カネボウの粉飾決算に関して、旧経営陣と大手監査法人の公認会計士が逮捕されました。
これまで日本企業では、社員が会社のために違法行為に手を染めるのは、必ずしも珍しいことではありませんでした。
談合に業界カルテルにダンピング、監督官庁の官僚接待や総会屋への利益提供・・・これらは「私利私欲のための不正」ではなく、「会社の利益ために社員が違法行為を行う」というタイプの犯罪です。
社員が「自分の利益のために会社のお金を横領する」タイプの不正とは性格が異なるとはいえ、犯罪は犯罪です。
最近でも大手商社、自動車メーカー、メガバンクなど、様々な一流企業がこの手の不祥事を起こし、社員が逮捕、起訴、時には有罪判決を受けています。日本を代表するような大企業にもそういった行為が蔓延していたのです。
昔はこういった(会社のための)犯罪の場合、“運悪く”公になって社員が逮捕されても、会社は一生その社員のめんどうをみるのが慣習でした。形だけ解雇しても、すぐに子会社で再雇用したり、その社員の家族を雇うなどして、最低限の生活に困らないよう配慮していたのです。
しかし最近は内部告発も増えているし、国際的な視線もあって、身内内の甘い処分でお茶を濁すのは次第に難しくなってきました。「会社のためにやった」が通らなくなり、個人の犯罪として個人で責任をとらされるケースも増えています。特に大変なのは、アメリカでの不当取引で有罪になる場合です。
大企業に就職し、海外駐在するのはエリートコースです。ところがアメリカ駐在中にカルテルで訴えられると、日本とはケタ違いの賠償金を負わされ、時には服役も必要になります。会社が賠償金を肩代わりするようなことは株主が許しません。
エリートとして順風満帆の人生を歩んでいた人が、「組織内で業務として毎年引き継がれてきていた不正な事務処理」をたんたんとやっていたら、ある日突然、個人としての責任を問われるのです。
日経ビジネスの「敗軍の将、兵を語る」という人気コラムで、カネボウ最後の社長が、「自分だけが悪いのか?カネボウはずっと粉飾決算をやってきた。前任者になんのお咎めもないのはおかしい。」
「私が社長を引き受ける時には、それを含めて引き継いだ。自分が粉飾決算をしなければ、会社はすぐに倒産していた。社員の生活のためになんとか乗り切ろうとしたのだ」という趣旨のことを書かれていました。
「あんな大変な時に火中の栗を拾う思いで社長を引き受けたのに、なんで俺だけ逮捕されるんだ?」という気持ちはわからなくもありません。でも“アウト”です。
今回、公認会計士は4名が逮捕されました。ずっとお得意様である大企業の決算で、犯罪とも言える巨額の粉飾決算に気がつき、倒産や経営者逮捕につながると理解した上で、「これに適正意見は付けられません」と言うのは、勇気のいることでしょう。それはわかります。わかるけど・・でも逮捕されるときは個人なのです。
(カネボウのケースでは、会計士は粉飾決算の手法をアドバイスしたとされており「見逃した」だけではないので、その罪はより大きなモノです。)
アメリカではエンロンの不正監査問題で、大手会計事務所がひとつ消えてしまいました。当然日本の監督当局もこの事件を意識をした処分をせざるをえないでしょう。
★★★
今この瞬間にも「会社のために不正行為をしている個人」はいるかもしれません。民間企業だけでなく公的機関にも、たとえば検察庁とか裁判所でさえ、そういう行為をしている人がいるかもしれません。
また、これから社会人になる若い方も、そういった事態に直面する日がくるかもしれません。そういう方に、ちきりんは声を大にしていいたいです。「そんな行為を求められたら、できるだけ早くに辞めた方がいい」と。
厳しい労働環境の企業がネット内では「ブラック企業」と呼ばれることがよくありますが、ちきりんに言わせれば、社員個人に違法な行為をさせてまで利益を上げることに疑問を持たない一流企業こそ、まさにブラックな企業だと思います。
問題はある日突然発覚し、会社はあなたを守ってくれなくなります。人生を掛けて会社のために違法行為を続けることはありません。告発する勇気がないなら、静かに離職するだけでもいいのです。
「個人」のモラルが問われる時代です。「会社のために」法を犯し、人生を棒に振るのはやめましょう。
ではまた