高等遊民

「高等遊民」って、夏目漱石の造語だそうです。この言葉、とても好きです。イメージとしては、スナフキンか?ちきりんはスナフキンも好きです。

オーバードクターの人も、親でも政府でもパトロンでも、篤志家の出資者がいればいいわけで、本当は、「二極化」というか、「階級社会」に戻れば、「気に入った芸術家と、天体研究家をひとりずつ養ってる」とか「息子10人のうち、ひとりは自由にさせてる」みたいな資産家が現れるかもしれません。

って、そんな非現実的なことを・・・

★★★

さて、この話題そろそろ終わりにしたいので、最初に書こうと思ったことに戻って終わりにしたいと思います。

ちきりんがよく相談を受けるのは、「研究にはこだわらないから、社会人として給与を得られる立場になりたい」という方から、もしくは、そういう方を支援している立場の方から、です。

ちきりんはアカデミックの世界にも研究にも無縁です。民間の普通の仕事をしています。ですが、仕事を通じてこういう方と会う機会が多く、その中には、「ちなみに・・・民間企業はどういう人を求めているんでしょう?」とか、「博士って、採用されないんでしょうか」とか、聞いてこられる方もあります。んで、相談にのったりしているうちに、いろいろ考え、今回のブログとなったわけです。

ですが、最初に書きたかったのは、この問題自体ではなく、「民間就職したいんですけど」という方へのアドバイスです。だって、個別に本人を目の前にしていると・・・やっぱちょっと言いにくいことが多すぎです。だから、ブログにでも書いておくか、と。縁があればご覧になるでしょう、と。それがいつの間にか4回連続に・・・ああ、長すぎる。

というわけで、そろそろ終わりにしたいので、それだけ書いておわりにします。


なお、念のため書いときますと、ちきりんはアカポスやポスドクなどの研究職の獲得方法は知りません。あくまで「研究者以外の仕事を得たい」と「決めた方」へのアドバイスです。「まだ、決めてない」「迷っている」方も「想定外」です。「僕はどうすればいいんでしょう」とか言われても困ります。人生相談はできないです。

(中等教育の教師も別とします。あくまで「民間企業就職」希望の方向けです。&、下記はすべて、ちきりんの「独断と偏見」に基づく考えです。)



題して「博士の民間就職」指南マニュアル!!



(1)履歴書

相談にのっていて、まず「むむむ」と思うのが履歴書です。10枚もの紙に、論文や著作要旨、学会発表の記録が、しかも日英併記で・・・このタイプの履歴書、正直言って当惑します。

企業側はこう思います。「この人は、アカポス向きだな」って。「企業社会で、履歴書といえばどういうものかを知らないか、知る気もないか、知っているがプライドが邪魔して書けないんだな」って、思います。履歴書で落とされている人の一部は、その内容ではなく、フォーマットで落ちてる、と思います。

どこかの大学のアカポスに応募する時、市販の履歴書を送ったら、教授(会)がどれくらい当惑するか想像してください。それくらい「違う」感じです。


(2)「売り」

「私は専門分野以外は何も知らないし、研究以外は何もできないのですが・・・」とおっしゃる方がいらっしゃいますが、そんな弱気なことでは、職は見つかりません!!


世の中は「自信をもっている人」を求めているんだから。



たとえば、
・統計の知識&スキル
・社会調査スキル&経験
・実験スキル(電気系、機械系、生物系、薬品混ぜ混ぜ系など)
・大型コンピュータースキル
・数学知識(計量系)
・文章力、表現力
・英語!
・プレゼンスキル


などの「研究の付随スキル」は、民間でもとても役立ちます。
学士の新卒学生では全く期待できないスキルなんです。どーしてそれを売りにしないの?と思います。研究内容ではなく、付随スキルを売りにすることに躊躇される気持ちはわかります。でも、「民間企業就職したいんなら・・・」です。


反対に、やめた方がいい、と思うのは「論理的な思考力があります!」っていうアピールです。百害あって一利なし、です。

「論理的思考力」=頭でっかち、理屈っぽい、手足が動かない というのが、企業側のイメージです。

博士号をもっているのだから、「とても非論理的かも?」とは誰も思いません。そんなことわざわざ言わなくてもいいです。


(3)仕事の種類
シンクタンクや財団法人、(公的部門の)外郭団体での研究職、理系の場合だと、加えてメーカーの中央研究所か開発職くらいまでしか視野に入れてない人が多いように思います。

もっと広く考えてよいと思います。商社、投資銀行(証券会社)、PEやベンチャーキャピタル、メディア、教育産業、人材斡旋業界、大学にモノやサービスを売っている各種企業・・・長くなるので詳しくは書きませんが、結構幅広くチャンスはあると思います。自分から道を狭める必要はありません。

あと、「英語コミュニケーション」力は、つけておくと、とても有利です。外資系企業への門戸が開かれるからです。昨日書いたように、「博士」の価値は日本より海外の方が高いです。変な偏見も少ないです。


(4)採用されない理由
ちきりんの経験では、(学位にかかわらず、応募者が民間企業に)採用されない理由は、
・能力、適性・・・33%
・タイミング・・・33%
・マッチング・・・33%
です。落ちる理由の3分の2は、能力や適性ではありません。(反対もしかり。採用されたのは「有能だから」ではない場合が大半です。)

能力向上より、「機を見て」「トライ&エラー」の方が大事です。「機を見る」ことができれば、試行錯誤の回数が少なくてすみますが、全然そのセンスが無くても、とりあえず、落ちた理由が上のどれなのかだけ、聞いておけば、再チャレンジに意味があるかどうかは判断できます。



まあ、大事なことから書くとこんな感じ。他にもいろいろあるんですが、これ以上詳しく書いても、「誰のためになるねん?」って気がしてきたので、もうやめます。

皆様の健闘をお祈り致します。はい。景気もよくなってきたし。