「逆バリ」と「先読み」

資本主義の国では、給与は「需要と供給」で決まるのが基本です。

たとえば今なら名古屋近隣での派遣社員や期間工は、北海道の同じ職業よりも時給が高いです。これは、名古屋が景気がよく人手不足だからです。


日本全体のハローワークには失業者が溢れていますが、SEの人は今はひっぱりだこです。需要が非常に多いのに、必要なスキルをもった人が少ないからです。

そういえば以前JALの偉いさんが「客室乗務員の給与平均、月14万円」という報道に批判があったことに対して「この報酬レベルでも応募者は殺到している。だから給与を上げる理由は見あたらない」と発言されていました。需要と供給からいえば、まさにその通りなのでしょう。

つまり給与は、仕事の価値や、その仕事をする人のスキルや能力にはあまり関係なく、基本は「需給」で決まるのです。

だから、給与を上げる方法は二つです。


(1)多くの人にはできないスキルを身につける。

ある仕事をやれる人がたくさんいれば、供給(応募者)が増え、会社側は給与をあげる必要性を感じません。労働力は買いたたかれてしまいます。

高い給与を得るためには、他の多くの人にはできないスキルを習得する必要があり、そのためには、周りの人が勉強していることとは異なることを学ぶ必要があります。

けれど世間一般の人と異なる分野に時間やお金を投資して勉強するのは勇気がいることです。

人はどうしても「皆がやっていることを、自分もやっておけば安心だ」と考えがちです。

また、一般に親は本人より保守的で、我が子が皆と同じであることを強く望んでいます。


本当は、皆と同じことをやるのはわざわざ供給過多の海に飛び込むような行為です。けれど一方で、周囲と同じことをやっていれば安心できるのも事実です。

だからこそ“他者と違うことをする”というリスクをとった人だけが、高い給与を手にする可能性を得るのです。これを逆張りといいます。


(2)世の中が求めていることが、できるようになる。

他者ができないスキルをつければいいとはいえ、スイカの種が100メートル飛ばせても高給の仕事は得られません。世の中が求めていないことができても、意味はないのです。

なので、世の中では何が求められているのか、を理解することが重要なのですが、これも簡単ではありません。

現時点で求められているスキルは、既に多くの人が習得を目指しています。供給はすぐに増えてしまうでしょう。

したがって、「将来、世の中では何が求められるか?」を考えて準備する必要があるのですが、これもまたなかなか難しいことです。これを先読みと呼びます。


ちきりんは、起業して30歳で大金持ちになった起業家たちが金銭的に報われることは当然と思います。彼らは逆張りのリスクをとり、先読みして(結果として)当ててきたのです。

モノ作りニッポンを支えてきたメーカーの技術者の仕事の価値は非常に高いでしょう。けれども、需給で考えれば彼らの給与が低いのもまた当たり前です。

彼らは「他の人と違うことをやる」という逆張りリスクをとっていません。「日本の有名大企業の社員になりたい」日本人はたくさんいます。メーカーに限らず日本の大企業の大半は、今より何割か給与をさげたとしても応募者数が減ったりはしないでしょう。

また、これから世の中がどうなっていくのか、したがって将来自分には何が求められるのか、という判断についても、会社員の多くは“辞令”に従い、自分で先読みするのではなく、会社組織の判断に任せてしまっています。

逆張りも先読みもしなければ、給与は払う側の思惑通りにしか動きません。


「逆バリ」のリスクもとらず、また「先読み」の能力もないのに給与をあげるのは難しいです。人と違うことをやり(逆張り)、ここぞと思う分野を自分で選択していく(先読み)ことが必要なのです。



ではでは


http://d.hatena.ne.jp/Chikirin+personal/  http://d.hatena.ne.jp/Chikirin+shop/