電気用品安全法“とか”

中古電気製品の流通時の検査にかかわる電気用品安全法について。

ちきりんもこんなの知りませんでしたが、5年前にできた法律です。電気製品にJISマークみたいなもの(正確には別のPSEというマーク)をつけるという話。んで、今後、こういうマークが付いてない商品=すなわち、過去に販売された電気製品は、業者は販売できなくなる、というお話です。この施行がこの4月からだそうです。

マークがついてない商品でも使い続けられるし、個人でそれを誰かにあげる、売るってのは可能です。でも、リサイクルショップなどは買い取ってくれなくなります。彼らは「業者」だから、それを引き取っても販売できなくなる、からです。

「俺はすごい困る!!!」という人、いますか?

いや、いるんだけど、これだけ読んでも「何が困るかなあ??」って感じですよね。だって「家電を業者に売る」っていう経験自体が全くない、という人も多いでしょ。ちきりんもないです。引っ越しの時の処分もたいてい友達とかにあげちゃうか、捨てちゃうし。

ところが、これがとても深刻な問題である!という人もいます。「古い」「対象商品」で「中古市場が成立している」場合です。具体的には、テレビゲーム機と楽器らしいです。

ちきりんにはよくわかりませんが、初代ファミコンとかね、ほんのちょっとだけ売られてた3DOとか、こういうゲーム機を売買している店があるわけです。楽器の方はもっと「名器」とか「アンティーク」とかいう意味での愛好家もいる。個人売買は可能としても「業者」が販売市場から撤退すれば、価格の暴落もありうるし、何より「欲しいものが手に入らなくなる」ということになります。

反対サイトなどもたちあがってますので、詳しいことはそちらにお任せしておいて、ちきりんは「ちきりん視点」から少しコメントしてみましょう。

★★★

(1)法律成立から施行まで最低5年もあけている理由は、「周知徹底」と「準備期間付与」のためです。ところが、この対象は「メーカー」のみです。正確に言えば、「日本における」「大きな=大量に販売している」「一般的な家電の」メーカーに対して、経済産業省なり法務省なりは「周知徹底・準備期間付与」をしてきたわけです。

これらの家電の「ユーザー」に向けて、周知徹底がはかられていたか?と言えば、答えはNoでしょう。つーか、やってたとしても「誰も知らない」状態では、結果として全く意味がないですよね。

これで思い出すのは、東京都のゴミ袋の形状が変わった時のこと。これも、「これから黒い普通のゴミ袋は使えなくなりますよ」というのは、行政側は「ゴミ袋を作ってるメーカー」とか「ゴミ収集・処理業者」にのみ周知徹底し猶予期間を与え、消費者にはほとんどなんの広報もしなかった。んで、直前に大騒ぎになって施行が1年かな、遅れました。

ちきりんが変だと思うのは、「行政は常に業者=企業しか見ておらず、消費者、生活者を全く見ていない」ということです。行政が企業だけを見ていればいいのは、まさに「高度成長期モデル」なんです。

今や日本は「消費者サイド経済」の時代。「何を作るか」ではなく「何が求められているか」が先に来る時代。

この変化を、行政は全く理解しない、もしくは、したくないらしい。時代が「消費者サイド発信」に変化しているのに、相変わらず「企業・供給サイド」だけをコントロールしてことをおこそうとする。これが「公務員の仕事に価値がなくなっている」根本原因だということに、いい加減気が付いてほしいもんです。



(2)もうひとつ思うのは、「認定マーク」好きな日本、というお話。JISとかJASとか、ほんとナンにでも付いてますよね。上の法律はPSEっていう新たなマークを作る法律なんですが、この「お上がOKしたという認定マーク」も、いい加減時代遅れです。

これも昔は価値がありました。JISやJASの認定がとれないと売れない→メーカーは必死で品質を高める→いつしか世界で、日本製品は高品質!というブランドが確立された、という流れだったんです。だけど、今は「こんなものまで?」みたいなものにマークがついてます。水道の蛇口見てみてくださいな。

このマークはタダではないです。認定機関には多くの公務員(もしくは、彼らが天下った団体の人)が働いています。認定マークは一種の税金なんです。



(3)別の観点のお話。今も大騒ぎなナショナル製の古いストーブの話。初動処理を間違った松下は、今すごい勢いで回収を進めてます。テレビCM,新聞広告、投げ込み広告、ユーザーへの葉書・・・異常な状況ですよ、これ。いったいいくら費用がかかっているのか?と思います。というかですね、松下は日本を代表する大企業で、かつ、今儲かっています。だからできるんです。これ、小さなメーカーなら「潰れます。」

こんなリスクは企業はとれないでしょう。PL法施行の時もありましたが、企業に一定以上のリスクを背負わせてしまうと、メーカー自体が立ちゆかない、という問題が起こります。んで、今検討されているのは、全製品に「タイマー」を埋め込み、一定期間をすぎたらとまってしまう、という仕組みです。もちろん、とまってしまったら「点検」に出せばまた使えるようになります。

これにより、メーカーは10年も前に売った商品が何らか不具合を起こして訴えられる、処理費用がかかる、というリスクを避けることができます。(一定期間すぎると壊れる商品の多いソニーにひっかけて、これを“ソニータイマー”という人がいます。)

この「一定期間で点検強制」の仕組みで一番有名なのは「日本の車検」です。なんで「日本の」かというと、車検ってのは日本独特の制度だからです。牛も全頭検査だし、日本はとにかく「検査」好きな国なんです。

問題は、この「強制的な検査・認定制度」は誰を守っているのか?ということです。守られているのは消費者なんでしょうか?それとも「変な商品を売ってしまってもリスクが限定される」メーカーなんでしょうか?(1)で書いたことと同じなんですけど、なんだか視点が違う、と思うちきりんです。



(4)さいごに、マークに替わる方法はないのか?というお話。

日本では、皆が皆「国のお墨付き」に頼りすぎ、という状況があるように思います。企業は「認定さえもらえば」「強制検査さえすれば」だし、消費者の方は「誰かが保証しているはず」ということで消費行動がすごく甘くなる。

本当はね、国=法律や認定ではなく、「消費者が見張る」必要があるのです。日本ではこの仕組みが弱すぎる。日本のメーカーだって、米国では国の規制より、有名な消費者調査会社の評価を一番気にして仕事をしています。そういう仕組みも可能なんです。税金使ってマークなんかつけなくても・・そうしたら、増えるのは税金ではなく雇用になるのです。なんで、そっちの方向にいかないの?と思います。

そもそもちきりんは、三菱自動車が倒産しなかったのがとても不思議です。あんな無茶をした企業を市場に残しておこうというのは、どういう判断なんでしょう。新しい軽自動車が売れているという話を聞いて愕然とします。市場が許してくれるなら、企業が市場を見て行動を変えることはないだろう、と思います。



ところで日本の消費者調査系の団体が社会パワーになれない一つの理由は、日本ではこういう団体が皆して左がかってるからです。うさんくさいから信頼が得られない。彼らの姿勢は「利潤をむさぼる大企業を糾弾する」です。そういう視点で「商品調査」をするわけです。

ちがうってば!です。「消費者の利益にならない行動をする企業を市場から閉め出す」という「市場原理」の支援が彼らの役目なんです。180度違ってます。

まったくも〜です。


ではまた明日