金賞大吟醸 瑜伽山

前に友人がうちに食事に来たときに日本酒を持ってきてくれて、それがすごくおいしかった。山形の男山っていう銘柄でした。大吟醸で金賞受賞蔵と書いてあります。こくというか香り、味がしっかりしてるのにさわやか、すっきり。冷やで和風のおつまみと頂くと本当においしいです。

で、お酒屋さんにその空瓶を持って行って、「これ、すごくおいしかったので、同じモノか似たような風味のお酒が欲しいんだけど」って相談してみました。近所のちっちゃなお酒屋さんです。

で、おじさんが勧めてくれたのが、今度は三重県の大吟醸、こちらはそのお酒自体が金賞を受賞したお酒で、瑜伽山(ようがさん)というらしいです。早速冷やして・・・まだ飲んでませんがとても“楽しみ”です。

で、この時にこのお酒屋さんのご主人が言ったことが気になって考えてしまったちきりんです。


ご主人は、私の持って行った空瓶を見て「うーん、これは結構高いお酒なんですよ。同じクラスのモノというと高くなっちゃいますよ。」「お金を気にしないなら、この金賞受賞の大吟醸がおいしいんですけどね」と。じゃあ、それをもらいます、と言った後も「父の日のプレゼントですか?」「ご予算は良いんですか?」って・・・

なんじゃそれ???


ちきりんが薦められたその大吟醸は、720㎜リットルで税込み3150円です。そんなに値段のことばっかり言わなくちゃいけないほど高いですか?しかも、日本酒で金賞ってすごいことなわけでしょ。それが3150円?っていう方がちきりんの感覚に近いです。ワインだったら桁がひとつ違うものがあるわけで。


いや別に、自分が金持ちなんだ!という気はありません。でもね、都心だとその辺に飲みにいって生ビールジョッキで2杯に冷凍モノをチンしただけの枝豆やら餃子やら何品か食べただけでも3000円くらいはします。

ちきりんの勤め先近くのエリアでは、ディナーというレベルの夕食にお酒を飲んだら、一回で1万円くらいすぐです。SPA!に載っているキャバクラ体験記みたいな記事を読んでいると、2時間くらいで1万〜2万円の料金のようです。今やラーメン一杯1000円とか言うお店だってあるわけで。

なんで“今年日本で一番うまい!”という賞をもらったお酒が一瓶3000円でそんなに高いと言われるのか、全く理解できません。もちろん「一の蔵」(ちきりんが普通に飲む日本酒)なんて一升瓶で2千円しないから、日本酒の中では高い、ってのはわかりますけどね。


なんであんなに「高いよ、高いよ、大丈夫?」と言われたのか。理由を考えてみました。ひとつの可能性は、ちきりんが貧乏に見えたということ。まあ、これはあり得ます。Tシャツに汚いGパン、化粧もしてないし。あと、味がわからない人と見られたかも?だから「こんな高い酒は無駄だよ」と思われた?

もちろんその可能性も否定しませんが、おそらくは「ちきりんだから」この酒屋さんがここまで値段にこだわったわけでもないだろう、と思います。この酒屋さんは「基本的に客は、安い酒を求めている」と思ってるんでしょう。客が高いお酒を買うのは、父の日とか贈答用だけ、と思ってるんだろうな、と。だから不思議がっていたんでしょう。


お酒屋さんのご主人が最初からそうだったとは思えません。おいしいお酒の価値を知っている人なはずだし。じゃあなんで?

実は、この酒屋の対面にセブンイレブンがあります。ちきりんがよくいくセブイレです。そのセブイレが1年くらい前の酒販免許自由化以来お酒を置き始めています。そして、頃を同じくして、この酒屋さんの方も「格安酒店!」という大きなのぼりを立てたり簡単な改装をしました。んで、ケース売りのビールとかをどどんと積んでます。

酒販免許の自由化、とりわけコンビニがお酒を置き始めるのは、街の酒販店にとって大きな脅威です。そりゃあそうです。だってお酒って夜呑む場合が多いでしょ。酒屋はその時間に閉まってるけどコンビニは開いてます。おつまみも一緒に買えるし。これは大きいです。対抗するために自販機の導入が進められましたが、対人じゃないと未成年に売ることになるという理由で夜中は動きません。アウトっ!


でもね、ちきりんはちょっと悲しいです。本当なら、このお酒屋さんには別の方向での工夫をして欲しかった。ケース売りのビールや発泡酒に占拠されてる店を整理して、いっそ日本酒専門店とか焼酎専門店とかに商品を絞り込んで、たかーいお酒売ればいいのに。

ちきりんが買ったお酒は、単純計算すると売値で30㎜リットルで150円です。日本酒の利き酒的な売り方で、いろいろ30㎜リットルくらいづつ試し飲みできる!ってやってくれたら、それなりにお客もいるんじゃないの?って思うけど。

150円で金賞のお酒味見できます!っていうのぼりの方が、格安ビールののぼりよりいいんじゃないの?と、思うんです。

そもそもコンビニはお酒安くはないです。価格で勝負しているわけでもないお店に、価格で勝負を挑む必要はありません。


ちなみに価格で勝負しようとしているのは、いわゆるDS(大型のディスカウントショップ)ですよね。大量仕入れで価格を抑え、車で買いだめにくる人に人気です。消費量の多い飲食店へも宅配します。街の酒屋さんは、こういうところへの対抗はもうあきらめています。近所にこういうお店ができたら、終わり、だと思われてます。

実際すごく多くの人が、「街の酒屋はもう終わり」と言います。お酒屋さん自体がそう思っている節もあります。でもちきりんは、この結論にすごく違和感を感じます。これは昔「中国から野菜が入ってきたら、日本の野菜農家は成り立たない」と言われていた頃に感じた違和感と同じです。

あの時ちきりんは、「野菜みたいに鮮度が重要な商品で中国に負けると決めつけるのは変じゃない?」と思いました。今回も同じ違和感があります。


高齢者のみの世帯はすごい勢いで増えています。地域密着で宅配型の業態にチャンスがまったくないなんて変な話だと思ってます。

安いお酒を大量消費するライフスタイルだってどんどん拡大したりしてますか?ワインブームはそれとは対極的なお酒の飲み方を前提としてのブームではないでしょうか。一部の名品焼酎は入手がすごく困難な状態です。健康に留意し始めた人達の中には「大量のアルコール摂取」ではなく、「おいしいものを適量たしなみたい」という方向に転換する人もでてくるでしょう。

おいしいお酒を、酔っぱらうための道具としてではなく、味を楽しむためのものとして考える人は増えているのでは?と思うんです。時代として決して「街の酒屋は絶望的」って感じはしません。

でも、そういうお客さんをもっと増やして、自分のお店(街の酒屋)がなんとかやっていけるレベルまで持って行こう、という工夫をしている街の酒屋さんにはなかなかお目にかかれない、という感じがします。


ちきりんに言わせれば、コンビニや大型酒販店と街の酒屋の最大の違いは「必死に努力しているかどうか」だと思えます。業態だの開いてる時間だの販売量の違いによるリベート(実質的仕入れ値)の差ももちろんあるのでしょうが、そもそもの商売に対する姿勢も大きく違うように見えます。

それってたとえば郵便局とクロネコヤマトの差でもあります。規制に守られてなんも考えなくてよかった時代に慣れきってしまった人たちと、知恵を絞って工夫してリスク取って努力して、んでなんとか成り立っている人達の違いです。


「酒販免許」ってのはある種の利権ともいえるくらい保護されてきた「権利」です。酒屋ってのは存在自体が「特権」だった時代が長かった。だからこんなことになってるんだよね、と思うのです。

「いろいろ工夫してもうまくいくかどうかわからないし、失敗したらやばいし」と、座して死を待つ街のお酒屋さんへ。いろいろ工夫しても成功する保証もなく、失敗したら市場から退出を迫られるかもしれない、それは、どのビジネスでも同じです。商売ってそういうもんです。「酒販免許で守られていた時代」のほうが例外だったんです。

「コンビニも大型DSもすごいお金あるから広告も打てるし仕入れ値も安いし、絶対勝てませんよ」とあきらめてるお酒屋さんがいるとすれば、確かに、って思います。「絶対勝てないと思っている人」は絶対勝てない。その通りでしょう。



まあ今日は金賞大吟醸を楽しみましょう。和風のおつまみご飯でね。椎茸の串焼きに塩かけて、インゲンとカボチャで簡単なサラダを。おいしそうな馬刺しを売っていたので買ってきました。ちきりんは、「生肉好き」です。ホタルイカのボイルもゲット。あとは、きゅうりの浅漬け(自分でつけたりはしません。買ってきました。)考えただけで嬉しくなりますね。


ではまた明日〜