利益を出すCSR

最近、「酔っぱらい運転を黙認していた運送会社」の摘発が相次いでいます。前に書きましたが(http://d.hatena.ne.jp/Chikirin/20060326)ここを押さえないと、無駄な命を落とす人の数は減らせない。なによりです。

が、もう一歩踏み込んでほしい。仕入れる原材料が「合法的に作られたか」、捨てたモノが「合法的に産廃処理されたか」に責任をとわれつつある「大メーカー」に、「自社製品が合法的に運ばれたか」の責任も問うべき。ここに責任を負わせればなんとかなるのです。一番力が強いのだから。


「マーケティングが売上を生み」「ロジスティックスが利益を生む」。ビジネスの現場でよく言われる言葉です。利益を生むロジスティックスは徹底的なコストダウンを求められます。それが超過密スケジュールで仮眠時間も確保できずに運転することを迫られるドライバーを生んでいます。で、寝不足のまま高速を深夜にぶっとばすトラックに殺される人が沢山いる。こんなことを放置しておいてCSRとか言って欲しくない。


CSR*1という言葉はここ数年すごく「流行って」ます。企業の社会的責任と訳されます。


「我が社は環境に配慮しています」
「我が社の製品には農薬が使われていません。動物実験をしていません」
「我が社は恵まれない国と災害被災地にこれだけの寄付をしました!」
「社員の名刺は再生紙で作られています」と。


まあ、それもいいんだけどね。ちきりんが思う企業の社会責任として、やるべきと思うことを列挙しておきましょう。

★★★

(1)社員にきちんと「有給休暇」を取得させてください。有休にとどまらず「法律上、就業規則上、認められている休暇」をキチンととらせてください。出産休暇はもちろん、男性も含めて育児休暇や介護休暇を「実質的に」とれるようにしてください。

精神を病むような社員が減り、少子化を少しでも止めること、社会的入院を減らすことは、企業にとっても長期的にはメリットがあるはず。長い視点で社会に貢献すべきです。新しいことをしなくていいです。するべきと決まっていることを、きちんとやってください。

社員の有休取得率が50%を切るような企業が、いくら「農薬をつかわず」「動物実験をせず」「エコに配慮していても」ちきりんは、信じない。あなたがやっているのは、マーケティングであって、社会責任活動ではありません。
(この有休取得率も、基幹職の(事実上はほぼ)男性だけで計算してね!と追加しておきましょう。)


(2)長期的に雇っている派遣や契約社員を「正社員」にしなさい。その代わり「できない社員をクビにできる」ようにもすべきだ。いったん正社員の座を手に入れたら、罪でも犯さない限り(どんなに仕事ができなくても)クビにならない。一方で、どんなに頑張っても、契約社員は常に不安定な立場のまま。これが「公平」か?「社会的に責任のある態度か?」

経営者は「企業には雇用を守る社会的責任がある」と言います。それはイコール「正社員をクビにしないこと」のようです。正社員をクビにしないことが、社会的責任なのではありません。きちんとした成果を出している人(頑張っている人ではありません、誤解のないように)に、きちんと報いることが「雇用を守る社会的責任」です。都合のよい「読替え」をしないでください。


(3)談合を止めてください。特に「官公庁需要」に対して。
官公庁の需要(公共事業の他、日常の商品の納入に関しても)は巨額です。談合をすれば、企業は「高い値段で納入」でき、利益が大きくなる。官公庁で働いている人って全然スキルがないし、また、自分の懐が痛むわけではないので、すごい高い値段でモノを買ってくれます。

これね〜、企業ってほんと「天つば」やってると思うよ。官公庁が払ってくれるお金で利益がでるけど、それ税金なんだから、まわりまわって企業や社員が払うべき税金が高くなってんだよ??いーかげんにしてよね〜。


(4)税金払いなさい。
銀行は赤字の間、ぜーんぜん税金払ってなかったし、商社も一時期、国内では全く税金払ってなかった。誰でも知っているそんな大企業が全く税金納めない、って変じゃない?石原都知事が訴えられるような税金を課そうとした気持ちもわかるよ。中小企業、自営業の人も同じです。

大企業の経理部って、利益がでると「今年の利益が高くなりすぎます。今年度中にこれとこれを買いましょう」みたいなことやるんだよね。海外との取引とか、それこそ投資ファンドとか海外口座とか、何もかも駆使して。大半は合法的とはいえ、法律の穴をついて、そういうことができる大企業だけが納税を逃れるのって、おかしくないか?

★★★

以上です。とりあえず、この(1)〜(4)をやってから「エコ」とか「環境」とか言ってくれ。まずは最低限の「社会責任」を果たしてからえらそーなこと言ってください。



「そんなこと言っても中小企業には無理。ぎりぎりでやっているのだから」・・・はい、そーですね。わかります。だから、大企業がやってください。十分利益でてるでしょ?大企業は今、やるべきことをやらず、その分を社員と株主で山分けにしている、だから二極化が起こるのだよ。大企業はちゃんとやりなさい。東証はこういう社会的責任を負わない企業を上場させるな!


CSRは、今やある意味でとても「パワフルなマーケティングツール」です。企業ブランドの確立のツールとして使われています。だから、「一般受けする」「耳あたりのよい」ことばかり注目される。つまり「利益のためのCSR」になっている。「あの企業は環境に配慮しているから、あの会社の商品を買う」という消費者がいるのです。



話変わるけど、イタリアのアパレル商品って、すごく色がきれいで、布地も肌触りがよいでしょう?あれは、他の国には真似できません。イタリアでは、他の国で「使用が禁止されている」多くの有害な染料や溶剤が禁止されていません。国の大事な産業であるアパレル産業を保護するためです。

ベネトンの広告はいつもとても衝撃的です。黒人の男性が白人の女性(恋人)にキスしている写真をポスターに使う。アメリカの保守層などの中には、「娘にはベネトンを絶対に着させない」と言う人もいます。そういう批判をものともせず、人種差別に立ち向かうベネトン。「社会的貢献企業」です。が、有害な化学物質の使用規制が弱い国だけで、製品を作っています。



またもや偏見と独断で断言しましょう。

「世界規模でビジネスを展開し、儲かっている企業」に、本当の意味で「エコ」な企業なんてありません。

そういうことを守っていて成り立つのは、小さな規模(一定の地域だけで商売できる規模)か、利益でてないか、です。一店舗だけでやってるパン屋が「一切、環境に悪いことはやってない」ってのは信じていいです。アメリカにもイギリスにも日本にも商品があったら、「見えてないだけ」。


「CSRを守っている企業の株を集めた投資信託」のエコファンドとかいうのがあるんですけど、「大笑い」です。(ただし、騙される人がおおければ投資収益は悪くないかも、ですが。)


利益のためじゃなく、本当に社会的な責任を果たす気があるなら、ちょっと視点を変えて欲しい。そー思います。



ではまた明日



★★★

*1:Corporate Social Responsibility