終電だ!

「終電が出る時刻」という概念をご存知でしょうか。

これは、「有権者のうち、 50才以上の人が占める割合が半数を超える時」を指し、この時を境に「財政改革ができなくなる」と言われています。

50才以上の人たちは多くの場合、給付を受ける側になるなので、この層が過半数に達すると
「将来の世代に借金を残してでも、自分たちへの給付を手あつくしてほしい」という声も過半数に達する。

そうすると年金や医療保険を含め、財政再建ができなくなる、というわけ。


IMFがこの終電発車時刻をいくつかの国別に算出しています。

アメリカやドイツ、フランスでは 2015年当たりでにこの“終電”が出てしまいます。

イギリスだけはかなり余裕があり、終電は 2040年の予定です。(→ IMFのデータ )

その表には日本が乗っていなかったので、人口データをみて日本について計算してみると、なんと日本では 2005年の段階で既に「終電がでてしまった後」でした・・。(日本では 2005年には既に 52%が 50歳以上、データはこちら


そーだったのね・・・

「いや、終電は 60才以上の有権者が過半を超える時だ!」という意見もあるのでしょうが、それでさえ日本は安心できないようです。

「高齢者の全員が自分のことしか考えない!」とは思わないけど、投票率の差もあわせて考えると、確かに“ 60才以上が有権者の 6割”になったら、

「年金の給付を大幅カットして、保険料を低くしよう!」という話は選挙受けしなくなりますよね。どの政党もそんなことは言わなく(言えなく)なります。

この話を聞いて、初めて私は「選挙権を 18才から認める」という政策の意味がわかりました。

若い人に選挙権を与えることが唯一、終電時刻を遅らせる方法として残っている方法なのです。


★★★

さて、では何で若い世代は選挙に行かないのか? 

20代とか 30代の人って選挙に行かないから、自分たちの世代の意見が全く通らなくなってしまう。

私が関心をもったのは「世代別投票率の格差の変化」です。

若い人の投票率が低いのは、今に始まった話ではないはず。

そもそも仕事に遊びに忙しい世代の投票率が低いのは、いつの時代だって当然です。

ただ、それが昔よりひどくなっているのかどうかに関心があったのですが、下記がそのデータです↓

http://www.akaruisenkyo.or.jp/070various/071syugi/693/


これによれば、やはりもともと 20代の人の投票率は低いのですが、昭和 58年( 1983年)から 20代の投票率だけが劇的に下がっています。そして、その後 10年遅れて 30代も下がり始めます。これらは同じ世代の人です。

この政治に関心をもたなくなった最初の世代は、「学生運動が終わった後に大学に入学した世代」なんだよね。

1970年代の前半が“学生や大学が政治に深くかかわっていた最後の時代”ですから、それが終わった後、急速に若者が政治に関心を失ったことがよくわかります。


では政治に関心をもてなくなった若者は何によって自分達の問題解決を図ろうとしているか。

昔は「デモで世の中を変えよう」という感じでしたが、今はどっちかというと「個人で努力&工夫をして難局を乗り越えよう」という感じになっているようです。

たとえば、貯金や財テクに熱心な人が増えているし、また、昔は子供を生んでから「貧しいから大学にはやれない」という順番で考えますが、今は「大学にやれる経済力がないから子供を生まない」に変わってきています。

つまり、「大変だから政治を変えて生き易い世の中を作ろう!」ではなく、「(自分の行動を変えて)自己防衛しよう!」に変わってきたんです。

★★★


1990年を境として戦後以来続いた日本の“右肩上がりの世界”は終わってしまいました。
「未来を明るいと思う時代」から「未来は暗いと思う時代」に変わったわけです。

そんななかで「有権者の 7割が 50才以上」とかになったら、日本は確実に手足を縛られるでしょう。

長期的に日本をどうすべきかという根本的な改革を唱えたり、若い人向けの政策を打ち出して(選挙に勝ち)政権をとるのはとても難しくなるからです。


ただ、終電発車時刻説が成り立つにはもうひとつ前提が必要であって、それは、「有権者の大半は自分の利益を最優先する」という前提です。これは本当に正しいのか?

私は空想的な人間ではないので、「自分のことより社会の利益を優先する人が大半だ」などと言う気はありません。

しかし、自分のことより(自分の)子供のことを優先して考える親は山ほどいます。

高齢者はお金持ちです。「自分の保険料はあがっても、子供=孫の教育費は下げて欲しい」と思う人もいるでしょう。

つまり、国全体での将来は考えなくても、「自分ちの次の世代」のことは考える人も多いはず。

実際、ニートやフリーターを息子・娘として抱えていれば、そういう若者を切り捨てて高齢者の福祉をあつくする政策を、必ずしも自分が高齢者だからといって支持するわけではないように思います。


となると「最終深夜バス発車時刻」ってのもあるんじゃないか、と思います。

それは「子供を持たない50才以上の有権者が、全体の○割を超える時」です。

最近の日本では未婚率が急速に高まり、子供をもたない人も増えています。

そんな人が増えれば、まさに「遠い将来より自分の老後」という判断になってしまいます。


そんなのまだ当面こないよ!という人もいるでしょう。

確かに日本全体ではすぐにそんな時代にはなりません。

しかし未婚率が高く子供を持たない夫婦の比率が高い特定の地域において、有権者数ではなく実際の投票率を加味した上の数字であれば、非現実的な事態でもありません。

子供もいなくて、自分が 50才超えたら・・・やっぱり誰もが「自分の(老後の生活の)ための政策」を求めるでしょう?

少なくとも、民主主義の大原則(世にも野蛮なる意思決定方法)である「多数決」に基づいた意思決定は、その方向に進むと思います。


ちょっと怖くなっちゃいます・・



ではまた明日


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