獲得・流通・消費のネット化

自分自身の生活を振り返っても、また、世の中全体を見ても、経済活動の舞台はリアルからネットへと急速にシフトしています。

たとえば、お金について、

・獲得 = お金を稼ぐ場所
・流通 = お金を使う(払う)場所
・消費 = 買ったものを消費する場所

に分けて考えてみると、

以前はみんな、

・普通に会社で働いて給与を得て = リアル社会で全収入を得て、

・スーパーやコンビニやショッピングセンターや専門店でモノを買い、= リアル社会だけでお金を使い、

・食べたり、着たり、読んだり、旅行する = リアル社会だけで買ったモノを消費する

という生活を送っていました。

図で書くと、こんな感じです↓

この3分野のうち、最初にリアルからネットへのシフトが起こったのは「流通」です。

本を街の書店ではなくアマゾンで買うとか、ホテルの予約や飛行機チケットの購入を、HISの窓口ではなくネット経由で行う人がでてきた頃です。

とはいえ最初はネットで買えるものが限られていたので、流通のごく一部がネットシフトしただけでした。

もちろん、ネットで買ってもそれらを消費するのはほぼすべてリアルの世界でした。

本だって、ネットで買うけど、買うのは“紙の本”だった時代です。

★★★

その後、「流通のネットシフト」は急速に進みました。

この現象は“中抜き”と呼ばれ、付加価値を付けず、単なる販売代行をしていただけのリアル仲介業者は、軒並み売上げを下げ、その一方で、名も無いネットショップが大きな売上げを上げることも珍しくなくなりました。


加えて、消費のネットシフトも始まります。

エロ系コンテンツから始まり、最初に音楽、そして本やマンガ、エッセイ(←ブログなど)、ゲームなどを、デジタルで購入するだけでなく、デジタルで消費する人が現れます。

これに代替される形で、紙のコンテンツや音楽 CD の売上げが減少。

「お金を使う場所=流通場所」がネットシフトした時代に続き、「消費」自体がデジタルにシフトし始めたわけです。

★★★

同時に、お金を獲得する場所のネットシフトも起こりました。「アフィリエイトでちょっと稼いでます」くらいだとこんな感じですが

ここ何年かは、本格的な収益サイトを運営したり、youtuber などとして、ネットからの収入だけで食べていく人も出てきました。

クラウドソーシング市場で、ネット上で完結する仕事(プログラミング、資料作成、文章やイラスト作成、秘書サービスなど)を請け負って稼いでいる人も、この例ですね。

★★★

これ、個人の図を書いてみて、時系列に並べてみるのもおもしろいと思います。

私の場合、 2015 年だと、こんな感じ。

収入の多くは書籍の印税ですが、それを可能にしているのはネット上での「ちきりん」の活動なので、「獲得」部分は半分くらいがネット経由だと言えます。

流通は・・・旅行や本はもちろん、食べ物や日用品、そして、洋服や靴まで、ネットで買うことが増え、急速にネットシフトが進んでいます。

この部分に関しては、早晩 80%くらいがネットになっても不思議じゃない。

ただし、消費の大半はまだリアルです。

これは私自身がデジタルネイティブでもなく、旧世代の人間だからというのもありますが、

日本全体、世界全体としても「消費」のネット化はそこまで進んでいません。

ですが、これから消費のネット化が本格的に進めば、

・雑誌、本、音楽、映像や動画コンテンツなどはすべてデジタルで購入、そのまま消費
・教育も学校に行くのではなく、ネットで授業を受けて学位を取る
・習い事の大半もネットで


・スポーツ観戦やコンサート鑑賞なども、VR (バーチャルリアリティ)機器を利用してデジタル参加
・旅行もデモも工場見学も展覧会鑑賞も VR で


・友達と話すのは SNS、飲み会も VR 参加
・就職活動も、動画で会社説明会に参加し、面接もネットで受け、
・仕事だって自宅(バーチャルオフィス)で大半を行う

みたいになり、“情報コンテンツ”だけでなく、“体験型コンテンツ”もネットシフトする未来が予想されるわけです。

今はまだそういったコンテンツの供給企業も少ないし、そのレベルやデバイスの完成度も低いので、消費のネットシフトはまだ本格化していません。

このように、リアルからネットへのシフトは、

・最初に「流通」分野で起こり、いわゆる“中抜き”が問題になった後、

・一部の人が「獲得」部分でのネットシフトに成功したことで、“新しい稼ぎ方”“自由な働き方”ブームが起こり、

・次の段階として「消費」のネットシフトが、いつ、どれくらいのスピードで起こるか、が注目される段階に入ってきたということです。


ちなみに3つの分野のネットシフトには違いもあって、たとえば使われるデバイス。

ネット上でお金を稼ぐツールとしては今のところ PC が主流ですが、流通のネット化については、スマホが主流となりつつあります。

今後、消費のネット化が進むには、それらとはまた異なる新しいデバイスがでてくることでしょう。

「獲得」は、PC ファースト
「流通」は、スマホ・ファースト
「消費」は、ウエアラブル・ファースト

とかになるんですかね?

昔は「流通」のネットシフトにも PC が必要でしたが、今 PCが必要なのは、「獲得」をネットでやる人だけです。

ここのところ PCが売れなくなってるのは、「獲得はリアル、流通はネット」という段階の人が多いからでしょう。

そして、もし将来、大半の人が「獲得」におけるネットシフトを迫られる時代が来るとするなら、その時には PC ではなく、「ハイパワースマホ」みたいな新デバイスが現れてくるのかもしれません。

それと、日本の子どもや学生は、他の先進国に比べて(スマホの使用率は変わらないが) PCの使用率が非常に低いと言われているので、

今後のネット時代において、日本人は稼ぐ側ではなく、お金を使う側に入る可能性が高いのかもしれません。

★★★

3つの分野では、ネット化レベルの個人分布も大きく異なります。

「獲得」部分については、完全にネット化した人(=ネットからだけで 100%の収入を得ている人)もいますが、割合としてはそんな人はごく僅かで、世の中の大半の人は、稼ぐのはリアルだけです。

この分野では、獲得をネットで行う人とリアルでしか行わない人の“分離”が生じているので、両者間での“論争”(?)も起こります。

一方、流通に関しては、程度の差はあれ大半の人がネットシフトを進めています。

このため流通のネットシフトには、「是か非か」的な論争は起こらず、「世の中の流れ」として受け止められています。

つまり、大半の人は今のところこんな感じなんです。全体としては、まだまだリアルの比率が大きいでしょ。

今後ネットシフトが起こるであろう「消費」部分に関しては、最初は(獲得部分と同じように)個人差が大きいでしょう

=ごく一部の人だけが消費をネットシフトするだけです。なので「獲得」と同様「是か非か」論争が起こると予想されます。

が、デバイスやサービスが進化すれば、流通部分のように大半の人がネットシフトを進めていくんじゃないかな。

なぜなら「獲得」には専門性が必要ですが、流通や消費は、
・使いやすくなり
・価格が下がり、
・リアルより快適に消費できるなど、使うことに合理性が出てくると。
一気に(誰でも)シフトを起こすからです。

★★★

2016年 1月の段階で、自分のネットシフトが各分野、どれくらいの割合なのか記録しておくと、数年後いろいろ面白い発見があるんじゃないかと考えたので、記録しておきました。


そんじゃーね

http://d.hatena.ne.jp/Chikirin+shop/