ES細胞論文捏造事件

韓国の黄教授によるES細胞論文の捏造。

大事件ではあるけれど、博士論文の数字の捏造自体は、何処の国でも、どこの大学でも、さらに、自然科学にかかわらず社会科学系でも存在するはずです。

日本でも自然科学系での捏造発覚は今までにも例があるし、古墳に自分で土器を埋めて自分で発掘した人もいましたよね。こういうことがあると、研究者という職業全体のモラルが問われてしまいます。


韓国は「自然科学系のノーベル賞を取る!」のが、国をあげての悲願です。韓国のノーベル賞は、金正日氏と握手した金大中大統領の「平和賞」のみで、物理学、化学、医学・生物・生命科学、の自然科学3分野では、まだ受賞がありません。


余談でちょっとノーベル賞について。ノーベル賞には、自然科学の3分野の他、経済学賞、文学賞と平和賞があります。経済学賞は、アメリカのために創成されたような賞です。平和賞は、かなり政治的です。

文学賞は、当たり前ですが英語で書く(か訳される)ことがないと受賞できません。実は、欧米系(アルファベット系)言語以外で、ノーベル文学賞を取っているのは日本だけです。

日本は、アルファベット系の国以外で唯一の先進国なので、欧米の文学者が関心を持ち、本を訳す人がいます。イラク文学に関心を持っている欧米文学者がほとんどいない状態では、イラク人作家は賞はとれないです。



ノーベル財団は、国別の受賞者数を発表していません。そういう競い方をしてほしくないのでしょう。でもデータは手に入ります。国別の受賞者というのは、かなり実質と離れた数字になります。なぜかというと、

・アメリカは圧倒的に受賞者が多いけど、移民や亡命者もたくさんいます。「ノーベル賞がとれるほどの科学者をアメリカ国民として迎え入れる」というのが、米国の移民戦略だからです。なお、この戦略の目的はノーベル賞を増やすことではなく、国防上の理由です。

・オーストリア、スイス、北欧などの、欧州の避難国(=内戦や民族迫害があったときに、研究者が逃げやすい国)もノーベル賞が多くなります。

・「民族別集計ではユダヤ人が一番多いのだ!」と、イスラエルはたびたび「非公式に」主張しています。

・また、旧ソビエトや中国など共産圏は、当時(今も?)画期的な発見があっても、国防上の理由から論文の国際発表を敢えてしない、という戦略をとっていました。だから受賞数が少ないです。


それをふまえた上で、敢えて国別の受賞者数をあげてみると、自然科学3賞の受賞者がいるのは、世界で29ヵ国です。

北米2ヵ国(アメリカ・カナダ)、欧州18ヵ国、南米1ヵ国(アルゼンチン)、アジア4ヵ国(日本、中国、インド、パキスタン)、アフリカ2ヵ国(エジプト、南アフリカ)、中東1ヵ国(イスラエル)とソビエトです。

アメリカは全体の 43%を一国で占めており、次のイギリス、ドイツ、フランスを加えた4ヵ国で受賞数の 76%を占めています。残りの 25%をその他の 25ヵ国で分け合っていて、自然科学 3賞の受賞数ランクでは、日本は世界で 11位で、アジアトップです。ちなみに、9人です。

1949 湯川秀樹 物理学
1965 朝永振一郎 物理学
(1968 川端康成 文学)
1973 江崎玲於奈 物理学
(1974 佐藤栄作 平和)
1981 福井謙一 化学
1987 利根川進 医学生理学
(1994 大江健三郎 文学)
2000 白川英樹 化学
2001 野依良治 化学
2002 小柴昌俊 物理学
2002 田中耕一 化学


★★★


話もどします。韓国にとって、ノーベル賞の自然科学での受賞は、名実共に先進国入りし、科学技術立国であることを世界に示すための「国の悲願」です。


韓国の報道やドラマを見ていると、悲しいくらいに「日本への対抗意識」を感じます。

10年くらい前に、地震で韓国の橋が崩落しました。その時の報道・・「この橋は、我が民族が25年前に造った橋である。日本が植民地支配している時、すなわち70年前に建造した橋は、今回の地震でも崩落していないどころか、びくともしていない。これは何を意味するのか?」みたいな論調でした。

ドラマにでてくる「トレンディドラマ脚本家」は、監督から「日本で流行ってるドラマがあるんだ。そのビデオ見て、新作書いてみてよ」と言われ、「日本のドラマや映画のコピーばかりを書くことを求めないで!視聴率がそんなに大事なの!」と愛国心を発揮します。

最近の新聞の経済記事なんて・・・「トヨタ自動車の幹部が、北米市場での重要なライバルがヒュンダイ自動車であると発言!」ですよ。

トヨタ自動車にライバルと言ってもらえた!と、記事になるのです。きっと高度成長前の日本の新聞でも、「GMがトヨタの動向を注目してると発言!」みたいなことが記事になっていたのでしょう。


今回、最初に黄教授の疑惑(捏造ではなく、不適切な卵子提供について)を報道したマスコミは、「国益をなんと考えている!」という国民の批判を浴びました。日本も「プチナショナリズム」流行りだけれど、ここまで「国を守らなければ!」という感じはないですよね。

だから韓国にとって、サッカーW杯でのアジアトップの成績、韓国ドラマの日本や中国市場の席巻は、ものすごく重要なことであるのです。


そんな中で、黄教授の事件が起こりました。

多くの国民ががっかりしているでしょう。これで黄教授のノーベル賞受賞はありえませんが、韓国の研究者の論文が、今後色眼鏡で見られてしまうことは必至です。道はさらに遠くなったのです。

日本なんて、小柴教授はともかく、田中耕一さんなんて、「だーれも知らない人」でした。

一方の黄教授は、(まだ受賞前なのに!)教科書に顔写真が出て、大韓航空が「ファーストクラス無料乗り放題」を提供していました。そんな扱いは、日本の科学者で受けたことがある人はいないでしょう。彼への期待は、それほど高かったのです。


「とにかく必死だった」中で、事件は起きました。いや(正確には)、発覚しました。


大変でごじゃいます。


ではまた明日