中高年を守り、ちきりんは泣く

総合旅行代理店(いわゆる大手の旅行代理店)の行く末が、真っ暗という話は昨日書きました。まとめると、

売上側=人口が減ることは確定で、旅行需要は既に頭打ちしており、海外勢を含めた競争激化で単価とマージンが落ち、ヘビーユーザーが代理店より旅の手配について詳しくなってしまっている、という状況の中で、売上が向上する可能性がほぼない。

コスト側=70年代以降に採用した大量の中高年社員と、駅前の高家賃立地に構えた支店が整理できない一方で、若手とネットを使った競合とのコスト競争力の格差は広がるばかり。(支店の整理は、支店長というポストの整理とイコールです。)

という状況下において、業界2位企業までは既に死んでしまった業界。一位のJTBが崩壊するのには、それでもまだ10年以上かかる。これは、旅館がチェーン化していないが故、サプライヤーとJTBの力関係の差がまだ大きく、仕入れコストの圧倒的な安さのため、という話でした。

★★★

(短く書けるなら、短く書けよ、という神の声が・・・)

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さて、こんなことは、ちきりんが解説するまでもなく、当事者が一番よくわかっています。だから、いろいろ手を打っています。彼らは何をやっているか?

まずは採用を最低限まで絞ります。特に正社員ね。新卒採用は一定数続けても、退職者の補充は、バイト、契約、派遣などで補います。そして、中国語のできる日本人ではなく、日本語のできる中国人を雇います。人件費が半分ですむし、定年まで勤めるとは思えないからです。

下請けは、とことん叩きます。前に書きましたが、「添乗員」という商売は、家庭を持つ男性が食べていける給与を払ってもらえないために、大半が親の家に住んでいる女性か、(国内旅行では)奥様バイトです。正社員の給与を払えないのです。なお、添乗員の大半は個人事業者であり、旅行会社社員ではありません。

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奥田さんが言っている「日本経営の神髄である雇用維持が正しかった」という「日本経営の神話」を守るため、大量に余っている中高年社員の雇用を守らなければならないのです。(実際には子会社に出して、ほーんのちょっとだけ給与の上がり方を抑制しています。)

リストラすると経営者は「経営責任をとって退職」しなければならないのが日本です。「自分が引責辞任をしたくない経営者は、リストラをやり渋る」という流れになります。

ちなみに欧米では、リストラをやると経営者の給与はたいていあがります。企業価値を改善したからです。だから経営者はやたらとリストラをやります。どっちがいいとか言う問題ではありません。

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もうひとつ問題があります。これらの中高年社員は、「数が多すぎる」だけでなく「使えない」のです。

旅行業務は、この20年で、中身的にも大きく変わりました。70年代以降に大量採用されたJTBの社員の仕事は、全国津々浦々の旅館を回って、JTBを通して部屋を売るように営業をかけることでした。全国津々浦々の学校を回って修学旅行の、全国津々浦々の農協や郵便局やを回って団体旅行の注文をとることも重要な仕事でした。もちろん企業の社内旅行の営業もです。

学校の校長や教頭、農協の総務部長、旅館のだんなを接待し、よい関係を築くことが仕事、とも言えます。想像してみてください。具体的にどんな仕事か。営業をかける方も掛けられる方も、いずれも男性。そういう時代です。

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ところが、今、旅行代理店で求められるのは、全然違うスキルに変わりつつあります。高度にIT化されたシステムを数年ごとに更新する飛行機会社や鉄道会社に対応しなければなりません。農協や社員旅行はどんどん減りつつあります。代わりにビジネスに忙しい企業が「接待なんかどーでもいいから、メールで旅行手配の受付を24時間やってくれ」と言ってきます。JRの切符は、JR分割により、超複雑化しました。おじさんには全くわからない割引制度がたくさんあります。


学校の修学旅行の行き先は、昔は、
「伊勢の旅館組合がJTB社員を接待→JTB社員が校長と教頭を接待」することにより、「去年も今年も来年も伊勢旅行」だったのです。でも今は、子供を集めるために「修学旅行はディズニーランド・上海・沖縄」と、ユーザーの意見を重視せざるを得なくなってきました。(それがいいかどうかは、よくわかりませんが)。そうなると、各旅行先の長所短所をまとめた資料を“パワーポイント”で作り、“プレゼンテーション”することが求められます。営業おじさんに、です。

旅慣れた個人客からの質問にだって、なかなか答えられません。自分が旅行したことがあるわけではないのです。自分より旅慣れた人がお客様になってしまっているのです。



そんな中で、支店長を含め、出世して重要なポジションに就いているのは、皆「その昔、一番たくさん農協に団体旅行を売った!」実績を誇るおじさんです。



どーすんの?

です。

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しかたないので、今求められる仕事をする人は、賃金の安い人・形で雇わなければなりません。正社員ではない形で。時には日本人でさえありません。その人たちに、全面的に仕事が丸投げされます。教育も、会社に対する一定のコミットメントも育成されないうちに。

そして・・・前線で無責任なオペレーションが行われます。ミスが頻出します。客が怒ります。



そーです、営業おじさんの出番です!!!


なーんの仕事もしてないようなおじさんが、まさに俺の出番とばかり、菓子折持って謝りにきます。そしていいます。「頑張ります。努力します。誠意を持って!」




えーかげんにせーよ、です。


さようなら