自立と不安

自立するって不安ですよね。

誰でもそうです。自立しないまま一生を終えられたらすごく幸福なことですが、ほとんどの人はそんなことできない。

まずは生まれると、親に依存して庇護されて育ちます。

親からの自立って結構遅いと思います。自分で働くようになっても、必ずしも自立してないしょ。

経済的には自立しても、やっぱり何かの時には助けてもらえる、と思っている間は自立してない。

でもどこかで親が弱ってくると・・・「ああ、もう頼れない。守ってあげなくちゃ」と思える時が来ます。弱い親の姿を見たとき初めて、子供はホントの意味で自立を促される。


奥さんや旦那さんに依存して庇護されてる人もいるよね。相互依存もある。

年取ってからどちらかが先に亡くなると、残された方ががっくりきて生きる屍みたいになっちゃうことがあるでしょ。

心の準備ができてないのにいきなり自立を迫られると精神的なショックが大きい。


こう考えると、自立ってそんないいことにも思えません。

むしろ依存できる存在がある、というのはとても幸せなことなのかも。

自立は仕方なくするもんであって、好きこのんでする必要はないのでは? とも思えるほどに。


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組織、共同体への依存を考えてみましょう。

「組織に庇護されてる人」ってのは、そんな昔からいたわけではありません。

戦前は、皆会社に依存したりしてなかったでしょ。しょっちゅう戦争もあったし、倒産とか経済恐慌とか、いざという時にはみな簡単に放り出されてた。

超人手不足の高度成長経済の時に、「従業員を囲い込むために、彼らをできるだけ組織に依存させよう」と思いついた人がいるんだよね。

社宅や企業年金や社内融資や企業保険など、すごいいろいろ用意して「一人でやっていくなんてソンですよ。しかも怖いですよ。不安ですよ」って煽って。


本当なら、そういう経費分は給与として払うべきなのに、一部を保留して福利厚生費に回すことで、「なんていい組織なんだ!」と思わせ、「組織を離れることの不安感」をあおった。

で、日本の経済成長と共に、自営業の人はどんどんサラリーマンになっていった。まあ、企業としては合理的な労務管理(人材確保)の手法だったんでしょう。


ところが、90年代後半からそういう企業でも潰れ始めた。

長銀や拓銀が潰れた時、「えっ? 銀行が潰れるの?」って驚いた人、たくさんいるはず。

それで企業の嘘に気付く人が増えてきた。「庇護されてても不安じゃん」って。


じゃあ、どうすれば不安じゃなくなるのか?

個人として価値を持つ人になればいい、そう理解した人が「不安でも自立しよう!」と思い始めた。不安は不安なんだけど、不安解消の方法が変わってきた。

「自立するのが不安な時代」から「自立した方が不安が少ない時代」への移行が始まりはじめた、ってことかな。

私は、この組織vs個人という依存・自立問題は、人間関係、精神構造系の話とは質が違うと思ってます。これは、経済合理性に基づく労使関係の変化の話にすぎないから。


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ところで自営業の人で社員を雇ってる人は、自分が頼るべき組織がないだけでなく、社員の生活まで自分にかかっているから、すごく大変でしょ。

でも不安というより、責任感の方が強いんじゃないかと思うんだよね。


親もそう。親は子育てに不安ですかね? 不安もあるだろうけど、むしろ責任感のほうを強く感じるでしょ?

「不安のレベルは、自立してるか依存してるか、ではなく、一定以上の濃い関係性を持つ他者がいるか、いないかによって決まる」んじゃないかってことなの。

これ2×2のマトリックスで考えるとわかりやすい。

(1) 自立してる。(子や配偶者など)誰か心から愛せる人に頼られている。
(2) 自立してる。濃い関係性の他者はいない。
(3) 自立してない。誰かに心から愛され、その人に頼りきっている。
(4) 自立してない。誰かに庇護されてる。でもその人と濃い関係性は築けていない。


この 4つの人を、不安の大きそうな順に並べてみてください。

(1)と(4)だと、どっちが不安が大きそう? なんか、(4) の方が不安感強いんじゃないかと思うのですよ。 庇護されているにもかかわらず。誰も庇護しなくていいにもかかわらず。

つまり、「自立すると不安」なんじゃなくて、一定レベル以上の他者との関係性がないことが不安のもとなんじゃないかと。

高度成長期、世のお父さんは、会社との間にそういう濃い関係性を感じてた。だから家族と濃い関係性を築くことに必要性を感じなかった。

でも、いまはそれが無くなった。で、家庭を大事に、とか、妻と二人の時間を、とかになってきてる。そうでないと不安だから。他者との濃い関係性がないと不安だから。

その他社が「お金をくれる人」か「お金を渡す必要のある人」かは関係なく。


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自立してるってのは、大事なことだと思う。

でも一方で、自立しなくてもいいんだったら、それはそれでとても幸福なことだと思う。

ちょっと矛盾。

両親の愛に包まれて生きている子供時代って、本当幸せでしょ。

もし配偶者が全面的に依存させてくれるなら、それも幸せだと思う。会社に庇護されて、裏切られる前にサラリーマン生活を終えられた人もそう。とても幸せ。

でも、一生自立しなくて済むなんて、これからはもうホントに少なくなりそう。


また明日