親への電話を担当して貰いたい(もちろん指名料金を払う!)と考える人や、

そういう人を雇って、地域の高齢者の見守り事業を始めようと考える自治体も現れるからです


(株式会社こころみの資料。以下、当エントリの画像はすべて同ソース)


また、会社側が専門のコミュニケーターを雇い、その人が、うつ病で休職する社員に定期的に電話をし、いろんな話を聞きだして、

(今の“こころみ”のサービスで行われているように)その会話をすべて文章で保存するという制度を、企業が福利厚生策の一環として導入すれば?


産業医(会社の顧問医師)がその会話内容を見て、病気の素となった職場要因を見極めたり、復帰のベストタイミングを推し量ったりするのに役立つし、

さらには、復帰後も定期的に同じコミュニケーターと話すことで、再発の可能性を最小化できそうでしょ?


こうなってくると、巧く話を聞き出せるハイスキルなコミュニケーターを、自社専属(もしくは社員)として雇いたいと考える企業も出てくるんじゃないかな。

だってね。メンタルヘルス問題で休職する社員がひとり現れると、企業側にはものすごい大きな負担がのしかかるんです。

それを少しでも減らせるなら、正社員レベルの年収を払ってでも、優秀なコミュニケーターを雇いたいと考える大企業ってありそうだと思うのよね。


他にも、不登校になってしまった傷つきやすい中高生に、定期的に電話で話し、巧く本音を引き出せるコミュニケーターや、

明らかに様子がおかしいのに、何があったのか、親が聞いても何も言わない我が子から、イジメられている実態を聞き出せるコミュニケーターなど、

特定分野における「話させる」スキルが高いコミュニケーターは、引く手あまたになりそう。


それ以外でも、何年も引きこもっている 30代や 40代の人、育児うつに陥りそうなお母さん、家族の介護で精神的にも肉体的にも疲弊してしまった人など、

「誰かが週に数度、自分の話を聞いてくれるだけで救われる!」

って人はたくさんいる。

それぞれに「この分野は、あのコミュニケーターが得意です!」みたいな専門分野が確立できたら、高度なプロフェッショナル職業として認知されそう。

ここで重要になるのが、“こころみ”がこのサービスを介護保険の外で始めた、ということです。

というのも、介護保険を含め社会福祉の世界では、サービスを提供する人が初心者でも、反対に超がつくベテランでも、支払われる報酬が同一だからね。


福祉系の報酬は、食事補助ならいくら、入浴介助ならいくら、みたいに行為ごとに決まっていて、担当者のスキルがどんだけ高くても、給料が大きく上がるわけではありません。

だから若いうちはいいけれど、一定の年齢になると「こんな給与では家庭も持てない。子供の教育費も出せない」となって、離職する人が介護業界にはたくさんいるわけです。

そりゃーそうよね。努力しても、技術レベルが高くなっても、全く報われない制度で、何十年も働き続けるのってつらすぎる。


ところが、介護保険が適用されない純粋な民間サービスであれば、スキルの高い人は、相応の報酬を得ることが可能になります。

マーケット感覚を働かせ、自分が一番得意な分野に特化し(=自分の価値が最大化される市場を探し)、そこでの実績を積み重ねてきちんとアピールすれば、それなりの収入を得ることができるでしょう。


自分の娘や息子が何年も不登校で引きこもっていたのに、とあるコミュニケーターの人にお願いしたら、一年後には家族と話をするようになり、二年後には数人の友達と話すまでになった、となれば、

親が感じる“価値”は、どれほど大きいことか。相当額の謝礼や成功報酬を払っても「まったく高くはない」と感じる人もいるでしょう。


育児うつや介護うつに“なりそう”と不安に感じた人が、自分で申し込んで、特定のコミュニケーターを雇うことだってありえます。

そういう時も、お金に余裕のある家庭なら「少々高くても自分にあった人を」と考えるはずです。だってこういう時って、みんな本当にせっぱつまっているのですから。


つまりね。

この仕事を、「誰かの話を聞いてあげるだけの簡単なお仕事」と考えるか、そこにプロフェッショナルとしてのスキル確立の可能性があると考えるか、マーケット感覚って、そこを見極める力なわけです。


もっと言えばこの仕事に限らず、どんな単純作業に見えるバイトでも、

それが「ちょっとしたバイト」にしか見えないか、

もしくは「ハイスキル・キャリアへの入り口」だとわかるか、

その分かれ道が、マーケット感覚の有無だということなんだよね。


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 そんじゃーね!

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