ちきりんは韓国ドラマ好きなのですが、それらを見て学んだ韓国(朝鮮半島)の歴史や文化がたくさんあります。兵役の様子とか、お辞儀の大事さとか、法事の様子などもドラマを通して知りました。その中のいくつかを紹介してみます。
(1)学生運動の時代について
「Ready Go!」という学園ドラマの中には“学生紛争時代に逮捕され休学して服役していた先輩”が、大学に戻ってくる話があります。
彼は、合コンやカラオケに浮かれる学生、反対に成績とTOEICにしか関心がない学生らを空ろに眺めます。時代がすっかり変わってしまったのです。
彼が昔の仲間に連絡をとると、友人はネズミ講的な商品の販売をしています。「そんな仕事を・・」と驚く彼に、友人は言います。「俺たちは時代に捨てられたんだ」と。
韓国の学生運動の実録フィルムも回想シーンで使われていて、臨場感があります。
←上記の場面以外は普通の学園ドラマです。韓国ドラマが好きでない人にお勧めするものではありません。
(2)戦後の混乱と復興の時代について
「韓国版おしん」みたいなドラマがあります。孤児の女の子(主人公)グッキが、苦労してパン屋を開き成功していく物語です。彼女が10歳くらいの時に日本は敗戦しますが、グッキは小さいので何が起こったのかわかりません。でも周囲の大人達は大騒ぎしています。
何が起こったの?と聞くグッキにある人が言います。「これからは、ハングルを堂々と使える時代がくるんだ!」
「ほんとっ!」とグッキは感激します。
大人は続けて言います。「日本との本当の戦いはこれからなんだ。日本は強大な国だ。それに勝とうと思ったら並大抵の努力じゃ無理だ。これからは技術を身につけるんだ、グッキ!」と。
ちなみにグッキのお父さんは、韓国独立運動のために戦って亡くなります。一方で父の親友は実業家として、日本占領下で日本人と組んでしこたま儲けていました。これら“親日派の実業家”は、日本が敗戦した時には「韓国人としての喜び」と「今後の降りかかる火の粉を恐れる複雑さ」を示します。
戦争下の日本人医師で、貴重なペニシリンを韓国の子どもを助けるために使う人もでてきます。この日本人医師は、非国民として日本の軍部にしょっぴかれます。
日本人が逃げ帰った後、韓国人たちが日本人の豪邸に入ります。そこにはピアノがある。「すごい、ピアノだ!」と喜ぶ韓国の女の子。「こんなものを、私たちが苦労していた時に・・・まあ今頃はあいつらもピアノどころじゃないだろうよっ」と吐き捨てる母親。
日本が出ていっても韓国の経済は混乱を極めます。闇ドルを利用して儲けようとする実業家と政治家。日本からやっと解放された韓国で理想の国作りを目指す人たちの多くは、混乱する時代の中で翻弄され、夢破れ、粛清されたりもします。その混乱の中でグッキは成功していきます。
とてもいい、あの時代の勉強になります。
(3)日本への対抗心について
アイシングというアイスホッケーのスポーツものドラマ。最後の方で世界選手権かがあるのですが、決勝戦は「韓国対日本」です。
これ非現実的ですよね。アイスホッケーで、アメリカ、カナダ、北欧の国に勝ち抜いて、日本と韓国が決勝戦に進むなんてありえない。でも相手国は日本でなければならないのです。
試合前に日本の選手達が、「お前達が日本に勝つなんて無理さ」と刺激します。するとチーム内で仲違いしていた韓国メンバーは一気に結束力を高めます。「韓国人同士でもめてる場合じゃない。団結して日本に勝たねば!」と。そして“技術的には自分達より強いニッポン”に、“精神力で勝利をおさめる韓国ナショナルチーム”
これも何かを象徴していますよね。
ところで、このドラマの中では日本人役を韓国人が演じています。日本語で話しますが、とてもへたくそな発音です。
それどころか「本来は日本語で話すべきところですが、便宜上、韓国語でお送りします。」というテロップが入って、日本の将校が韓国語で話しているドラマもありました。ドラマを作った当時は、自分たちのドラマが日本で放映されるなんて全く考えていなかったということでしょう。
話は逸れますが、ソウルにロッテワールド民族博物館というのがあります。精巧な蝋人形とジオラマで韓国の歴史を再現していて人気の観光スポットです。その博物館の出口(と思えるところ)を出ると、広いおみやげコーナーがあります。よくあるパターンです。
でも、いったん終わったと思える展示の端の方に“目立たない表示”が“ハングルだけ”で書いてあります。そっちに入っていくと「日帝侵略時代」の展示が始まるのです。*1
これどういう意味かわかりますか。日本人観光客にもこの博物館に来て欲しい。おみやげも買って欲しい。でも、日帝侵略時代を普通に展示したら、日本の旅行会社がルートに組み入れてくれないかも。だから、ちょっと分離してわかりにくくして・・ということでしょう。もしくはもっと純粋に「お客様への商売上の配慮」かもしれません。
何がいいたいかというと、「そういう配慮が始まる前の韓国映画やドラマを見ると、韓国の日本に対する本音が描かれていて興味深い」ということです。これから作られる韓国ドラマでは最初からそういう配慮がなされ、本音は隠されてしまうでしょうから。
(4)北朝鮮との関係について
白夜というドラマが(韓国名は“マッハ3.81”かな)おもしろいです。冷戦下の南北朝鮮にロシアが絡み、歴史に翻弄される北と南の兵士を描きます。ロシアの北朝鮮への裏切り、北朝鮮の無知から来る無謀さ、南の“アメリカとの癒着と反発”など、民族と歴史の多彩な感情が織りなされます。
「祖国、祖国って言わないで!私たちの祖国はいったいどこだって言うの?」と主人公の女性は叫びます。彼女の父親は北に生まれた原発開発者で、ロシアに亡命。でも彼女は最後は韓国の国家情報局の男性と恋に落ちる・・最後まで書くのはやめましょう。ドラマとしても見応えがあるので興味のある方は是非どうぞ。
ところで、南北問題を扱った映画は他にもたくさんあります。JSA,二重スパイ、シュリ、ブラザーフッド、シルミド・・・ちきりんはJSAが一番好きです。
これら南北問題映画が最近多いのは、韓国が太陽政策に転換したためです。北朝鮮の兵士を「人間的に」描くことは冷戦下ではタブーだったのですが、太陽政策でできるようになったのです。最近の韓国の左化には、こういう映画の影響も大きいのでしょう。
というわけで、恋愛ドラマ、人間ドラマを装っているけど、事実上、反米映画だったり反日映画だったり、北への皮肉だったり、韓国のドラマや映画には、結構、政治的、社会的なドラマが多いなあと感じます。
(5)エリートの留学先について
韓国ドラマの主役男性の多くはエリート役で、大半が留学経験がある設定です。男性の留学先は必ず欧米です。彼らは欧米に留学した後、日本支社で働いたり取引をします。これは何を意味するか。「男性にとって日本は学ぶところではなく競争する相手国だ」といいたいのでしょう。
一方、女性エリートは日本に留学しています。このあたりも微妙におもしろい。女性で米国に留学する人は「エリートだけど、性格がきつい女性」として描かれます。「儒教的な意味でのすばらしい女性像」が、欧米ではなく日本に留学させることで表現されるわけです。欧米とは“女がひとりで住む場所ではない”というのが韓国の価値観なのでしょう。
★★★
思うのは、ドラマで文化や歴史を学ぶのは悪くないということ。台湾とか中国のドラマももっと流れたらいいなと思います。そして、日本のドラマももっとアジアの国で見てもらえたらいいです。
ちなみに台湾はもちろん中国でも日本のドラマはテレビで流れていますが、韓国ではまだ「地上波で日本のドラマを流すこと」は「禁止」されています。竹島(韓国では独島)問題のために、韓国で上映予定だった「火垂るの墓」も上映延期になりました。*2「日本を戦争の被害者として描いている」というのがその理由です。
残念ですよね。歴史とは責めるものではなく、学ぶべきものなのに。
というわけでまた明日〜
。
*1:ちきりんがこの博物館を訪ねたのは1993年頃なので、今はどうなっているか未確認です。日本語のホームページはこちらです→http://www.lotteworld.com/Global_japan/04_FolkMuseum/Folk_Overview.asp?mn=Mn401
*2:このエントリを書いた2005年6月時点の話です