ショウジョウバエ

ショウジョウバエって聞いたことありますか?
ありますよね。


ショウジョウバエって、生活の中で見たことありますか?
ないですよね。


私たちは見たこともないショウジョウバエを、なぜ知ってるんでしょう?


ショウジョウバエって、カタカナで書くでしょ。これは実験動物としての表記だからです。人間も“実験動物”としての表記は「ヒト」です。つまり私達は、実験動物としてショウジョウバエを知っているのです。そう、それは理科の教科書に出てくるんです。だからみんな、この不思議な生物の名を知っている。

ショウジョウバエには、生物実験に適した特徴があります。寿命が短く、細胞や遺伝子がシンプル、繁殖が簡単などですね。


「とある物質がある動物にある病気を引き起こす。そしてそれは遺伝する」という仮説があったとしましょう。これを、ヒトみたいな動物で実験するのは(人権うんぬんを除いて考えても)とても大変です。

なぜなら人間の寿命は長いので、例えばちきりんがこの実験に使われたとして、「遺伝するかどうか」は、ちきりんが子供生んで、その子供が成人しないとわかりません。いえ本当は、ちきりんの孫までかかるんです。なぜなら誰で実験しようかな〜と考えた時、「は〜い、ちきりん、やります!」って言っても、ちきりんは実験対象として適していません。

だって、それまで普通に生きてきているわけだから、もしかすると、既に別の理由で、その病気の因子や要素を摂取してしまっているかもしれない。

だから、「ある物質を、実験のために投与するまでの人生において、勝手にその物質を摂取したりはしていない!」と確実に思えるヒトに投与して実験する必要があります。つまり、管理して育てた個体が必要なわけ。すると、

ちきりんの子供を管理して育て、ある特定の物質を投与し病気になるかどうかを見て、んで、その子供(ちきりんの孫)に遺伝するかどうかを見る。ざっと考えて、70年くらいかかります。


しかも人間の細胞、遺伝子はとても複雑。さらに、ある物質を投与すれば「9割のヒトがその病気になる!」と証明するためには、実験個体数も増やす必要がある。

さらにちきりんが不妊症だったり、その子供が不妊症だったり、という可能性もある。トラブルで、別の要因で実験個体が若くして死亡する可能性もある。70年かけた実験の55年目くらいで実験個体が死んじゃったら・・・泣けるっしょ。


★★★


ということで、医学的な実験、生物を使った実験は、本当に大変。だからショウジョウバエが出てくるわけです。

もちろんショウジョウバエで実験が成功しても、それで終わりじゃない。ショウジョウバエで成功→もう少し複雑な動物で成功→中略→マウスで実験→ラットで実験→サルで実験→人間で??というプロセス。

大変でしょ〜!? 


「この病気は遺伝する」とか「あの物質がこういう病気を引き起こす」とかを、ピュアに科学的に証明するのは、本当に大変。こういう実験をするためには、大量の実験動物が必要となります。しかも、市場から買ってくればよいわけではない。上に書いたように「管理して育てた個体」が大量に必要。

つまり、生物、バイオ、遺伝子工学の進歩のためには、大量のショウジョウバエ、カエル、マウス、ラット、豚、牛、サル等々を・・・「管理して飼育する」という仕事が必要、ってことです。


こういう実験、研究を行っている大学の研究室。最初の「仮説を立てる」部分は頭を使うけど、手間的に大変なのは、実験動物を大量に管理して飼育することなんです。それがないと実験できない。論文にならない。


んで・・・何が行われているかというと、東大とか京大とか筑波大学とか・・・国が大量の予算をぶちこんだ大学の研究室において、もくもくと、もくもくもくもくと、もくもくもくもくもくもくと、毎日、ショウジョウバエやマウスやラットやカエルの世話をしている人たちが存在するのです。

彼らには、休日も正月休みもありません。もちろん何人かで分担はしますが、基本的に365日、毎日マウス(ねずみ)に餌と水をやり、寝床を掃除して・・・という作業をする。雨の日も風の日も台風の日も大雪の日も・・・


これ、誰がやっているの??


「大学院生」です。修士の学生さんです。東大とか京大とかの・・・


まじ?

って思いません??そういうヒト、もとい、人って、日本の知性の卵なんじゃないの?すごく優秀な人なんじゃないの? しかも、彼らの学費&研究費の多くはなんらかの形での税金でしょ??

でも、お仕事は「ねずみ(ネズミ)の世話」です。


なんか、壮大に無駄なことが行われているような気がしませんか?

でも、今は大御所の教授も、自分が大学院生だった頃はそれをやっていた。だから誰も疑問を感じない。相撲部屋の下働きみたいなもんです。

解決方法は、ないことはないわけです。きちんとした「実験ラット育成機関」を人件費の安い国に作り、きちんと管理し、日々の作業はその国の人にやってもらう。普通の製造業がやっているのと同じです。そういう仕組みを作れば、優秀な人の人生を何年も「ネズミの世話」に費やす必要もないし、実験だってどんどんスピードアップできる。

でもそういう話はなかなか実現しない。


★★★

バイオやら遺伝子工学やらの仮説をたて、実験方法を考える部分は科学者、「サイエンティスト」の仕事です。「研究者」の仕事です。

ただし、研究を効率的に進め、短期間で高い成果を上げるには、「マネジメント」もとても重要。ところが日本では、技術分野にプロのマネジメントをいれないという伝統?が強くあります。

病院だって同じ。日本では法律により、病院長は医者である必要があります。そりゃあ病院の大半が赤字になるよね。彼らは医学のプロであって、病院経営のプロではありません。


研究組織の経営を、研究者が「見よう見まねで」やっている。彼らにとっては、研究の方が経営より優先順位が高いし、そもそも経営なんて学んだことも関心をもったこともありません

今やどんな技術系の製造業の会社でも、成功している企業には、かならず優れた経営者がいます。日産の悲劇と、ゴーン氏の役割をみればよくわかることです。トヨタの奥田さんもGEのジャックウエルチ氏も、IBMのガースナー氏も、技術者としてのキャリアはほとんどありませんよね。そういう人が「技術の会社」を成功させているわけです。


なーんで、日本の研究機関はいつまでも「研究者が見よう見まねで」経営を続けるのでしょう。多大な知性と、若者の青春と、働き盛りの研究者の時間を無駄に浪費しながら。

多くの研究者が、研究とは本来関係のない事務仕事に忙殺され、疲弊しています。それは教授になっても変わらない。上にいけば、予算を獲得するための書類作成、組織や構成員の管理業務、中間の人たちは、様々な会議の運営や事務資料の作成。若い人たちはネズミの世話・・・それがアホらしくて、この世界から出てしまう人もいます。


なんだか、もったいない話よね。

「真理を追究する」という科学者の仕事と、「生産性をあげる」という経営者の仕事は、それぞれを専門として勉強・訓練した、別の人が担当した方がいいんでないの?と。思ったりします。



また明日。