Japan=漆器?

ちきりんは漆器好きです。

たまたま手に取った朱塗りのお椀、手触り、口触りがやわらかく、軽いのに存在感があって色の深みもすばらしい。

しかも、使う間に色が変っていく。生きてる器という感じがしてハマりました。

日本橋の老舗の漆器屋さんや、デパートの漆器展、挙げ句になんと輪島市まで二泊三日で買い物にいっちゃいました。下記が購入商品。買いすぎです・・。


輪島塗に関して言うと、一言で言えば“不況”。

バブルの時は屏風、タンス、大座卓など、何百万、何千万円のモノが売れたようですが、今はそんなもん買う人もなく、他の伝統工芸よろしく衰退産業です。


伝統的な漆器の作り方ですが、まずは木地です。いい素材の木を選び、職人さんが手で彫り上げていきます。木の質と職人さんのスキルが問われます。

でも木地は機械で掘ることもできるし、木粉という、木の切りくずを固めたものを機械成形することも可能。手作業でも中国やベトナムでやればドンと安くなります。また、木ではなくプラスティックものもあります。


次に漆を塗りますが、漆自体に国産と中国産があります。漆は、木に傷を付けてしみ出す汁を集めるという時間の掛かる方法で採取するので、人件費の安い国の方が有利です。

また本漆ではなく、カシューとか化学塗料を塗ればぐっと安くなります。まあ、プラスティックに科学塗料を塗ったのでは、もう漆器とは呼べない気もするけど。


漆を塗る際の手間も違います。一回でも色は付くけど、数回重ね塗りすれば深みがでます。塗るのが手作業だと職人のスキルが問われますが、機械でも塗れるし、漆を入れたバケツに浸けて引き上げても塗れます。

また「一度塗ってから乾燥させてまた塗る」場合、自然に乾燥させるか、クーラーで強制的に乾燥させるかによっても手間暇が違います。


最後に絵付けです。螺鈿とか金箔とか装飾もあります。これも職人の手作業で一点物ですが、大量生産ならプリント、というか、機械が書いていきます。


職人が日本で手作りで木地を堀り、日本で採取した本漆を使って自然乾燥させながら何回か塗り重ね、そこに手作業で絵付けをすると、汁碗ひとつでも(コストが)最低1万円くらいにはなります。(各工程の職人さんは分業です)

乾燥などの手間を考えると、全体の流れに数ヶ月かかります。職人さんが“普通に食べていく”だけの手間賃を払っても、お椀ひとつが千円で出来上がったりはしないのです。

つまり、本物の漆の汁碗でおみそ汁を飲むというのは、なかなか簡単にできることではないってこと。5人家族でひとつ2万円のお椀を使うと10万円ですからね。

★★★


ちきりんは「趣味は無駄遣い」みたいな人なんで、輪島で気に入ったのを買ってきました。

すばらしいです。コンビニで買った冷やし中華でさえ、芸術品みたいに美味しく食べられます。デパ地下で買った高級お総菜を盛りつけると、料亭の食卓に仕上がります。

枝豆とか果物、アイスクリームでもいいんです。いつも食べているものが、すばらしく美しくなり、感激しながらご飯が食べられます。

漆器は、フォーク、ナイフが使えないし食器洗い機も使えません。でも、大した手間はかかりません。普通に洗って拭くだけ。日常的に使っていれば大きな手間は不要です。なんだか面倒そう、というのはイメージです。


売り方が下手だよね。と思います。

ハイソやセレブを煽る高級女性誌は、よく洋食器の特集をやっています。

「二十歳の御祝いにマイセンの○○シリーズを揃えられた○○嬢は、お母様からこの度、ヘレンドの○○シリーズを結婚祝いとして譲られました。シャンパンを注ぐのは、婚約者のお母様から送られたバカラのアンティーク、○○シリーズの一品です」てな感じの記事が載ってます。

どれも“本物の”漆器と同じような値段のもので、一式揃えたら数十万円です。ところが、こういう雑誌が漆器の特集をやるのは正月特集くらいです。鶴だの松だのの“おめでた系”のものだけです。

シニアな女性向けの雑誌であれば、もうすこし定期的に特集されていますが、このビジネスを考えれば、どう考えても狙うべきは結婚需要です。

人間、普通の買い物は理性が働きます。

「ほんとにこんなもんいるのか?」とか「妥当な値段か?」とね。そういう常識的経済センスが無視される時ってのは、結婚と葬式の時くらいなんです。そこを狙わないでどうするよ?と思います。

高級洋食器ってのは、そういう売り方をしているわけです、メーカー側が雑誌社にどんどん企画を売り込んで、記事にしているのです。


ところが漆器をふくめ日本の伝統芸能産業では、職人の世界がそのまま残っており、企業として売り込もうという体制がありません。そこにはブランドもないし、マーケティングもないんです。

漆器業界も洋食器業界と同じ体制を確立し、「ハイソなお嬢様が結婚するときには、洋食器に合わせてやっぱり一揃え、きちんとした漆器のシリーズをお持ちになりませんとね、おほほほほー」というトレンドが作れたら、売り上げは大幅に上げられるのにね。


マイセンやヘレンドだって、今でも手作りで作られる職人さんの作品ですが、経営はプロがやってます。だからブランディング、プライシングを始め、きっちりマーケティングしています。

その恩恵は職人さんにも還元されるし、むしろ「ビジネス化によって職人の自由度が守られる」はずなんです。

日本でも陶器の世界では、自然発生的にそういうことが起っている分野もあります。清水焼や有田焼などは、そういう感じです。それでも洋食器メーカーの売り方に比べたら子どもみたいな感じですよね。

というわけで、売り方が下手で「もったいないね」といつも思います。


ではまた明日