フランスの新雇用関係法のお話。「26才以下で雇用年数の短い人たちを、理由の如何をとわず解雇できる」というのが、今回検討されている法律です。なかなかにおもしろい法律だと思う。
日本もですが、「解雇が難しいから雇わない」という流れがある。解雇が難しいから、解雇しやすいパートとか派遣社員しか雇わない。派遣社員なんて、時給だけでいえば新人を正式雇用するより高い場合もある。でも解雇は圧倒的に楽チンだ。だから少々費用が高くても企業は非正規雇用を好む。
中国でも「正社員の待遇改善が進みすぎちゃったので正社員を雇わない」という流れがでている。これも構造は同じ。中国も給与以外のコストが極めて重い。日本では大企業の人件費総額は給与の倍、とよく言われるけど、中国だとおそらく給与の3倍くらいになると思う。年収100万円の人雇うのに300万円くらいかかるらしいです。
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ところで解雇にはふたつの理由があり得る。
(1)本人が能力がないから、解雇する。
(2)会社が雇い続ける余裕がないから、解雇する。
(1)の場合は、会社がどんなに儲かっていても、「ダメな奴は切る」ということです。(2)は、どんなにダメな社員でも「利益がでている会社は解雇しちゃだめ」です。でも、会社がつぶれそうになったら「ちゃんと仕事している社員も含め、解雇してOK」ということです。
この二つは、全く異なる議論だ。アメリカは(1)も(2)もアリなんだけど、日本はじめ社会主義的な制度の国では(1)で解雇するのは非常に難しい。
日本は(2)もかなりぎりぎりまでやらせてもらえない。だから、会社の体力が非常に弱くなる。経営が苦しくなってもすぐには解雇できない。で、最後の最後に倒産して一気に大量の人が職を失う羽目に陥る。
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次に誰が解雇されやすいか、とうい問題。
アメリカの工場などで、(2)の理由でリストラをやる場合、労使協定に「雇用期間の短い人から切る」というルールがあることが多い。つまり、長期に働いていれば首を切られる可能性が低い。就職したばかりの人がまず首を切られる。次の仕事を探す、また(年数が短いという理由で)数年後に首を切られる・・・悪循環が起こりますよね。
欧州もそういうのが多い。だから欧米では失業と言えば若年者失業の問題だ。今回のフランスの法律は、その若年者層の失業問題を、完全なる企業目線で解決しようとした案と言える。
一方の日本では、今までは「失業問題といえば、中高年問題」と捉えられることが多かった。なぜなら、上記(2)の理由で解雇(リストラ)をやる場合、たいてい「人件費負担の重い層」を切る。中高年狙い打ちで、「年齢45歳以上の希望退職者を募る」というようなパターンが多い。
これは若年者なんかリストラしても給与が安いから、リストラ効果が出にくい。給与の高い人を先に切る方が「効率的」なのだ。これは、年功序列給与制度を持つ日本ならではの発想だ。欧米では、年功序列賃金は一般的ではない。工場でテレビ組み立てている人は、20才でも50才でも「同じ仕事をしている」から基本は同じ賃金だ。であれば、誰を切ってもリストラ効果(削減できる人件費)は同一だから、誰をまず切るか?という時に、「最近入ったばっかりでスキルのない奴を切ろう」という話になる。
日本は、「全く同じ仕事をしていても」20才の人より50才の人は給与が高い。下手したら倍くらいもらっている。だから「給与の高い層を切る」という話になる。
日本では「年をとっているという理由だけで給与が上がる仕組みだから、経済合理性よりも優遇されている中高年がリストラ対象にされる」わけです。
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話がずれましたね。ホントは、「解雇しやすくしたら、正規雇用が増えるのだ」というのは本当か?ってのが考えたかった。
今回のフランスでデモをしている人たち。彼らが、
A「解雇しやすくしたら、正規雇用が増えるというのは嘘だ」ということで反対しているのか、
B「解雇しやすくしたら、正規雇用が増えるというのは本当だと思うが、それでは雇用されても安定性がないからイヤだ」という理由で反対しているのか。
Aなのか、Bなのか? これが、ちきりんの知りたいことなんだけどね。フランス語のサイトも読めないしよくわかりません。
Bの場合は実は能力のある人は問題ないです。
「新規の雇用機会」×「継続雇用」=「雇用の総量」
と考えると、
能力の高い人は「新規の雇用機会」が増えたら嬉しい。継続雇用は自分の能力で確保できるからです。
しかし、能力が低いと「継続雇用」が保証されることの方が重要だ。新規雇用の機会だけ増えても、より首になりやすくなる今回の法律は、全くメリットがない。
結局・・・「新規雇用」を増やす策、というのは、余り意味がない、ということかな、と思う。「継続雇用」が維持される方法を考える方が大事なんだよね、失業問題というのは。
そしてそれは、企業側がどんどん成長して継続的に「雇うキャパ」を増やしていくか、個人視線でみれば、どんどん能力開発がなされていって生産性の高い人材になるか、しか方法はないってことだと思う。
そういうことで。
また明日。