オリンピックからの野球落選

オリンピックから野球がはずれました。北京が最後で、ロンドンではなくなります。野球は日本にとってメダルの可能性のある競技だから、関係者はみなさん残念でしょう。

ですがこの話、実は日本の野球界の体質と深くつながっています。「極めて残念」なんていう感想じみたことを野球界に関わる人が言っているとしたら、おめでたいにもほどがあります。

「儲からないスポーツを切るのは、オリンピック精神に反する」と新聞に載っていましたが、これもどうなのかな。儲からないというのは、本質的な理由ではないでしょう。

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野球がオリンピックで落とされた最大の理由は、「そもそもそんなスポーツ、全然知られてない」からです。欧州、南米、アラブからインドまでのエリア、ソビエト、アフリカにおいて、野球を知っている人は極めて少ないです。

しかも最大の野球国であるアメリカは、オリンピックなどという自分がヘゲモニーを握れない祭典は好きではありません。国連と同じです。自分一カ国でできることを、他のみなさんと一緒に仲良くやりましょう、とは思わない国です。


彼らがやりたいとしたら、“アメリカの World cup”というアメリカ主催の世界大会であり、そこに、毎年、日本、韓国、台湾などの優勝チームを呼んで、世界一を決めるみたいな大会でしょう。

なので、オリンピックに野球を残したいと切実に思っている国は、日本と韓国くらいじゃないかな。あとは、国際社会になんの政治力もないキューバ?

だとしたら、日本がやらなければならなかったのは何か? それは、野球を世界に広めるという努力です。それなしには、いつかこういう結果になることは、火を見るより明らかでした。

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柔道は、世界でも人気のスポーツになっています。西欧にも東欧にもアジアにも、金メダルを目指している選手がいます。

日本の柔道界は、そのために多大な努力(妥協ともいいます)をしています。講師を外国の学校に派遣したり、国際ルールを受け入れ、日本固有の伝統ルールのいくつかをあきらめました。(だから勝てなくなったりしてるけど)


反対に相撲は移民政策OKというパターン。外人力士を受け入れ、日本ルールを当てはめて育て、生活させます。そして日本のみで存続する、と覚悟する。

海外公演はするけど、国際大会を開こうとは考えません。そうするためには、「土俵は女人禁制」というような相撲界の伝統をあきらめなくてはならなくなります。それが嫌だから日本だけでやる、それもひとつの選択です。


そして野球。日本だけでやる、という覚悟もなく、世界に向けて進出するという努力もしません。

このどちらかが必要なのです。これはビジネスも同じです。世界で戦っていこうとするのか、日本だけでビジネスをしようとするのか。

世界で戦っていくためには、日本固有の経営ルールを捨て、株主価値を最大化するための経営に真剣に取り組む必要があります。

日本だけでビジネスするなら、今まで通りのやり方でいいでしょう。そのかわり大きな夢は持たないことです。世界の○○にはなれません。

どっちでもいいけど、どっちかしかない。ビジネスもスポーツも同じです。

野球は「世界で金メダル」という夢だけを持ちながら、なんの努力もしない。「オレは将来ビッグになる!」とか言って、その実、なんの努力もしないグータラなサラリーマンに似ています。

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もうひとつの問題も透けて見えます。

オリンピックの種目に何が採用されるかといことは、各国のメダル数に直結してますから、開催地の決定ほどとは言わないけど、基本的にはとても政治的な決定です。

野球を広める努力はしていなくても、票を集めるためには、日本は相当の活動(お金のばらまき?)をしているはずだし、票読みだってしていたでしょう。そしてこの結果。これは、日本の「国際討議の下手っぴさ」をまたもや露見させたひとつの例です。


スキーのジャンプ競技のルール変更も全く同じです。日本には、論議を通して自分に有利な結論に導くというスキルが全くありません。そしてこの話もビジネスの世界でも同じなのです。

ISOの各基準も、会計ルールも、BIS基準も、何度も何度も日本企業に不利に改正されています。過去15年くらい、ずううっとそうです。

なぜか? 日本には、国際舞台において論理的に議論できる人が、どの分野にも少なすぎるからです。


こういったルールを検討する国際会議において、一言も発言しない日本代表、もしくは、情緒的な、議論の方法論を全くふまえない発言しかできない日本代表。世界中の異なる価値観の人達をどう説得するかという訓練を一度もつんだことがありません。

下手をすると、英語ができないから、会議の後の懇親会は不参加にして、日本人だけで飲みに行ったりする感じです。そういう場でこそ、各国代表のホンネを探ることができるのに!?

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オリンピックから野球が消えました。でも、この問題は野球界だけの問題ではありません。国際会議できちんとした論理的な議論が英語でできる人を育てるには時間がかかります。

  1. 英語
  2. 論理的議論スキル
  3. ITリタラシー

この3つが、現代の「読み書きそろばん」です。読み書きができなくては、なんもできません。

小学校からきちんと体系だてて教えるべきです。でも・・そもそも、教育界の皆様が、英語も論理的議論方法もITリタラシーも苦手だったりするしね。てか、英語で論理的な議論ができれば、他にもいろんな仕事につけるチャンスがあるしね・・。


世界で英語が国際語となっている最大の理由は、米国と英国が経済的ヘゲモニーを握っていた期間が長い、ということですが、同時に、イギリスはすごい労力をかけて「外国人が英語を勉強するための方法論」を研究し、実験してきました。

「自分たちと違う人に自分たちを理解してもらうための努力」をする、これが私たちに欠けている意識です。


トヨタのすぐれた生産方式を考案し確立したのは、トヨタのエンジニアのみなさんであり、日本人です。

しかし、それを製造業全般に使える方法論として、他国の人が理解できるように理論化、学問化した最大の功労者は、米国の研究者達であり、日本人ではありません。日本の教育内容に何がかけているのか、ちきりんはとても明確だと思っています。


自分と違う価値観や思考の人たちに、自分の主張を明確に伝えることが重要という“意識とスキル”、これなしには、あらゆる分野で同じことが起こるでしょう。


でまた明日〜