投資リスクの種類について

今日は投資リスクの話。

投資にはリスクがあり、自己責任という言葉もよく使われます。中には「投資なんて怖いから一切しない」という人もいたり。

でも火や刃物など、リスクはあるけど使い方によってはとても役立つものが世の中にはたくさんあります。

そういうものの使い方を覚えようと思えば、誰だって怪我ややけどをします。それは避けられない。料理の超巧い人で「包丁で指を切ったことがない」なんて人はいないでしょ。

うまく使えばすごく役立つのに「リスクがあるから一切近寄るな、使うな」なんてもったいないし進歩もありません。

むしろ早い時期に小さな“痛い思い”を積み重ね、少しずつ覚えていくほうがいいでしょう。


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投資の話に戻ると、最近は「リスクとリターンの関係」についてはそこそこ理解されてきたと感じます。

リスクとは「振れ幅」のコトなので、リスクの高い商品とは「大もうけできる可能性と大暴落する可能性をもつ商品」であり、リスクの低い商品とは「儲かる幅も損する幅も少ない商品」だと。

これについてはかなり理解されてきましたよね。だからこそ「リスク無しで儲かる」という話に乗った人が「自己責任」と呼ばれるのです。


一方、「リスクにはいろんな種類があるよね」って話は、まだまだ定着していないかも。

たとえば金融投資のリスクを「有無」で語る言い方=「リスクがある」「ない」という言い方にはすごく違和感があります。

だってすべての金融商品にはリスクがあるんだから。「安全な火」なんてあり得ないのと同じです。


ファイナンスの世界では「国債はリスクフリー」という“置き”(仮定)をすることはありますが、国債に投資すること自体はリスクフリーの行為ではありません。値下がりリスクもデフォルトリスクもあります。

「株は危ないけど預金は安心」みたいに言う人もいるけど、銀行預金だってペイオフ限度額を超えた部分には信用リスクがあるし、インフレリスクも存在します。

つまりすべての投資にはリスクがあるんですが、そのリスクの種類はそれぞれ異なるのです。なので今日はこの「リスクの種類」について整理しておきましょう。


投資に関わるリスクの種類には、

(1) 価格変動リスク
(2) 流動性リスク
(3) 信用リスク
(4) 金利リスク
(5) 為替リスク
(6) プロセスリスク(機関リスク)

(7) レバレッジリスク

があります。


どんな投資にも、これらのリスクが一定の組み合わせで含まれています。

一番わかりやすいのは (1) の価格変動リスクです。

為替や株価など、投資対象物の値段は上がったり下がったり、需給バランスにより大きく変動します。

ちなみに上場株式には「値幅制限」というルールがあり、1日に動く株価の幅が(上昇であれ下落であれ)一定幅に制限されています。

この「ストップ安」「ストップ高」のルールがあるため、株式の場合は「インフルエンザで 1日寝込んでいる間に資産が 100分の 1になった」みたいなことは起こりません。

上場株式というのは、不動産や為替に比べて「価格変動リスク」が少ないのです。


(2) の流動性リスクとは、「売りたいときにすぐ売って現金化できるか、できないか」というリスクです。

流動性が高いのは、銀行預金や米ドルなどの主要通貨、あとは、東証一部で取引される株式などです。これらは「現金化したい」と思えば、当日、もしくは数日後には現金が手にできます。

同じ株式でも地方の取引所だけの取り扱い銘柄では、ごくたまにしか取引が成立しない銘柄もあります。こういう株を買うと、売りたくてもすぐには売れません。

外国債券、未公開株式、地方債や国債の大半も途中換金しようと思った時の流動性は非常に低いです。

さらに流動性リスクが高いのは、不動産や美術品、リゾートホテルやゴルフ場の会員権などです。こういったものは、お金が必要になったときにすぐに売れるとは限りません。

また「森林に投資して、木材を打った代金を分配」とか「牛に投資し、肉牛として売った代金を分配」といった事業系投資商品の多くは、最初から流動性を確保せずに作られているものもたくさんあります。

つまり「買ったが最後、満期までずっと持ち続ける」=現金化はできないということです。

そういう流動性が低い商品を買う場合は、「その商品を売っている金融機関や企業が、投資商品の満期まで倒産せず存在し続けられるのか?」といった点をよく確認して投資する必要があります。


(3) の信用リスクは、お金の受取手=投資先が倒産するリスクです。

AAA とか B+ といった形の格付けが評価してるのはこの「信用リスク」です。

倒産するのは企業だけではなく、国が破産する可能性を表す“カントリーリスク”も、信用リスクです。実際デフォルトする国もたまにありますよね。

銀行預金に関しては、ひとり 1000万円までは国(預金保険機構)が保証しています。また、保証会社がついている場合は、大事なのは「保証をしている人」の信用となります。

あと、信用リスクの高い商品を売るときによく使われる手法が「まとめ売り」です。

まとめて買えば(=ポートフォリオを組んで買えば)すべてがいっせいに倒産する可能性は低いので、信用リスクを抑えながら高いリターンを享受できたりします。


(4) は金利が上がるリスクで、インフレリスクとも言います。

金利が上がると債券モノは価格が下がります。特に長期の商品について影響が大きいです。

たとえば超長期の商品である生命保険、(民間の)年金商品などは、金利動向によってすごく得したり損したりします。

日本は最近ずっとデフレなので、インフレリスクなんてほとんど意識されませんが、以前は「おじいちゃんが若い頃に何十年も掛けていた生命保険が死亡時に支払われた時、その額は数回の外食費にもならなかった」みたいな話もよくありました。


(5) 為替リスクはわかりやすいですね。

ドルやユーロなど外国通貨に直接投資する場合だけでなく、株であれ債券であれ外国通貨建ての商品を買えば、常にこのリスクがあります。

「高金利だ」と考えて海外通貨や海外不動産を買っていたら為替が大きく変動し、いくら金利が高くても大損する、みたいなことはよくあります。

円やドルといった主要通貨の価格は基本シクリカル(上がったり下がったりする)なので、含み損がでても長く持っていればそのうち上がる、みたいなことが起こりますが、

新興国の通貨の中には、ひたすら下がり続けて最後は破綻(通貨切り下げやデフォルト)する通貨もあるので注意です。


(6) のプロセスリスクとは、金融商品の発行や流通に関わる様々な企業の倒産やトラブルによって生じるリスクです。機関リスクと呼んでもいいでしょう。

証券化商品など複雑な商品ほど関係者(関係企業)が増えるので、このリスクは大きくなります。

とくに不動産投信とか抵当証券などには、“聞いたこともないような会社”が商品形成のプロセスに関わっています。

ご存じのように、金融機関というのは普通の会社=事業会社よりかなり厳しく規制・監督されています。

でも一部の金融商品の組成・販売プロセスの中には、金融機関だけではなく、不動産会社など一般の事業会社が入り込んでいることも多いのです。

トラブルが起こりやすいのは、そういった規制や監督の甘い普通の企業が絡む部分です。そういった企業で横領や倒産が起こると、元本が一気に消失したりします。

なので投資をする時は「金融機関以外の企業がそのスキームの中に絡んでいるか」「その会社は本当に信頼できるのか」をよく確認しておく必要があります。


また、複雑な商品の裏には膨大な量の契約条項が存在しますが、よほどでない限りそんなのを全部読んでる投資家はいないし、読んできちんと理解できる一般人もいません。

とくに「普通に考えれば元本保証なんてありえないのに、元本保証をうたってる」ような商品の裏にはものすごく複雑な仕組みがあります。

この「元本リスクがない」というのは (1)の 価格変動りリスクがないという意味ですが、これは「代わりに他のリスクをとっています」ということでもあります。

だって、なんのリスクもとらないとリターンは期待できないのだから。

なので「では元本を保証するために取られているリスクは何か?」を理解せずに買うのは無謀というものです。


最後に (7) レバレッジリスクの話。レバレッジをかけると、リターンもリスクも何倍にも増幅されます。

レバレッジをかけない限り、投資は最大限に損しても「持ち金ゼロ」にしかなりません。マイナスになることはないんです。

でもレバレッジをかけると、投資した額以上に(投資した額の何倍も)損する可能性がでてきます。投資の失敗で自己破産の可能性がでてくるのも、レバレッジをかけた場合のみです。

レバレッジとはテコの原理を利用するということで、信用取引、証拠金取引といった言葉が使われることもあります。

時には 数十倍など、高倍率のレバレッジをかけられる商品もあり、こういった投資では自己資金が突然 100倍になることもあれば、100分の 1になることもあります。いわゆる、ハイリスク・ハイリターンな投資ですね。

また、「借金をして投資する」のも、レバレッジ取引です。

借金をすると、ごく僅かな自己資金で高額な投資を行うことができる一方、投資対象が値下がりしても破綻しても銀行への利子は支払い続ける必要があるため、とてもリスクの高い投資になります。

たとえば「銀行からお金を借りて不動産を買う」というのは典型的な「借金して投資」のパターンですが、多くの人はこれが、
・銀行から超長期で借金する契約 と
・居住用不動産を買う契約
の「別個のふたつの契約」であると意識できていません。


★★★


投資をする際には「この投資にはどのリスクがあるのか?」を分けて意識し、自分はどのリスクは取るけど、どれは取らない、と決めておく必要があります。

リスクの中には「やたら怖い怖いと喧伝されるリスク」と「敢えて触れないようにされているリスク」があります。

たとえば、(1) の価格変動リスクや (3) の信用リスクは必要以上に「危ない危ない」と強調されます。

その一方、 (2) の流動性リスクや (4)のインフレリスク、(6) のプロセスリスクは、ほとんど意識されていないように感じます。


でも私の場合、価格変動リスクや為替リスク、信用リスクはあまり気にしませんが、流動性リスクやプロセスリスク(機関リスク)を取ることはほとんどありません。

売りたいときに売れない可能性のある流動性の低い投資商品、よくわからない会社が絡んでる商品や、複雑な仕組みの商品=プロセスリスクの高い商品には投資する気になれないんです。

値下がりや倒産なんかより、「売りたいときに売れない」商品のほうが「リスクが大きい」と感じるし、「予想もつかない契約条項が隠れてる」商品のほうが、「リスクが大きい」と思えるからです。


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最初に書いたように、たとえ火傷や火事のリスクがあっても、火の使い方を習うことは大事です。

投資をする際は上記に書いたような「リスクの種類」をよく理解した上で、「自分がとれるリスクはどれなのか」を吟味しながら、ちいさな火傷を繰り返しつつ覚えていけばいいんじゃないでしょうか。



それではまた明日〜


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