腹いせ(逆ギレ?)

「学生の就職人気ランキング(文系)一位は今年もJTB」とかいう調査結果が毎年出てきます。びっくりです。だって旅行業界っていうのは、基本的に「終わってる」業界です。既に業界2位の近畿ツーリストは潰れそうな状況です。数年前から日本旅行と統合だの、JR西日本に買ってもらうだの、統合中止だの、迷走しています。

業界トップのJTBでも、20年前のカネボウと同じ状況です。「だいたい20年後くらいに潰れるんじゃないの」と思われてます。もちろん、20年前にカネボウが潰れると思わなかった人もたくさんいるように、今、JTBが20年後に潰れると思わない人もいます。まあ、未来のことはわかりません。でも、業界常識的に言って、未来のある業界ではありません。


だって旅行業界っていうのは、「手配が必要な旅行費用総額×マージン」が収入です。これを分解してみましょう。


(1)マージン
ネットの旅行者がでてくれば、どんどん下がっていくでしょう。問題はコスト構造からの“下げ余地”です。

大手の旅行代理店は、70〜90年の20年間に相当数の社員を採用しました。70年にジャンボ機が導入され85年のプラザ合意(による円高)で、海外旅行者が急増し、それに対応した大量採用です。「これからは海外旅行の時代!」と思ったのです。

この時期に採用された新人は、今36才〜57才。年功序列で管理職適齢期、給与が高く、終身雇用で首にできない大量の社員です。辞めた後も企業年金を支払わねばなりません。この人たちを養うための「マージン」を稼がなくては、彼らはやっていけません。

同じ商売をHISという会社が始めました。社員の大半は20代。正社員でなくバイトや契約社員も多数います。ネットを利用して効率良く仕事をします。当然、大手旅行代理店より圧倒的に安いマージンで旅行手配をすることが可能です。

そしてネットが出てきました。楽天トラベルなどなどです。HISよりも安いコストで旅行の仲介が可能です。さらに言えば、ホテルや飛行機会社が自社のHPで商品を売り始めます。この場合、代理店マージンはゼロです。アメリカでは既にこういった方法が主流になりつつあります。


もうひとつ。個人旅行が増えて、団体旅行が減っています。「社員旅行」が無くなっちゃった会社多いでしょう。昔は「町内会の旅行」だの「農協の旅行」だのもたくさんありました。

団体旅行は、個人旅行より儲かります。飛行機を手配する手間は一人分でも40人分でも同じです。でも売上は40倍。圧倒的に効率がいいのです。飛行機会社も40人分なら「より安く」飛行機のチケットを売ってくれます。だから利益率もいい。

だけど、これも将来また団体旅行が増えると思っている人は日本にはいないでしょう。というわけで、旅行代理店の収入であるマージンが、これから上昇することは「ありえません」。



(2)手配旅行の総額は?

一時期8兆円を超えていた取扱総額は、昨年6兆円を切っています。だいたい毎年5%、この額が下がっているのです。毎年5%ずつ市場が縮小するビジネスに未来はありません。なんで旅行取扱額が下がっているのか?旅行をする人は増えているようにも思えますよね。


A)まずは、単価が下がっています。大きいのは海外との競争です。沖縄に行くよりハワイの方が安い、金沢に行くより韓国に行く方が安いような状況です。海外との競争が始まると、格安航空券を売りまくる海外航空会社、海外ホテルにひっぱられ、日本の旅館も航空会社も単価を高くできなくなっています。

B)旅行者の数も、平均宿泊日数も、過去5年以上、海外・国内旅行とも、横ばい〜減少傾向です。全く増えてません。しかも、これから日本の人口は減ります。

C)旅行が大好きというヘビーユーザーは、旅行会社をどんどん使わなくなっています。自分でネットを見て手配してしまいます。しかも、あちこちの価格を比較して、格安のところを使います。

ちきりんは、昨年アテネに行った時、ロンドン〜アテネ間の飛行機を、英語の旅行サイトで購入しました。電子チケットです。今までは、こういう「発着地の両方が自分の国ではない」という飛行機チケットを自分で手配する方法はありませんでした。今は英語さえできれば簡単です。

キューバ旅行もネット上でのみ営業している海外の旅行会社で手配しました。日本の会社の半額に近い値段でした。ちきりんは、未だにこの会社がメキシコにあるのか、キューバにあるのか、スペインにあるのかさえ知りません。(どこかスペイン語圏にあるようには思えますが。)

ちきりんのように「やたらと旅行している」人から、JTBなどは一円も稼ぐことができません。

★★★

それでも今まだJTBが残れているのは、「手配コストが他より安い」ことにつきます。同じ旅行を企画しても、その仕入れ代金が圧倒的に安いのです。

地方の旅館が個人には1万円で売っている部屋を、JTBは時に3000円くらいで押さえることができます。なぜなら「JTBは大量に予約を入れてくれるから」です。旅館にとっては「泣く子も黙るJTB様」であり、そのシェアの高さが仕入れコストの安さに直結しています。

この傾向はずっと続くのでしょうか?

大半の旅館は、個別経営だから、自分でサイトを作って、そこからお客さんを呼んで・・というのは難しいです。旅館の人が皆ネットに詳しいわけではありません。それにそんなサイト作っても誰もきません。一年を通して部屋を埋めるためには、JTBが組んでくれるパック旅行の販売力が不可欠なのです。団体旅行の多い頃には特にこれらの旅行代理店の販売力はすさまじいものがありました。


でも、同じような立場だった地方の小売店は、昔はスーパーや百貨店が「仕入れて売ってくれる」ということがない限り、「ご近所」にしかモノが売れなかったのに、楽天がでてきて大きく変わりました。

HPの作り方、ネットでのアピールの仕方なども楽天が丁寧に教えてくれます。そして今までは“神様”だったスーパーやデパートという販売仲介者が自社商品を売ってくれなくても、商品が良ければ全国に直接売ることができるようになったのです。


で?

一昨年、旅の窓口という会社を買収し、楽天トラベルが誕生しました。

まだまだ、旅館はJTBが怖くて楽天に(および、似たようなネット旅行社に)完全には協力できないです。有形無形の圧力があります。「あっそう、おたくは楽天さんを通してお部屋を埋めたいわけね」とJTBに言われて震え上がらない地方旅館はないでしょう。でもね、そんなの時間の問題だと思いません?


お先真っ暗の旅行会社が頼るのが、海外からの旅行客の増加です。しかし、海外からの旅行客が増えても、彼らは既存の旅行会社を使うでしょうか??

海外から手配しようと思えば、ネットが一番便利です。JTBが70年代以降に大量採用したおじさまがたは、ネットや英語がお得意かしら?

海外からの客は2種類に分かれます。欧米から来る人と、中国・韓国から来る人です。欧米から日本なんかにやってくるのは「相当の変わり者」です。あちこち旅行したあげくにアジアや日本に来ています。バスであちこち連れ回される団体旅行が好きな人ではありません。

中国・韓国の人は、一時期の日本人みたいな、JTBが得意とする団体旅行をするでしょう。でも、そういう旅行の手配なら「中国や韓国の旅行会社」の方が、日本の旅行会社より圧倒的に有利でしょう。

旅行するのは日本人ではないのです。そして彼らの中で日本語を流暢に話せる人は、JTBで中国語や韓国語が話せる人より圧倒的に多い。人件費も圧倒的に安い。事務所の家賃も半額以下です。


もう一つの「日本で唯一残された有望市場」は定年退職者の海外旅行です。でも、これもせいぜい5年です。団塊世代が終わったら日本は人口が減るんです。来年からの3年間が団塊世代の定年ピークですが・・・彼らをクルーズにという市場はワンショット市場であって、継続的な市場成長の要因にはならないでしょう。

人口問題は追い打ちとして深刻な問題です。人口が減るだけでなく、JTBなどが得意としていた「中流家庭」は、より早いスピードで少なくなるからです。ニート、無年金者など、海外旅行なんて全くいかない層と、ネットで英語で自ら手配をする旅慣れた旅行者層が増えます。

「新婚旅行と定年後の旅行しか海外にいかない中流のボリュームゾーン」を主要顧客にしていた代理店には厳しい環境です。

というわけで、「大手旅行代理店」なんてのは、今から10年〜15年かけて、ゆっくり消滅していく、破綻していく会社です。今23才でこんなところに就職したら、40才くらいの時に失業するかもです。


ではでは