自分の子供を想像して仕事を・・

よく、「農家は出荷する野菜と、自分で食べる野菜は別に作っている」という話を聞きますよね。自分で食べる方は、農薬を殆ど使わないで作る、というような話ね。「こんなもん、よく食べるよなあ〜」と言いながら、他人にはその野菜を売る。

マンションの耐震性チェックの数字を偽造した建築士さん・・・この建築士も、そのマンションを自分が買おうとは思わなかったと思う。家族やよく知る人にも勧めないだろう。こんなマンションによく数千万円も出すよなあ〜と言いながら、設計する。

乳幼児が風邪を引いたときに処方されていた薬で、死亡・知的障害などの副作用が起こっていると・・・処方をした医師は、自分の赤ちゃんにはこの薬を絶対に処方しなかっただろうと思います。こんな薬、よく大事な子供に飲ませるよなあ〜といいつつ他人の子供には処方する。

野村の日本戦略ファンドとか、売り出された瞬間から「あほらし」と言うような商品だった。あれを売りまくった営業マンも「よくこんなもん買うよな〜」です。今大人気の変額年金、今後売りまくられる郵便局の投資信託も同じ。売る方は買ってないでしょう。

★★★

ちきりんが何かAという商品を他人に売る商売をやっているとする。それがバシバシ売れていても、ちきりん側(お店側、売る側)が、「よくこんなもんを高い金出して買うよな〜」と思うことは、たくさんあるでしょう。それは、誰であれ、どんな商品であれ、多少はある。皆、自分が専門の商品以外では、「一定程度だまされる」。「一定程度搾取される」。「一定程度余剰利得を売り側に与えている」それは同じ。つーか、この余剰利得分の存在が資本主義の基本。

しかーし、やっぱ、命に関わる商品は、余剰利得はとってもいいけど、そのために安全性犠牲にしちゃいかんのじゃないか、と思うよね、誰でも。マンション、薬、車、飛行機・・・よくこんなモンに乗るよな〜とJALの整備士が言っていたら本当に怖い。

★★★

しかーし、実際には命に関わることでも、命に関わらないことでも、すごい違うレベルで管理やチェックを受けているわけではない。

上の死亡だの知的障害だのを一定の確率で引き起こす「風邪の薬」は、血中濃度などをチェックしながら処方する必要がある、と、「医者向けの薬の説明書」には書いてある。しかし、新聞には「開業医レベルで、そんなのチェックするの無理」とも書いてある。これが本当なら、「チェックできないけど、まあいい。」「仕方ないでしょ」的なことが制度として行われていた、ということです。悪いのは個人ではなく制度だ、と言いたいのでは決してない。悪いのは個人です。そして、制度を作った(作らないで放置していた)個人です。

こういうことは、他の薬でも、薬以外の命に関わるようなものでも、たくさーんある、と思います。JR西日本の事故だって、基本は同じ問題だと思う。

高速道路で事故を起こす運送会社のトラック。彼らの運送スケジュールは、もう、マジで悲惨なスケジュールです。事故を起こさない方が不思議、というような過密スケジュールです。

あのトラックに、自分の子供を安心して同乗させられる、という配送会社も荷物の依頼主も存在しないだろうと思う。「制度として、一定確率で事故が起こる」ような仕組みになっているんです。

でも配送主は、たとえばメーカーとかですが、メーカーの「トラック手配担当者」は、「とにかく安い配送手段を手配しろ」と命じられている。運送会社との値段交渉の場で、ここであと1割値切れば、トラック運転手がどういうスケジュールで運転しなくちゃいけなくなるか、想像できない。想像しない。そして、そういうトラックが増えれば、どこかで誰かが一定の確率で、命を落とす事故に巻き込まれるのだ、という想像力のリンクは、つながらない。

★★★

以前のブログに書きました。本当に皆、そんなに貧乏なのか?むやみに安いものを求めるのはやめよう、と。この国は、要素コストが高いのです。そういうところで、安さを追求したら、必ず質にしわ寄せがくるのだ、ということを理解しようと。

それと、この商品を、サービスを、自分の子供に受けさせられるか?
そういう視点で皆が考えたら・・・

でも、無理??
自分の子供と、顔の見えない他人の子供は違う??

そんなことないよね。皆、個別に想像したら「ああ、こんなことしちゃいけないんだ」と思うはず。一人一人は悪い人ではない。でも、想像力をもって自分のやっていることの作用を具体的に思い起こさせるトレーニングや仕組みが、存在していない。それぞれの仕事は、あまりにも細切れで、自分のやっている仕事の「結果」が見えない。

あの建築士も、偽造したのは、数値だけ。紙に書かれた数字なんです。紙の上で悪さをするのは、罪悪感が限られている。でもそれが、土地になり、建物になり、入居者になり、その入居者の中の家族の愛情の歴史やらであると、もしも想像力がつながったら・・・お金のためにやっちゃいけないことがある、とわかると思う。

怖い世の中です。