ネット時代の必須常識 「知財」の入門書

先日読んだ本がおもしろく、かつ、とてもタメになったのでご紹介。

タイトル通り知的財産に関する入門書で、著者は弁理士。以前は大手電機メーカーのソフトウエア分野で、知財関係の仕事をされてたそう。

ってか本を読んでる限り「この人、知財オタクよね」ってくらい、多彩な事例が紹介されてます。


まずは下記、本の表紙をご覧ください。

それぞれ、広島東洋カープのマーク、中央大学のマーク、シンシナティ・レッズのマーク、そして智弁学園和歌山の野球部のマークなんだけど・・・

なんも知らないと「パクリだ! 盗用だ!」と、炎上させられそうでしょ。

いずれも「C」というアルファベットのイラストですが、それぞれの権利関係はどう守られているのでしょう?


楽しく学べる「知財」入門 (講談社現代新書)


小保方さんの学位論文、オリンピックのマーク、それに WELQ のネットの文章ぱくりマニュアル問題と、ここのところよく話題になる(炎上する?)知的財産案件。

ひとことで「知財」といってもその中には、

・著作権
・特許権
・実用新案権
・意匠権
・商標権

など異なる権利が含まれ、多くの人は、それぞれがどう違うのかさえよくわかっていません。


昔ならこういうことを勉強すべきは、メディアや技術系企業で働く担当部署の人だけでよかったと思うのですが、ここまでのネット社会になると、一般の人でも著作権や商標権に関する最低限の一般常識が求められます。

私も文章や図表をパクられた経験はなんどもあるし、一方で、自分の書くものの中で他者の権利を侵害しないよう、十分に気をつけなくちゃいけない。

なので、このあたりの知識の必要性は強く感じていました。


なんだけど、この分野やたらと複雑なので「ちょっとググってみる」くらいではなかなか全体像が把握できない。

かと言って、売られてる本は専門的で難解な本が多すぎる・・・どうしたものか、と思っていたところ、今回の本に出会いました。


★★★


本書では序章で「知的財産権とは?」という全体感を示した後、

第一章で、小説、絵画、音楽など著作物に関する著作権
第二章で、商品・サービスにつける営業標識に関する商標権
第三章で 発明に関する特許権、物品の形状や構造などの考案に関する実用新案権、物品のデザインに関する意匠権
について、それぞれ詳細に説明。


その後、
第四章では、実際に問題になった(なりそうな)実例をふんだんに挙げて、知財関係の実務と現実を、
第五章では、知財に関する今後のあり方を考える材料や考え方が展開されていて、

単なる「知識を得るためだけの本」ではなく「知的財産について自分なりに考えるためのきっかけがもらえる本」となっています。

※ 完全に一般人向けの「入門書」なので、すでにこの分野に詳しい方向けではありません。


★★★


取り上げられている事例は、キユーピーの裸の天使?や不二家のペコちゃんの起源、著作権の保護期間が切れているにも拘わらず権利表示が続いているピーターラビットの謎といった歴史の長い著作権問題から、

タニタとオムロンの体重計のデザインに関する意匠権侵害訴訟、有名お菓子の「白い恋人」と「面白い恋人」といったパロディ商品問題、事務所移転トラブルにまつわる「加護亜依」というタレント名の商標(?)登録問題まで幅広い。

他にも、G-SHOCK を売り出したカシオが、類似商品の販売を防ぐため G-SHOCK だけでなく A-SHOCK から Z-SHOCK まで、すべての商標を登録しているとか、

慶應大学が「福沢諭吉」を登録するのは認められたが、高知県が「坂本龍馬」を登録するのは否認された、

日本でアップルより先に iPhone という商標を登録していた会社が、今、アップルからどれくらいの対価を得ているか、などの豆知識もおもしろい。


また最近の動きとして、大量に商標登録を申請する元弁理士の方の出現にも触れています。

上田育弘さんという人は「リニア中央新幹線」から「民進党」まで 1年で 1万 4000件もの商標を申請したりしているそうで、「 PPAP 」についてもピコ太朗さんより先に申請していたと話題になりました。

商標って誰でも申請できる早い者勝ちの制度なので、たとえば「ちきりん」という商標を私以外の人が登録することも可能なんです。

ただしこの件については、特許庁も注意喚起をはじめました→ 自らの商標を他人に商標登録出願されている皆様へ


そういえば、この本の範囲外ではあるけれど、中国でも日本のアイドル名が、まったく関係のない現地企業に登録されてて問題になってます。

その他、今後は「コンピューターが自動生成した音楽の著作権は誰にあるか?」といった問題もでてくると指摘するなど、幅広く知財分野の話題を知ることのできる本です。


★★★


ちなみに私のところにもときどき、「ちきりんブログの文章を、学校の教材に使いたい」とか「プレゼン・スライドの中で、ブログにあった表を使いたい」といった問い合わせが届きます。

たしかにそれらコンテンツの著作権は私にあります。でもこれ、「引用」の条件を満たしていれば権利者の承諾は不要です。


引用の条件というのは、

・出所を明示する
・引用部分が囲まれているなど、どこが引用部分かわかるようになっている
・勝手に改編しない
・量的に意味的にも引用部分が従、自分のオリジナル部分が主で、
・引用の必然性があること

などかな。


ネットで他者のブログや本の文章を「引用」する際もこのルールを守ることが必要なので、「引用された文章のほうが自分の文章より圧倒的に多い」のはアウトです。

たとえば、私のブログの文章を 20行コピペした後、「とてもおもしろかった!」という“自分オリジナルの文章”を 1行足しただけでは(たとえ元の文章の出典を明記していても)引用とは認められません。

これは書評ブログを書くなど、本を紹介する時も同じ。

本からの引用はあくまで「従」で、「自分がその本を読んでどう感じたか」を「主」とするような構成(分量の比率)が求められます。

「出典を明記すればそれで O K !」というわけではないので注意が必要ですね。


★★★


最後にもうひとつ。

私がこの本がいいなと思った理由は、「パクリは一切ダメ! パクった奴は社会から抹殺してしまえ!」的なヒステリックな意見に与することなく、

現在では「パクリ」と指摘されることを必要以上に怖れる人や会社も増えているように思う。


法的にアウトなら仕方ないとしても、法的にはセーフであるにもかかわらず、他人とのトラブルを抱え込みたくないとか、ネットで炎上したときの対応が面倒という理由だけで、せっかく作った作品の発表を諦めたり、またはそれを撤回したり、


さらには、自分の権利を強硬に主張する人に対して、本当に権利侵害であるのか怪しい状況であっても、素直に謝ったりお金を払ったりする例まで出てきている。


ここからわかることは、「パクリ」を糾弾する社会風潮は醸成されているが、必ずしも、日本人の知的財産権に関する理解が深まっているとは限らないということだ。


モラル的にも問題のない合法的な「模倣」までが葬り去られるようになってしまっては、本末転倒である。


そもそも人類は、「模倣」を通して進歩してきたという側面を見逃してはならない。


(以上、本書からの引用)

と指摘していること。


ネットが普及し、あらゆるコンテンツがアップロードされ、他者の知的財産のコピーが極めて安易にできてしまう時代において、

・自分自身が他者の権利を侵さないため、そして、
・自分の権利を侵された時にきちんと対処するため、
だけでなく、

世の中がヒステリックに「あいつはパクリ犯だ、私刑しろ!」と騒ぎ始めた時にも冷静な判断ができるよう、こういう入門書の一冊くらいは読んでおくべきかなと思った次第。

お勧めです!

楽しく学べる「知財」入門 (講談社現代新書)
稲穂 健市
講談社
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→ キンドル版 (「この権利ってどういう権利だったっけ?」と思ったとき、すぐに読める電子書籍がお勧めかも)


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そんじゃーね。

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